2009年7月29日水曜日

「フェイス・オブ・イエスタデイ」イリュージョン

原題:Face of Yesterday / Illusion

Out Of The Mist(醒めた炎)収録






そのさびれた通りが 陽の光をさえぎった

するとその彫刻家が一つの夢を 彫像し塑造し始めた
しかしそれはすぐに はかない戯れに過ぎなくなった
悲しくも忘れ去られた風景
過ぎ去りし日の光景

その建築家は 土台を砂で作り上げた

そしてその苦労をいとわない 優しい手を広げた
助けを求めるために
彼が依存している人生に かたちを与えるために
しかしそれは 雨や雪のように降り行くだけだった
過ぎ去りし日の光景

その音楽家は 一つの楽譜を書いた

5つ6つ、あるいはそれ以上の楽器のために
しかし楽器たちが同時に音を出すと
不協和音が鳴り渡った
混乱の交響曲
過ぎ去りし日の光景


The lonely street eclipsed the sun

Until the sculptor had begun
To etch and mould a dream
Which soon became a passing game
A sad forgotten scene
A face of yesterday

The builder had his base of sand

And stretched his willing gentle hand
To seek the help
To shape the life he had depended on
Which fell like rain and snow
A face of yesterday

The man of music wrote a score

For several instruments or more
When they played together
Then they found disharmony
A cluttered symphony
A face of yesterday


【メモ】

「Face Of Yesterday」はイギリスのクラシカルなフォーク・ロックバンド、Illusion(イリュージョン)の1stアルバム「Out Of The Mist」(邦題は「醒めた炎」)の中の一曲。

Illusionは、オリジナル・ルネッサンス(Renaissance)が解散した後に、再びオリジナルのルネッサンスを復活させるべく結成されたバンド。活動を開始するにあたって、すでにバンド名の使用権がアニー・ハズラム(Annie Haslam)を擁する別バンドに移っていたことにより、オリジナル・ルネッサンスの2ndアルバムのタイトルをバンド名とした。


Illusion(幻影)というバンドの「Out Of The Mist(霧の中から)」とくれば、嫌でも幻想的な音を期待するところ。そしてこの1stアルバムは、ジェーン・レルフ(Jane Relf)の美しい歌声とフォーキーなメロディー、そしてクラシカルなアレンジを以て、そうした期待に十分に応えた傑作アルバムである。


どの曲も歌声の魅力を活かした翳りのある素晴らしい出来だが、この「Face Of The Yesterday」は、中でも特に美しいスキャットが印象的な名曲。


歌詞は3連からなり、それぞれ「彫刻家」、「建築家」、「音楽家」について歌われている。そしてどの人物も何かを目指して力を尽くしながらも、報われない物語だ。彫刻家は夢を彫像(彫刻する)や塑造(粘土でかたちを作る)しようとし、建築家は砂の土台の上にできている人生をより強固なものにしようとし、音楽家は多くの楽器のための楽譜を書き上げる。


何かを作り出そうとする彫刻家、作り上げたものを守ろうとする建築家、作り上げたものが実は不完全であった音楽家。努力はすべて報われない。こうして芸術家を取り上げているのは、その夢と努力と挫折が、より明確にイメージしやすいからであろう。


悲しい歌。憂いに満ちた歌。確かに人生はそういうものかもしれない。しかし聴いた時にそれが恨み節にならないのは、ジェーン・レルフの、清楚で落ち着いた歌声と、淡々とした醒めた感じの歌い方による部分が大きい。


しかし詩的に見ても、タイトルにもなっている各連最終行の「A face of yesterday(過ぎ去りし日の一つの光景)」という表現が、そうした落ち着いた余韻を残す一行となっているのだ。カーペンターズ(Carpenters)の名曲「イェスタデイ・ワンス・モア(Yesterday Once More)」を引き合いに出すまでもな」く、「yesterday」には「昨日」という意味の他に「過去」という意味がある。つまり「これまでの人生の中の色々な面の一つ」ということなのだ。


思いが叶わなかったことを、人生の喜びや悲しみの一コマとすることで、人生そのものを悲観的に見てはいない。そういう悲しみも人生にはある。ジェーンの歌声が、静かに流れるオーケストラが、柔らかなピアノが、そしてクラシカルに動くベースが、聴く者をどこまでも優しく包み込んでくれる。


