2011年6月19日日曜日

「Kung Bore」アングラガルド

原題:Kung Bore






「冬の王」

わたしのランタンの光の中に
悲しみの影が見える
人生の最盛期から次第に消えていった夢の中。
もう現実や真実を避けながら
この場に立ち見つめ続けることはできない
道徳は夢物語に過ぎないこの世界では。

選ぶのはあなただ
作り話やウソやへつらいを
うのみにするのはあなただ。

声高に、力強く、正しいことを話しながら
枯れた花を植えようとする彼らは
正しいと言えるのか?
その結果ある人は
神を、偉大なものとしての神を
信じることは難しくなった、
その時彼女の住む家では
沈黙だけが広がっていく。

選ぶのはあなただ
作り話やウソやへつらいを
うのみにするのはあなただ。

「冬の王」は死んだ
そして新たに選ばれた春の王が
人々の英雄となる。
未来像が生まれ、
そして雲間に人々の城が置かれる時が
やってくる。
人生のパノラマ、
ある種の幻影、それをわたしは
とても心から欲していたのだ。
わたしに夢の国へと続く風景を見せておくれ、
その時だけわたしは幸福に包まれるだろう。

「KING WINTER」

In the light from my lantern

I see the shadow of sorrow,
in dreams that have been extinguished
from a life that has had its time.
I cannot stand and watch
while we flee
reality and truths,
where morality is fantasy.

It is you who chooses

it is you that swallows
their fairy tales and lies and flattery.

Is it true that they who speak

loud, strong and right
also plant dead flowers?
Then it cannot be easy
for a human to believe
that God, he is great,
when silence spreads
in the house where she lives.

It is you that chooses,

it is you that swallows,
their fairy tales and lies and flattery.

"King Winter" is dead

and Spring, the newly elected,
is the people's hero.
Visions are born,
and it is time to populate
their castles in the clouds.
Life's panorama,
a hallucination, I have
longed for so tremendously.
Give me a view
into the land of dreams,
only then will I be happy.  

※オリジナルはスウェーデン語だが、
彼らの準公式(semi-official)サイトにある英語対訳を使用した

【コメント】
1980年代のポンプロック(プログレッシヴ・ロック・リバイバル)も瞬く間に終わり、日本国内のインディーズのみが一時期気を吐いていたがそれも収束した1990年代。1992年に突如スウェーデンから彗星のごとく現れたのがこのAnglagard(英語的には“エングラガード”に近い)であった。
 
デビューアルバムは日本語版も出され、邦題が「ザ・シンフォニック組曲」。もう直球ど真ん中なタイトル。邦版を担当したレコード会社の方も、きっとこの音に感激したのに違いない。そして内容もタイトル負けすることなく、フルートや線の細いボーカルなどを取込みながらも、複雑なアンサンブルと切れ目のない緊張感にあふれた傑作であった。

特徴の一つはピリピリしたドラミング。正確無比でパワフルなんだけど、複雑なリズムチェンジや曲展開と相まって、どことなく脅迫的に響く。グルーヴィーではないがバークレイ音楽院系テクニカルさとも違う、独特の畳み掛けるよなドラミングだ。ドラマーのMattias Olssonは当時17歳だったという。

  

アルバムタイトル「Hybris」は英語的には「ハイブラス/ヒーブラス」と発音し、「Hubris」とも書き、「ごう慢、うぬぼれ、神々に対する不遜」を意味する。そのデビューアルバムからラストソングの「Kung Bore」を取り上げてみた。


「Kung Bore」はサイトにあるように直訳すると「King Winter」となるが、これはいわゆる「Jack Frost」、つまり「冬将軍(霜の擬人化された表現/厳寒・厳冬)」を意味する言葉だ。

  
しかしここでは季節としての「冬」を象徴しているのではなく、現実世界として「わたし」を取り巻く状況を、「冬の王の支配」として語っていると思われる。

第1連では「冬の王」の支配下で、「わたし」は夢を失い「現実や真実」を突きつけられるている。そこは薄暗い場所、ランタンの光が作り出すのは悲しみの影だ。わたしの人生にも充実した時期はあった。しかし時とともに夢は消え去っていった。


つまり自分が年齢を重ね老いていくとともに、夢が消えていく(諦めなくてはならなくなる)という「現実や真実」を見ずにはいられなくなったということだろうか。


第2連で「わたし」は「冬の王」を非難する。そうした世界を選んだのはあなただと。「作り話やウソやへつらい」を鵜呑みにしたのはあなただと。 それはつまり自分に都合の良いことだけを求める王への批判/非難であろう。


一見それは自分の上に立つ指導者への批判、政治・社会体勢への批判ともとれるが、第1連との関連で見ると、歳とともに自分の中で大きくなっていった、現実的で狡猾で処世術に長けた行き方のことかもしれない。


第3連で口では偉そうなことを言いながら、枯れた花を植えている(意味のないことをしている)という批判も、時の支配者へ向けてともとれるが、自己批判だとも取れるだろう。そしてこれを自己批判だとすれば、続く神を信じられなくなったある人(a human)は、もしかすると自分の愛する女性を指しているのかもしれない。ならば第3連最後で「she(彼女)」という代名詞で受けていることも理解できる。


つまり歳とともに口先だけは達者になり、自己中心的で、現実的になっていったわたし。そのため神を信じられなくなり、沈黙の中で暮らさざるを得なくなった恋人。ならば「It is you...」と呼びかけている「you」とは、内なる自分ということになるだろう。


その老いた内なる自分の嫌らしさを「冬の王」と例えるなら、「冬の王」に代わって「春の王」を新たに選ぶのだ、というのが第5連となる。「vision」とは「未来像」であるとともに「夢想」でもある。つまり「現実」とは対極にあるものだ。そこで人々は雲の上に城を建て、人生のパノラマを俯瞰する。例えそれが幻影(hallucination)だとしても、それこそが「現実」に追いつめられた「わたし」が、長い間欲し続けていたことなのだ。


年老いていくとともに失ってしまった夢の国への光景。「わたし」はそれを取り戻したいのだ。その時始めて「わたし」は幸せになれるのだ。この最後の一文だけが未来形になっている。そこに「わたし」の期待と強い思いが感じられる気がするのである。


Anglagardは2枚のスタジオアルバムを発表し、そこから選ばれた曲だけによるライヴアルバムを発表して解散する。2nd アルバムが全曲インストゥルメンタルだったことを考えると、この曲は結果的に、彼らのラストメッセージであると言えなくもない。そしてそれはわかり易い体制批判のためのアジテーションソングでもなく、夢の世界を描いたファンタジックなものでもない、老いの悲しみに満ちた、奥深い味わいのある歌であったように思うのである。


しかし歌詞の中には「老い」という言葉は一回も出てこない。しかし流れを丹念に追っていくと、どうしてもそういう歌として感じられてしまうのだ。一つの解釈としてお読みいただけると幸いである。