2011年1月27日木曜日

「タイム・トゥ・アンダースタンド」アニマ・ムンディ

原題:Time to Understand / Anima Mundi
  








「理解の時」

あなたは黄金の帝国を築いてきた
大地を屈辱し、多くの命を奪いながら
今あなたは暗闇の中で安らかな気持ちでいる
顔を壁に向けたまま

人生においてはいつでも
あなたは司祭を買収し魂を売る
もしあなたが悲しみへと向かい
自らを塵の王国へと落ちそうな場合は

時々あなたは自分が
成功者の一人となったと考える、愛からはほど遠くても
時々あなたは極寒の冬が
あなたの心を永遠に奪ってしまったのだと感じる

わたしは冬が長く続いていることを知っている
しかし今こそ理解し飛び立つ時なのだ
あなたの金色の帝国はただの塵の王国なのだ
金で不死のための切符は手に入れられないのだ

今、この人生において日に日に
あなたは本当の家に近づいていくだろう
もしあなたが太陽の邸宅へ上っていくのなら
塵の王国から自己を高めながら
この塵の王国から

わたしは冬が長く続いていることを知っている
しかし今こそ理解し飛び立つ時なのだ
あなたの黄金の帝国はただの塵の王国なのだ
金で不死のための切符は手に入れられないのだ
あなたは壁を打ち破り飛び立たねばならない
脅威に満ちた天空を抜け永遠の別れを告げて
今こそ理解し共に光りの中へと飛び立つ時なのだ


You have been building an empire of gold,
Humiliating the earth, killing so much,
Now you feel secure in the darkness
With your face against the wall

Every day of your life
You buy the priest but sell your soul
If you move into the grief direction,
Sinking your self in the kingdom of dust

Sometimes you think that you’ve become
In a successful being, being far from love
Sometimes you feel that the deepest winter
Took your soul forever more

I know the winter has been long
But now it’s time to understand and to fly
Your empire of gold is just the kingdom of dust
Money can’t get the tickets not to die.

Now, every day of your life
You are closer to your real home
If you ascend into the Sun Mansion
Raising your self from the kingdom of dust
From this kingdom of Dust

I know the winter has been long
But now it’s time to understand and to fly
Your empire of gold is just the kingdom of dust
Money can’t get the tickets not to die.
You must strike down the wall and to fly
Through the wonder skies and forever say goodbye.
It’s time to understand and to fly together into the light

【メモ】
キューバで生まれた世界レベルのシンフォニック・バンド、Anima Mundiの2010年発売のアルバム「The Way」より、その冒頭の曲である。ドラマチックでビンテージ感の強いシンセサイザー・オーケストレーションをバックに、クリアーで伸びのある男性ボーカルが、静かな歌い出しから一気に力強いハイトーンを聞かせる導入部が印象的だ。

歌詞は全編に渡り「わたし」から「あなた」への呼びかけとして語られる。 ここでの「you」は内容的に「あなた」とも「あなた方」とも取れるかと思ったが、第5連で「Raising your self...」と、単数形の「self(複数形ならselves)」を使っているので、一応「あなた」と単数形で訳している。

しかし歌詞全体を通してみると、それは単に特定の個人の生き方に向けた言葉というよりは、人々の営み全体をより高いところから見下ろして述べた言葉のように聞き取れる。「金色の帝国」を築いてきた「あなた」は、その過程で「大地/地球を屈辱し、多くの命を奪って」きた。これは自然破壊や戦争・戦乱などの歴史や犠牲の上に築かれた、現代の文明社会を思い起こさせる。

したがって「あなた」と単数ではあるものの、ここでは人々全体、あるいは人類全体の一人一人に向けられた言葉なのであろう。

「あなた」はそれで安らかな気持ちでいられるつもりでいるが、実は居るのは暗闇の中。それも実は壁に顔を向けた弧度の中である。不幸が訪れようとすると、金で解決する。それは魂を売ることになる。そうやって「塵の王国(kingdom of dust)」に落ちていかないよう腐心し続けている。成功者と思えたとしても、そこに愛はなく、心は極寒の冬に奪われて凍り付いたままである。

つまり物質的な豊かさ、お金ですべてを解決しようとする生き方、それが「黄金の帝国」を築いた「成功者」の誇りだとしても、心は孤独と虚無に満ち、常にその地位を保とうと落ち着かないでいる。それが「あなた」の真の姿なのだと、「わたし」は指摘するのだ。