そして、かつて誰もが経験したであろうそうした悲しみを、懐かしんでいるかのような切なさがあふれる。歳を取り振り返る人生が長くなるほどに味わい深くなっていく曲だろうなぁと思う。何回聴いても良い曲だ。名曲中の名曲。


2009年7月25日土曜日

「危機 IV. 人の四季」イエス

原題:Close to the Edge
  IV. Seasons Of Man / Yes

Close to the Edge危機)収録






IV. 人の四季

音符の間の時間が 彩りを情景へと結びつける
勝利することが不変の人気を得ることで人は混乱する そう思える
円錐形焦点の間の空間は 愛を知るという高みへと登り詰める
歌と運命が時を紡ぎ出し 失われていた社会的節度が支配力を増すとともに

そして 空間へと腕を広げて見せている男に従えば
彼は振り返り 指を指した すべての人類が姿を現す
わたしは首を横に振り 微笑んでささやいた その場所をすべて知っていると
丘の上でわたしたちは谷間の静けさを見渡した
循環がすでに過去のものとなったことの証人として
そしてすでに語られた言説の中間で動くことで わたしたちはこれらすべてに触れる

瀬戸際の近く 下の川のそば
下の終局のあたり 角をそばを回り込んだところ
季節はあなたを通り過ぎるだろう
全ては終わり 完了したから
根源たる種子へ そしてまっすぐに太陽へと天命を受け
そしてあなたが発見し あなたが全体となったから
季節はあなたを通り過ぎるだろう

わたしは上昇し わたしは下降する
わたしは
上昇し わたしは下降する

わたしは上昇し わたしは下降する


IV Seasons Of Man

The time between the notes relates the color to the scenes
A constant vogue of triumphs dislocate man, so it seems
And space between the focus shape ascend knowledge of love
As song and chance develop time, lost social temperance rules above

Then according to the man who showed his outstretched arm to space
He turned around and pointed, revealing all the human race
I shook my head and smiled a whisper, knowing all about the place
On the hill we viewed the silence of the valley
Called to witness cycles only of the past
And we reach all this with movements in between the said remark

Close to the edge, down by the river
Down at the end, round by the corner
Seasons will pass you by
Now that it's all over and done
Called to the seed, right to the sun
Now that you find, now that you're whole
Seasons will pass you by

I get up, I get down
I get up, I get down
I get up, I get down
【解説】

Yesの「危機(Close to the Edge)」のパート4「人の四季(Seasons Of Man)である。

パート1では「あなた」と「わたし」がより良い状態へ変革し、「あなた」の完全性に関係して、「私」の上昇と下降の動きが始まった。パート2「全体保持」は、 変革の後に「私」の混乱と再統合がなされ、「あなた」との結びつきが強まる。そこから「全体保持(total mass retain)」という安定状態が生まれた。パート3では、安定状態の中で、上昇と下降を繰り返しながら、「誠実な眼」を持つことの重要性が述べられ、「わたし」が「あなた」に近づきたい気持ちが示された。

最終パートのタイトル「人の四季(Seasons Of Man)」にある「seasons(四季)」という単語は、すでに「seasons will pass you by(季節はあなたを通り過ぎるだろう)」という表現としてパート1の最後の部分に出てきている。すでに「あなた」は完全なる存在となっていた。そのあなたを取り巻く世界が、季節が通り過ぎていく世界だとしたら、「Seasons Of Man」は完全な状態になった存在が目にする世界ということだろうか。

第1連で特徴的なのは「between(〜の間)」という表現が繰り返されていることだ。1行目の「note」は色々な意味があるが、第1連最後で「As song and chance...」とあるので、ここでは「音符」としてみた。音符という決められた音ではなく、音と音の間の「time(時間)」、そしてまた「focus(焦点)」ではなく、その間の「space(空間)」。それぞれが、よりプラスなイメージへとつながっている。

例えばそれは「勝利すること(triumphs)」や、あるいは負けることといった明確な事柄ではなく、もっとその間にある微妙で繊細で、分かりにくいものの中に、実は真実が隠されているとでも言うかのように。

