2009年2月20日金曜日

「センサー」 パートス


原題:「Sensor」


Timelossタイムロス」収録




 石 - わたしの胸の中に
 ぐちゃぐちゃの状態で生まれた石
 最後の安息に向っていた時に

 わたしはわたし自身を眠らせる
 ゆっくりと夢から走り出し
 失望し 幻滅しながら 這い進む 
 
 あなたはわたしを 苦もなく見つけ出すでしょう
 その時、わたしは微笑んでいるかしら?
 あなたの名前を決してわからないだろうと思うと とても残念だわ



 Stone - Heavy in my chest
 Born in a state of mess
 As I hurry to my final rest

 I put myself to sleep
 Slowly running from my dreams
 Disappointed, disillusioned creep

 You'll find me without pain

 I wonder - will I smile?
 It's a shame I'll never know your name
 

【解説】
「セ ンサー」(原題:Sensor)は、英語のpathos(悲哀)を意味するパートス(Paatos)のデビューアルバム「TIMELOSS」(邦題:「タ イムロス」)、冒頭の曲である。スウェーデン出身の女性ボーカルをフロントにプログレッシヴな音楽を演奏するバンドだ。

サウンドは物憂くけだるい面と、繊細な面と、暴力的な荒々しさが同居する振幅の激しいもの。しかしそれらをペテロネラ・ニッテルマルム(Petronella Nettermalm)の美しいが陰りのある線の細いボーカルが、ひとつの世界へとつなぎ止めていく。

曲 はエレクトリック・ピアノとパーカッションによる心地よいラウンジ・ミュージック的な音楽でオシャレ風に始まる。かと思いきやエレキギターが入るところか ら曲調は一転し、ボーカルが激しいドラムとメロトロンをバックに力強く歌い始める。そしてほぼ一気に上記の歌詞を歌い切る。

曲調は激しいが、歌詞の内容は非常に“死”のイメージが濃厚だ。「最後の安息(final rest)」に向けて急いでいる「わたし」はぐちゃぐちゃの状態でずっしりと重い石を胸の中に持っている。重苦しい、息の詰まるような表現。

第 2連では「わたし」は「自分自身を眠らせる(put myself to sleep)」とあるが、「put…to sleep」には普通に眠らせるという意味だけでなく、「麻酔をかける、安楽死させる」という意味もある。眠たくて眠るのではない、無理矢理眠らせるとい う意味合いが強い表現だ。だから第1連の「最後の安息」とイメージがつながり、「死」を感じさせることになる。

「running from my dreams」とあるので、夢に向ってではなく、逆に「夢から遠ざかるように走る」のである。現実の夢かもしれない。続く「失望し (disappointed)、幻滅し(disillusioned)」という言葉が、夢と対局にあることからも、それは伺えるだろう。

「creep」は2連冒頭の「I」を主語とした動詞として訳した。そこで「失望し、幻滅しながら 這い進む」と訳した。どこに向って?夢とは逆の世界、夢破れた世界、つまり「死」の世界に向って。

そ して「あなた(you)」は苦もなく、簡単にわたしを見つけるだろうと言う。わたしの亡骸だろうか。「その時、わたしは微笑んでいるかしら?」そこに平安 を見つけることができているだろうか。少なくとも現実の辛さから逃れられた安堵に微笑んでいるのかしら、という感じか。

最後の一行「It's a shame I'll never know your name」も、これまでの流れから「死」を感じさせる。残念ではあるが、死んでしまった「わたし」にはもう、わたしを見つけてくれた「あなた」の名前は永遠にわからないのだ。

で はこの「you」とは誰なのだろう?「I」が恋した人と考えると「名前は決してわからない」とあるのがつながらない。この曲を聴いたリスナーはそれは自分 だと思うのではないか。すでにわれわれはパートスの世界、彼女の歌が描く世界に取り込まれてしまっている。われわれ一人一人は、自ら命を絶とうとしている 人間の、一番身近にいるのだ。

ボーカルのパートが終わると、メロトロンが鳴り響く神聖な雰囲気を持ったパートが始まる、ギターが感傷的なメロディーを奏でる。そして激しいけれどもどこか平和なシンセソロで曲はやや唐突に終わる。

まるで詩的に装飾された遺書のような歌詞である。
最初のアルバムの最初の曲がこれである。スゴイ。

ち なみにアルバムトータル時間は40分を切るLP時代を彷彿とさせる長さ。しかしあらゆる要素が混在する密度の高いアルバム。ラストの曲はブラスまで導入し たジャズロック風インストゥルメンタル満載の曲。このバンドはドラムのキレが凄いから、アンニュイな雰囲気を持っていても、ムードに流されないことを再確 認。

キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」並に多様な曲が平然と並び、一つの世界を作り上げているデビュー作にして傑作。

Paatoslive
 

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