第4連で初めて「わたし(I)」という言葉が出てくる。「わたし」はあなたの心が冬の状態にずっとあることを知っていると言う。そして呼びかける。そこから今こそ「理解を得て飛び立て」と。「あなた」の思っている「黄金の帝国」は、実は逃れようとしていた「塵の王国」に過ぎないのだ。「理解(understand)」とは何を理解するのか。それはそんな「あなた」自身の実像であり、本当に向うべき先であろう。

このようにすべてを知り、諭すように語る「わたし」は、すでに「神」の視点であると言って良い。「あなた」は「暗闇」や「真冬」の世界から抜け出し、「本当の家」である「太陽の邸宅」へ向って飛び立たねばならない、そう諭し導くのは「神」であろうと思う。

「お金で不死の切符は手に入れられない」という表現からは、逆にお金ではなく「自らを高め(raise your self)」、「光の中へと(into the light)」飛び立つことで、肉体の死を越えた魂の存在が可能となるという、非常にスピリテュアルな世界観が見て取れる。

こうして見てみると、「神」の視点とは言いながら、強い信仰心を求める宗教的な色彩よりも、どちらかと言えばニュー・エイジ風な、より高次の存在へと向うことの大切さを説くような雰囲気が強い。宗教的な「神」というよりは「霊的先導者」のような存在に近いかもしれない。

地理的には北米に位置するキューバであるが、ラテンアメリカ文化圏としては南米の国々に近い。歌詞から浮かび上がる世界観や、雄大で大らかでコズミックなサウンドは、例えばブラジルのザグラド(Sagrado Coracao Da Terra)などにも通じるものを感じる。

逆に言えば、この美しくも力強いシンフォニックサウンドに非常に相性の良い歌詞であり、全体として聴く者にスピリチュアルな別世界を感じさせてくれる作品になっていると言うことが言えるように思う。まさにバンドメンバーが語る、次のような言葉通りの歌詞でありサウンドである。

「『The Way』は間違いなく今の時代のアルバムではあるけれども、1970年代の精神を現代に呼び戻すことができたらと考えて作られたものだ。でも、シンフォニック/プログレッシヴ・ロック・バンドの黄金時代の恵みを思い起こすためだけでなく、当時の幻想的な雰囲気や芸術的なオーラを表現するためにね。そこでは一般的な感覚として、音楽が宇宙、自然、人間の精神と、より大きく共鳴していたんだ。」
Anima Mundi公式サイトより

ちなみにこのAnima Mundiとはラテン語で、英語ではWorld Soul、「世界霊魂」「宇宙霊魂」などと訳される。それは物質界を組織し支配すると考えられた力を指す。この言葉と概念は古代ギリシャの哲学者プラトン に起源を持ち、新プラトン主義の主要な要素と言われる(Wikipediaより)。

なお、CDに掲載されている歌詞は第1連から第3連までが一つになって、全体で4連からなる構成になっている。ここでは見やすさの点から、公式サイト版を採用した。
 

2011年1月3日月曜日

「レミングス」ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター

原題:Lemmings (including Cog) / Van Der Graaf Generator

Pawn Hearts(ポーン・ハーツ)収録





「レミングス(そして歯車の歯)」

僕は独り最も高い崖の頂上に立ち
眼下や周囲を見ていた、そして目に入るもの全ては
僕が心から共有したいと思う人々でありながら
全く何も眼に入らないかのように海に向って飛び込んでいくのだった…
僕はこれはいったい何というゲームなのか聞こうとしたんだ
でも僕はそのゲームをすることはないだろうとわかっていた:
声が、一斉に、そしてバラバラに、僕の耳に聞こえてきた…

「我々は英雄たちをこれまで見てきたが
彼らには力が無いことがわかった;
我々はこの土地をくまなく見て回ったが
しかし夜明けを目にすることはできない;
我々は今思い切って天を焼灼しようとしているが
しかし未だに血を流し続けている;
我々は断崖に近づきつつある、
我々には今呼び声が聞こえるのだ。

雲たちは山のような形に積み重なっており
前進する意外に逃げ道はない。
今我々に解決策を求めないでくれ、
あのしきたりに屈するにはあまりにももう遅すぎるのだ
死ぬ以外にどんな道が残されていると言うのか?
 