広々とした空間へと腕を広げた男が登場する。彼を先導者として彼にわたしはついて行く。彼は振り返り指を指す。そこには全人類が見える。ほら見てごらんと言うところであろうか。「わたし」は首を振る。いやいや、見なくても人類たちがいる世界を知っている。なぜなら「わたし」はかつてそこにいたからだ。

しかし今「わたし」は、完全なる「あなた」を求め、先導者たる「彼」に従って、そこからさらなる高みへと至ろうとしている。わたしたちは「彼」と「わたし」、あるいは「彼」と「わたしたち」だろうか。丘の上から谷間の静けさを見渡す。

「call...to witness」という表現は「〜に証人となってもらう」という熟語。受動態の分詞構文と考えて、「わたしたち」の状態を示すように訳してみた。「わたしたち」は「循環(cycles)」がすでに過去のものとなってしまったことの証人として喧騒にあふれる人類から遠く離れ、谷間の静けさに感じ入っている。

そして三たび「between」が出てくる。「with movements in between the said remark(語られた言説の中間で動くことで)」がそれである。「in between」は「between」と同じ意味の二重前置詞として使われている。すでに決められた「時」、「空間」そして「言葉」ではなく、その「間」が重要な意味を持つことが、またここで示されるのだ。

そしてそのことにより「わたし」は「すべてに触れる(手が届く)」存在となる。「this」は「the past」か。つまり「過去の全てを知ることのできる存在」となれるということだろうか。

「わたし」は完全なる「あなた」に近づきつつある。「季節(四季)はあなたを通り過ぎるだろう」という文はパート1の最後にも出てきたが、そこで始めての未来形だと指摘した。しかしこの「will」は、未来を示すものではなく、不完全な「わたし」には想像することしかできないが、きっとそうなのであろうという確信のある推定を示すwillだと思われる。

そして「あなた」は「seed(種子、根源)」から「sun(太陽、太陽のような輝かしい存在)」にまで行き来する。「call」は「呼ぶ」という意味が基本であるが、「神が呼び出す、招く」という意味もある。パート1で出てきた「master」(主、主たる存在)の下で、完全体となった「あなた」。そこに着実に近づきつつある「わたし」。

パート4は、既存の概念を破ることで高みへ上ることができることを知った「わたし」の自信や安心に満ちた雰囲気が感じられる。依然として上昇と下降を繰り返している「わたし」であるが、確実に「あなた」へと近づきつつあり、やがて「わたし」にも「季節」が訪れるようになるのかもしれない。

不安定な状態を示していた上昇と下降は、今希望に満ちた高みに至るための動きとして感じられ、この長大な曲は全体として、抽象的ではあるけれど前向きな、不完全ではあるけれど未来を感じさせるイメージによるカタルシスを感じさせて堂々と終わりを告げる。既存の概念から解き放たれた魂が、未来への希望と喜びを獲得する歌だと言ってもいいかもしれない。

完全な存在としての目標を定め(パート1)、自分をしっかり見つめ(パート2)、「誠実な眼」を持つことの大切さを知り(パート3)、そして既存の概念、価値観から解き放たれることで、より高みへと上って行く(パート4)という旅が終わった。

作詞をしたJon Anderson(ジョン・アンダーソン)は1976年に次のように言っている。

「この曲の歌詞は一連の夢のようになった。最後の歌詞は僕がずっと昔に見た夢で、この世からあの世へと行く内容だったんだけど、すごく幻想的だったんで、それ以来僕は死を怖いとは思わなくなった。(中略)死というのは人間の肉体が生まれるのと同様、すごく美しい経験なんだということが見えてきた。この曲にはそれが現れていて、すごく牧歌的な経験で、怖いようなものじゃない。」
「イエス・ストーリー 形而上学の物語」
(ティム・モーズ、シンコー・ミュージック、1998年)

現世の不安定な状態が上昇と下降であるなら、「死」を恐怖の対象から「美しい経験」へと捉え直すことで、上昇と下降が不安から希望への運動へと変わっていく。この曲にはそんなJonの思いが込められているのかもしれない。

以上、長旅におつき合いいただき、ありがとうございました。「危機」全訳完了。
 

2009年7月18日土曜日

「危機 III. 上昇と下降」イエス

原題:Close to the Edge
  III. I Get Up, I Get Down / Yes

Close to the Edge危機)収録






I. 上昇と下降

あなたは 白いレースに身を包み 悲し気な目をした女性をはっきりと見ることができた
彼女は言っていた 自分の領地に苦難を与えた責めを自分は負うことになるだろうと

私は上昇し 私は下降する
私は上昇し 私は下降する

二百万の人々は かろうじて満足する
二百人の女性が一人の女性が泣くのを見つめる 遅過ぎる
誠実なる眼は成果を上げる
毎日わたしたちはいったい何百万の人々を欺いているのだろうか

 (コーラス)
 彼女は彼らから言われた
 彼女の物語の驚くべき部分を巻き付けていくだろう
 利益が彼女の領地の子供たちに
 もたらされることだけを望みながら

わたしを管理してそこにいる者を管理しながら
わたしは無言でただ傍観し 道が見えると言っているのか?
真実はそのページのいたるところに書かれている
わたしがあたなにふさわしい歳になるにはどれほど歳をとればいいのだろう?
私は上昇し 私は下降する
私は上昇し 私は下降する


III I Get Up, I Get Down

In her white lace, you could clearly see the lady sadly looking
Saying that she'd take the blame
For the crucifixion of her own domain

I get up, I get down
I get up, I get down

Two million people barely satisfy
Two hundred women watch one woman cry, too late
The eyes of honesty can achieve
How many millions do we deceive each day?

(chorus)
She would coil their said
Amazement of her story asking only
Interest could be laid upon the children
Of her Domain

I get up, I get down
I get up, I get down

In charge of who is there in charge of me
Do I look on blindly and say I see the way?
The truth is written all along the page
How old will I be before I come of age for you?

I get up, I get down
I get up, I get down
I get up, I get down



【解説】
Yesの「危機(Close to the Edge)」のパート3「上昇と下降(I Get Up, I Get Down)である。

パート1では「あなた」と「わたし」がより良い状態へ変革し、「あなた」の完全性に関係して、「私」の上昇と下降の動きが始まった。パート2「全体保持」は、変革の後に「私」の混乱と再統合がなされ、「あなた」との結びつきが強まる。そこから「全体保持(total mass retain)」という安定状態が生まれた。

パート3では「あなた」の話から始まる。「あなた」はある女性を見ることができた。それはあなたがもつ完全性ゆえなのかもしれない。その女性は、自らの領地に苦難を与えてしまったため、その責めを負わなければならない。イギリス的な女王、女帝の姿が浮かぶ。ちなみにcrucifixionには、十字架刑という意味もあるので、宗教的なイメージが重なっている。

それは第3連の最終2行にある「誠実なる目は成果を上げる/毎日わたしたちはいったい何百品の人々を欺いているのだろうか」に集約される、「不誠実さが報いを受ける物語」として語られていると言えそうである。

「あなた」は恐らくこの「誠実なる眼」を持っているのだ。だから不誠実さに気づくことができた。しかしわたしは「何も疑わずに、何も言わず(blindly)」傍観し、目の前に道が続いていると思っているが、それは「誠実なる眼」を持っていることにはならない。真実が書かれた書物から、その真実を読み取ることができてはいない。

だからあなたの完全性にふさわしい歳に、「わたし」はまだ至っていないのだ。完全性を持つ「あなた」という高みを見つめながら、「わたし」や「わたしたち」の不完全性を自覚しつつ、「わたし」は上昇と下降を繰り返す。

ちなみにJonがメインボーカルで歌うところに、SteveとChrisがバックで、カウンターメロディーを別の歌詞で歌う。それが(コーラス)として字下げした部分だ。実はアルバムに載っていた英語歌詞はいわゆるcalligraphy(装飾性の高い手書き文字)で書かれているので、ところどころ読みにくい上、一般の歌詞サイトではこの部分は収録されていない。

さらに書かれている文章の最初の部分が歌われていないため、歌われている歌詞部分のみ取り出し、意味を付けてみた。

「彼女」が責めを負うことで「かろうじて満足」した「二百万の人々」とは、領地の領民、あるいは国民か。「二百人」の女性とは数自体はあまり問題ではなく、彼女自身の悲しみや苦しみに気づくものたちは少なかったという例えではないか。