我々は誉れ高き王たちをこれまで見てきたが
命ある人々以下の存在だとわかった;
彼らの名前は塵に過ぎない
我々の若く、新しい法律の正義の行進の前においては。
心をひどくよろめかせながら、
我々は暗いトンネルへと突進する;
誰も止めることはできない
未知なる奈落への口への我々の最後の跳躍を

そして長老たちが額を叩くけれど
彼らは今となっては我々を止めるのは
本当にもう遅過ぎるのだとわかっている。
なぜならもし天に死の種が撒かれているのなら
息を吸うことにいったいどんな意味があるというのか?
吐き出すんだ。
死以外にどんな目的が残されていると言うのか
我々が確信を持てない何かを探し続ける上で?」
 
死以外にどんな目的が残されていると言うのか?

…僕にはその理由が本当にわからない…

僕は僕らの死は遠からずやってくることを知っている
でもなぜあなた方はそれを早めようとするのか?
時は最後に証明するかもしれない
行きているものだけが時を動かすのであり
流砂の中には生き物はいないのだ。

そうだ、僕は知っている
それは制御不能、制御不能なのだ;
脂ぎった機械がレールの上を滑っている、
若い心と身体は鉄のスポークで挿し貫かれている。
歯車は骨を引き裂く、骨を引き裂く。
鉄の溝がつけられた怪物たちが叫び声を絞り出す
心と機械が夢を箱形に型抜きする。

しかしまだ時間がある…

今逃げるのは臆病者だ
戦いは始まったのだ…
ナイフのない戦争、命をかけた戦いが、
レミングスは何も教えてはくれない;
死は何の希望も与えてはくれない、僕らは
未知の答えを模索しなければならないのだ、
僕らの活力を統合し、洪水を和らげ、
悲劇を避けるのだ。

群衆の中で叫び声を上げる以外にも方法はある;
それは僕らを単なる憎しみの歯車にするだけだ。
僕らの存在する理由と場所に目をやるのだ、
自分自身と星々に目をやるのだ、
そうなのだそして最後には
僕らの子どもの子どもの子どもたちを
救う希望を持って
生きる以外にどんな選択肢があるというのか?

生きる以外にどんな選択肢があるのか?
小さき子らを救うために?

努力する以外にどんな選択肢が残されていると言うのか?


I stood alone upon the highest cliff-top,
looked down, around, and all that I could see
were those that I would dearly love to share with
crashing on quite blindly to the sea...
I tried to ask what game this was
but knew I might not play it:
the voice, as one, as no-one, came to me...
  
"We have looked upon the heroes
and they are found wanting;
we have looked hard across the land
but we can see no dawn;
we have now dared to sear the sky
but we are still bleeding;
we are drawing near to the cliffs,
now we can hear the call.

The clouds are piled in mountain-shapes,
there is no escape except to go forward.
Don't ask us for an answer now,
it's far too late to bow to that convention.
What course is there left but to die?

We have looked upon the High Kings,
found them less than mortals:
their names are dust before the just
march of our young, new law.
Minds stumbling strong, we hurtle on
into the dark portal;
No-one can halt our final vault
into the unknown maw.

And as the Elders beat their brows
they know that it's really far
too late now to stop us.
For if the sky is seeded death
what is the point in catching breath?
Expel it.
What cause is there left but to die
in searching of something we're not quite sure of?"

What cause is there left but to die?
... I really don't know why ...

I know our ends may be soon
but why do you make them sooner?
Time may finally prove
only the living move her and
no life lies in the quicksand.

Yes, I know it's
out of control, out of control:
greasy machinery slides on the rails,
young minds and bodies on steel spokes impaled.
Cogs tearing bones, cogs tearing bones;
Iron-throated monsters are forcing the screams,
mind and machinery box-press the dreams.

But there still is time ...

Cowards are they who run today,
the fight is beginning...
no war with knives, fight with our lives,
lemmings can teach nothing;
death offers no hope, we must grope
for the unknown answer,
unite our blood, abate the flood,
avert the disaster.

There's other ways than screaming in the mob:
that makes us merely cogs of hatred.
Look to the why and where we are,
look to yourselves and the stars,
yes and in the end
what choice is there left but to live
in the hope of saving
our children's children's little ones?