そこでコーラス部分にある「彼らから言われた彼女の物語の驚くべき部分」とは、彼女が領民から指摘、糾弾された裏切り行為、あるいは政策的な失敗のことを指すのだろうか。「coil(巻き付ける)」とは、一巻き二巻と螺旋状に続けていくイメージだから、欺きを残らず白状することの例えか。ただただ領地の子供たちへ、本来の利益がもたらされることだけを願いながら。

パート1、2と比べると、このパート3は少し具体的なイメージが描かれている。領地とそこを統治する女性。そうしたイメージを「不誠実さが報いを受ける物語」として描いたとすれば、特にイギリス人に取っては女王を意識せざるを得ない、刺激的なパートかもしれない。

しかし、そうした要素を含んでいるとしても、この一番静かなパート3が全体の流れの中で重要なのは、安定状態の中で、上昇と下降を繰り返しながら、「誠実さの眼」の重要性に触れ、それを持つ「あなた」に「わたし」が近づきたい気持ちを明確に示したことであろう。そしてそれには何年もの時が必要なのだ。

次回はいよいよ最終パート。続く。
  

2009年7月9日木曜日

「危機 II. 全体保持」イエス

原題:Close to the Edge
  II. Total Mass Retain / Yes

Close to the Edge危機)収録






II. 全体保持

私の目は 確信に満ちていながらも、愛の力で手にした より若い月に覆い隠された
それはまるで、天から降り注ぐ輝ける神与の糧を浴びながらも ほとんど汚れていると言えるほどの変化だった

私は自分の憎しみの気持ちを抑え 言葉を手の中に押し止めた
存在するのは あなた 時 論理 あるいは理解不能な根拠だ

悲しみに満ちた勇気を持って 生け贄達が
 皆が見えるように動かずに立っていることを要求した 
武装した移動部隊が 海を見渡すために 前進し接近するかのように
その後存在するのは 絆 許し あるいは理解可能な根拠となるだろう

下の瀬戸際のあたり 川のそばに接近し
瀬戸際の近く 角のあたりを回り込んだところ
終局の近く 下の川のそば
下の瀬戸際のあたり 川のそばを回り込んだところ

突然目的が理解できたとしても それに驚いて記憶を消し去るべきではない
結局のところ その旅は常にあなたと共にあるのだ
あなたがこれまで見たり知ったりした真実とは切り離されているとしても
言及を欺くためにのみ問題を
推測しながら
虚無の世界へ途中まで登り行く道を通りながら
私たちは端から端まで横切る時に 全体が保持されるのを聞く

下の瀬戸際のあたり 角のそばを回り込んだところ
終局の近く 下の川のそば
季節はあなたを通り過ぎて行くだろう
私は上昇し 私は下降する

II Total Mass Retain

My eyes convinced, eclipsed with the younger moon attained with love
It changed as almost strained amidst clear manna from above
I crucified my hate and held the word within my hand
There's you, the time, the logic, or the reasons we don't understand

Sad courage claimed the victims standing still for all to see
As armoured movers took approached to overlook the sea
There since the cord, the license, or the reasons we understood will be

Down at the edge, close by a river
Close to the edge, round by the corner
Close to the end, down by the corner
Down at the edge, round by the river

Sudden cause shouldn't take away the startled memory
All in all, the journey takes you all the way
As apart from any reality that you've ever seen and known
Guessing problems only to deceive the mention
Passing paths that climb halfway into the void
As we cross from side to side, we hear the total mass retain

Down at the edge, round by the corner
Close to the end, down by a river
Seasons will pass you by
I get up, I get down



【解説】
Yesの「危機(Close to the Edge)」のセカンド・パート「全体保持(Total Mass Retain)である。パート1では「あなた」と「わたし」がより良い状態へ変革し、「あなた」の完全性に関係して、「私」の上昇と下降の動きが始まった。

最初の行は「My eyes (being) convinced, and (being) eclipsed ...」と補い、次行の「It」は「My eys」を一塊の存在と捕らえた結果単数(theyではなくit)になったと考えた。つまり「それ=私の目」である。

まるで「天与の糧(mannna)」を浴びつつ汚れているように、確信に満ちたりた状態なはずなのに「愛」の名の下に「the younger moon(より若い月=三日月に近い月=不完全な月)に曇らされ、私は「憎しみ(hate)」の感情を抱く。しかし言葉には出さない。

「憎しみ」の心と戦っている自分の前にいるのは、「あなた」「時間」「論理」そして「理解不能な根拠」。そう、この不完全で不安定な状態において「あなた」はそこにいてくれるのだ。

「私」は憎しみを吐き出す代わりに、周囲から皆が見えるように「犠牲者」をじっと立たせることを要求する。「犠牲者」とは自らの内にある、目を背けてはならない部分のことか。他人を憎むのではなく、自分の中の弱さに目を向けること。悲しみに満ちた勇気を振り絞って。

「since」は「それ故、その後」と取り、第1連最終行と対となる第2連最終行は、現在の状態が好転していくだろう未来を語っている。そこには「絆」「許し」「理解可能な根拠」が存在することになる。

第4連では、新たな自分の「目的(cause)」が理解できたとしても、それで過去の自分の記憶を消し去ってはならないと言う。そして結局「あなた」はこのような旅をずっと続けるのだ。それが、今までの常識とはかけ離れたものであっても。「私」と「あなた」は常にそばにいて「絆」で結ばれているのかもしれない。

「私」は自分への自信を取り戻し移動を続ける。そして「端から端まで横切った時、全体が保持されるのを聞く」。ここでの「私たち(we)」は、「あなた」と「私」なのかもしれない。

パート2となる「全体保持」は、変革の後に「私」の混乱と再統合がなされ、「あなた」との結びつきが強まったことを語っているように感じる。そこから「全体保持(total mass retain)」という安定状態が生まれた。

しかしその中で「旅(journey)」は続き、「私」の上昇と下降の運動も続いている。さて、次はどういう展開が待っているのであろうか。続く。

2009年7月4日土曜日

「危機 I. 連続した変革の時」イエス

原題:Close to the Edge
   I. Solid Time of Change / Yes


Close to the Edge危機)収録






I. 連続した変革の時

経験豊かな魔女が あなたを恥辱の底から呼び戻し
あなたの中に生きる者を 強固な精神的優美さへと再構成することができた
それを 遠くから素早くやってくる音楽を使って 完全に成し遂げ
時に反して全てを失ってしまった人の果実を味わうことができた
どこにもつながらない地点を見いだし、一人ずつ先導しながら
露の一しずくは 太陽の音楽のように 私たちを高め
私たちが動く時に伴う痛みを取り去り
あなたが走り続ける道筋を選ぶことができる

下の終極のあたり、角のそばを回り込んだところ
急がず 急がずに
瀬戸際に迫るところ 下の川のそばで

夏の変化を囲む境界線を越えて
空がどんな色かを告げるために 手を伸ばして
私たちが目にするより速く 朝を身にまとった瞬間を次々と手渡しながら
わたしが心配すべき時を ことごとく乗り越え
全ての変化を はるかはるか彼方へと残して
私たちは 主なる存在の名前を見つけ出すまさにそのために、緊張を解き放つのだ

下の終極のあたり、角のそばを回り込んだところ
切っ先の間近 下の川のそばで
季節はあなたを通り過ぎて行くだろう
私は上昇し 私は下降する
全てが終わり、完了したから
そしてあなたが発見し、あなたが全体となったから


I. The Solid Time Of Change

A seasoned witch could call you from the depths of your disgrace
And rearrange your liver to the solid mental grace
And achieve it all with music that came quickly from afar
And taste the fruit of man recorded losing all against the hour
And assessing points to nowhere, leading every single one
A dewdrop can exalt us like the music of the sun
And take away the plain in which we move
And choose the course you're running

Down at the end, round by the corner
Not right away, not right away
Close to the edge, down by a river
Not right away, not right away

Crossed the line around the changes of the summer
Reaching out to call the color of the sky
Passed around a moment clothed in mornings faster than we see
Getting over all the time I had to worry
Leaving all the changes far from far behind
We relieve the tension only to find out the master's name

Down at the end, round by the corner
Close to the edge, just by a river
Seasons will pass you by
I get up, I get down
Now that it's all over and done
Now that you find, now that you're whole