What choice is there left but to live?
to save the little ones?

What choice is there left but to try?

【メモ】
第1期(Van Der Graaf Generatorの1971年の4thアルバム。一旦解散する直前のこの時期、集大成的な過激な音のぶつかり合いが、強烈な印象を残す傑作。全3曲という大作揃いの中のトップを飾る曲がこの「Lemmings」である。

レミングは別名タビネズミと言い、異常繁殖すると集団移動して湖や海で大量に死ぬという“集団自殺”する習性を持つ動物として有名だ。そのイメージがこの歌の前提としてある。

正式なタイトルは「Lemmings (including Cog)」。「including…」はKing Crimsonの初期のアルバムタイトルを思い出させる。「cog」とは「歯車」あるいは「歯車の歯」、比喩的には「大機構の中で歯車の歯のような小さい役割を演ずる人」のこと。「cog」は歌詩の中にも現れる。

なお、歌詞は2005年版のCDライナーノートのものを採用した。ダブルクォーテーション(" ")で囲われている部分は、わかりやすくするため敢えてイタリックにしてある。原文の表記の仕方とは異なるがご了解いただきたい。

では実際の歌詞世界を見てみたい。

歌詞は、岸壁に一人たたずむ「僕」の内省部分と、「僕」が耳にする「声」からなる。「声」は「僕」の周りでレミングのように集団で海に飛び込んでいく人々から発せられている。「僕」にとっては理解できない「ゲーム」にしか見えないその行為について、「声」は「僕」に話し始める。

そこで語られるのは“絶望”である。英雄だと思っていた人物は無力だった。夜明けも見られない。天(天国)を「sear」しようとしたが、自分たちは血を流し続けている。「sear」は「焼く・焦がす」という意味に加え、「焼杓する(病気の組織を電気や薬品で焼いて治療する)」という意味がある。天を「sear」するというのは、天国あるいは宗教の在り方、あるいは宗教組織を浄化、改善しようとして果たせなかったことを示しているのだろう。

そして全てに無力を感じるだけでなく、さらには追いつめられている。「前進する以外に道はない」のだ。「解決策」を考えることすら放棄している。「あのしきたり(that convention)」とは、既存の価値観だろうか。それをいまさら受け入れることなどできないのだ。こうして彼らに残されているのは“絶望”のみなのである。そして今彼らは叫び声を上げながら、断崖から海へと身を投じようとしているのだ。

彼らは自分たちの「young, new law(若く、新しい法律)」の素晴らしさは信じているのだ。それを前にしては誉れ高き王たちも塵に過ぎないと考えているのだから。しかし向っているのは暗いトンネル、未知の奈落への最後の跳躍なのである。

それを聴いて「僕」は問い返す。「死以外にどんな目的が残されているというのか、だって?」「僕」はそんなことを言う理由がわからないという。明らかに「僕」はレミングのように死に向おうとしている人々に対し、同意できないという宣言をしている。

「機械(machine)」は世俗的な因習の持つ力の比喩であろうか。血も涙もなく、力任せに、決められたレールの上を有無を言わさず突き進む機械のような、古い体制や古い価値観。若者の心と身体、そして骨は引き裂かれ、夢は矮小化されてしまう。歯車(cog)に引き裂かれた人々は、やがて自らも「憎しみの歯車の歯(cogs of hatred)と化していく。「僕」もそれは知っている。感じている。それは彼らと同じだ。

しかし「僕」は“絶望”してはいない。「まだ時間がある…」と「僕」は言う。「僕」にも明快な「解決策」があるわけではないのだろう。しかし命をかけた戦いを始めようとしているのだ。自分たちの子どもたちの子どもたちの子どもたち(小さき子ら)のために。つまり自分の、そして子どもたちの未来のために、「僕」は“希望”を持って、生きようとしている。「僕」は言う。「生きる以外にどんな選択肢があるというのか?」。まさに彼らと逆の叫びである。

厳しい現実、そこには宗教への不信感が色濃く出ている気がするが、そうした中で、現実を否定せず、多くの“絶望”する人たちを目にしながら、それでも“希望”を見いだそうとする「僕」。そこに、いつの時代にも通じる、生きようとするエネルギーを感じる。

力強い歌詞であり、力強い曲である。