【解説】
イエスの代表作にしてロック史に残る傑作「危機(Close to the Edge)」から、タイトル曲への無謀なる和訳への挑戦、パート1である。

まず「危機」を構成するパート名を確認しておく。

I. The Solid Time Of Change(連続した変革の時)
II. Total Mass Retain(全体保持)
III. I Get Up, I Get Down(私は上昇し、私は下降する)
IV. Seasons Of Man(人の四季)

音楽的にはIは導入部から最初のサビ(I get up, I get down)の登場まで、IIはIから続く3拍子のリズムでボーカルが歌い続けながら、バックのリズムのアクセントがズレると言う緊張感が増すパート、その緊張感が極限に達した後、IIIでは4拍子のスローなリズムで、パイプオルガンとボーカルが印象的な静かなパート、そしてリック・ウェイクマンのオルガンソロを含み、
全員で突進していくようなクライマックス部分のIVとなる。

さてこのIのキーワードは「change」であろう。「変革」。

第1連を見てみよう。この連は2つの文章から成っていると考える。1つは「A seasoned witch(経験豊かな魔女)」を主語にした文章で、4行目の最後「hour」まで。1行目の「A seasoned witch could call...rearrange...achieve...taste...」と、 「could」の後に動詞が並列される。

「経験豊かな魔女」の力により、「あなた」はマイナスイメージからプラスイメージへと変革が可能だった(過去)ことが述べられる。

これに対し2番目の文章は「And assessing...」の一行を付帯状況「〜しながら」と取って、次の行の「A dewdrop(露の一しずく)を主語として、「A dewdrop can exalt...take away...choose...」と動詞が並び、第1連最後に至る。ここで「露の一しずく」が可能にしてくれる対象は「私たち」であり、やはりマイナスイメージからプラスイメージへと変革が可能である(現在)ことが述べられる。

ただし、最後に、走っている「あなた」の行くべき道を選ぶ事もできると、「あなた」にも触れている。「あなた」の解放にもつながったということか。

第2連は、以降繰り返されるフレーズが現れるが、どこかギリギリに追い詰められたようなイメージだ。そのギリギリの状態の中で、「あなた」と「わたし(達)」の変革が行われる。

第3連は「(Having) Crossed...Reaching...(Having) Passed...Leaving...」と「〜しながら」という分詞構文が続いて、主文は最後の「We relieve...」という「私たち」を主語とした文と見た。ここでははっきり「We relieve...」と事実として述べた文章なので、「A dewdrop」の力で、実際に「私たち」は
「the master's name」を見つけるため、不安を追い払う。「the Master」と大文字のMを使うと「イエス・キリスト」を指すが、ここでは小文字なので、キリストに限定しない超越的な存在、神的存在と考えた。

では「あなた」はどうなったのか。第4連で「Seasons will pass you by(季節はあなたを通り過ぎていくだろう)」と言う文の中で「you」が出てくる。始めての未来形の文章である。時間とは関係なく「あなた」の在り方は決まっているということか。

しかし最後に「わたし」と「あなた」の関係性が述べられる。「now that...」は「...したからには、...した以上は、...したので」という表現。したがって「全てが終わり、完了し」「あなたが発見し完全になった」ので、「私は上昇し、私は下降する」とつながると解した。「あなた」は「完全」になっていたのだ。

以降繰り返される「I get up, I get down(
私は上昇し、私は下降する)」という、抽象世界と具象世界を行き来するような、「わたし」の動きは、「あなた」が完全である事を前提、あるいは契機として、ここに始まるのだ。

さて、「わたし」と「あなた」はどうなっていくのであろうか。続く。

2009年7月1日水曜日

「フェインティング・イン・コイルズ」ブラッフォード

原題:Fainting In Coils / Bruford


One of a Kind
(ワン・オブ・ア・カインド)収録






アリスはその件についてこれ以上聞こうという気持ちがなくなりました、
そこで彼女はにせウミガメの方へ向き直ると、言いました。
「それからどんなことを習ったの?」

「そうさな、『謎学』があったな、」にせウミガメは答えました、
ひれを折って科目名を数え上げながら、
「…『謎学』ね、古代と現代の、それから『
海洋地理学』:
そして『気取った話し方学』-- 気取った話し方の先生は歳取ったアナゴだったなぁ、
週に一度は来ていたもんだよ:
その先生がわれわれに教えてくれたのは『気取った話し方学』、『からだの伸ばし方学』、そして『とぐろの中で気絶する学』さ。」


Alice did not feel encouraged to ask any more questions about it,
so she turned to the Mock Turtle, and said
`What else had you to learn?'


`Well, there was Mystery,' the Mock Turtle replied,
counting off the subjects on his flappers,
`--Mystery, ancient and modern, with Seaography:
then Drawling--the Drawling-master was an old conger-eel,
that used to come once a week:
he taught us Drawling, Stretching, and Fainting in Coils.'


【解説】
イギリスジャズロックアルバムの最高峰の一つに挙げられるこの1979年発表の「One Of A Kind」。全編緊張感あふれるインストゥルメンタルのはず、とお思いであろうが、一カ所だけ語りが入る。それが旧LPA面ラスト、つまりCD的には前半の山場となる「Fainting In Coils」のイントロ部分だ。

 ナレーター:Sam Alder
 アリス:Anthea Norman Taylor
 モック・タートル:Bill Bruford

と、ジャケットに記載されている。バンドオリジナルの歌詞ではないが、アルバムの中で印象的な部分なので取り上げる事にしてみた。ビル・ブラッフォード自身も声を変えてはあるが参加している事だし。

ここで寸劇のようにやり取りされているのは、ルイス・キャロル(Lewis Carroll)による文学作品「不思議の国のアリス」(「Alice's Adventures in Wonderland」)の一節である。

具体的には第9章に出てくる、アリス(Alice)とにせウミガメ(Mock Turtle:カラダはウミガメで頭は子牛)とグリフォン(Gryphon:ギリシャ神話のグリュプスのことで、ワシの頭と翼、ライオンの胴体を持つ怪物)の会話の一部。アリスがグリフォンとの話にうんざりして、にせウミガメに向き直ったところだ。

ご覧のように、そのまま訳してもこれは言葉遊びなので当然ながら意味不明である。しかし本来の科目名が浮かぶと、この言葉遊びの面白さが感じられる。

そこで、本来の科目名、つまりここで作者のルイス・キャロルが言葉遊びをする際に、読んでいる人の頭に当然浮かぶであろうと考えた科目名に直してみた。

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アリスはその件についてこれ以上聞こうという気持ちがなくなりました、
そこで彼女はにせウミガメの方へ向き直ると、言いました。
「それからどんなことを習ったの?」

「そうさな、『歴史』があったな、」にせウミガメは答えました、
ひれを折って科目名を数え上げながら、
「…『歴史』ね、古代と現代の、それから
地理
そして『図画』-- 図画の先生は
取ったアナゴだったなぁ、
週に一度は来ていたものだ:
その先生がわれわれに教えてくれたのは『図画』、『スケッチ』、そして『油絵』さ。」

Alice did not feel encouraged to ask any more questions about it,
so she turned to the Mock Turtle, and said
`What else had you to learn?'


`Well, there was History,' the Mock Turtle replied,
counting off the subjects on his flappers,
`--Mystery, ancient and modern, with Seaography:
then Drawing--the Drawing-master was an old conger-eel,
that used to come once a week:
he taught us Drawing, Sketching, and Painting in Oils.'

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言葉遊びに使っている単語は、下の対照表に示したように綴りや発音が似ているから、読者は実際の科目名を頭に浮かべては、そのあり得ない科目名をニヤニヤと楽しむわけだ。

 Mystery(ミステリー)ーHistory(ヒストリー)
 Seography(スィオグラフィ)ーGeography(ジオグラフィ)
 Drawling(ドローリング)ーDrawing(ドローイング)
 Stretching(ストレッチング)ーSketching(スケッチング)
 Fainting in Coils(フェインティング・イン・コイルズ)
  ーPainting in Oils(ペインティング・イン・オイルズ)

そして、中でも最後の「Fainting in Coils」のナンセンスさ、摩訶不思議なイメージが特に最高である。ここに目をつけて曲名に使ったセンスの良さに感激してしまうくらいだ。

「Fainting in Coils」という曲だけでなく、「One Of A Kind」という超絶技巧を駆使したアルバムの、迷宮的な音楽世界をも象徴する引用だったように思う。

ちなみにアルバムタイトルとなっている「one of a kind」という表現は、「ユニークな、独自の、比類のない」という意味。まさにこのアルバムにぴったりだ。