ラベル Paatos の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Paatos の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2009年6月4日木曜日

「クイッツ」パートス

原題:Quits

Timeloss(タイムロス)収録








どうしたら私にこんなことができたというの?
どうしたら私をこんなひどい目にあわせられたの?
なぜ私にこんなことをしたの?
なぜ私たちが共有していたものを壊してしまったの?

あなたを信じていたのに
そしていつもあなたにどうしたらいいか聞いていたのに
私が求めていたのは良いことだけ
それなのにあたなは私をこんな気持ちにさせた
だから聞きたいの、どうしてかを:
- 最初あなたは私を空高く連れて行ってくれると約束してくれた
それは最低の嘘っぱちだった
あなた自身の悲しい本当の姿を偽っていただけ

どうしたら私にこんなことができたというの?
どうしたら私をこんなひどい目にあわせられたの?
なぜ私にこんなことをしたの?
なぜ私たちが共有していたものを壊してしまったの?
どうしたら私にこんなことができたというの?
どうしたら私をこんなひどい目にあわせられたの?
なぜ私にこんなことをしたの?
なぜ私たちが共有していたものを壊してしまったの?

ただ横たわって死んでしまいたい
私を泣かしたのはあなたが最初
でも代わりに私はゆっくりと立ち上がり
私の前からあなたに消えて欲しいと言うわ

||: 一人にして! :||

(→崩壊


How could you do this to me?
How could you treat me this bad?
Why did you do this to me?
Why did you break this thing we had?

I put my trunt in you
And alwasys asked you what to do
All I wished for was good
Instead you pushed me down to this mood
So let me ask you jut why:
- At first you promised me to the sky
It was the biggest of lies
Your own sad truth in disguise

How could you do this to me?
How could you treat me this bad?
Why did you do this to me?
Why did you break this thing we had?
How could you do this to me?
How could you treat me this bad?
Why did you do this to me?
Why did you break this thing we had?

Just wanna lie down and die
You are the first one to make me cry
But instead I slowly rise
Want you to get out om my sight"

||:Leave me alone!:||

(→"Fall apart")

【解説】
スウェーデンのバンドPaatos(パートス)のデビューアルバム、「Timeloss」より、そのラストを飾る12分の大作だ。ボーカル部分は前半、女性が訴える言葉。いわゆる状況説明に近い。そして(→"Fall apart")が、彼女の“崩壊”していく様を描くような強烈なインストゥルメンタルパートとなっている。

もう、この歌詞にこもる怨念のようなものが凄まじい。ひたすら相手を問いつめ、追い詰めていく。悲しく、苦しく、悔しく、絶望的な女性の思いを、答える余地なくたたみかけるような恐さがある。

曲はブレークビーツのようなプログラミングされたドラミングに乗って、最初から疾走する。あたかも女性の思いが相手に次々と叩き付けられるかのように。

しかし彼女は死にそうな思いを断ち切り、立ち上がり相手に出て行くように言う。「ひとりにして!」と叫びながら。それは彼女が相手の真の姿を知ってしまったから。自分から去って行こうとする相手にすがろうとするのとは大きく違うのだ。

そこからが凄い。恐らくインストゥルメンタルで描かれるのは、彼のいなくなった彼女の心理的崩壊だ。デジタルビートにやがてドラムスが取って代わり、管楽器まで導入され疾走しつつ混乱をきたす音の固まりが続く。そして疲れ切ったかのように突然曲が終わる。

Paatosの持つ、世界の深さ、演奏力の素晴らしさ、ゲストのプレイヤーを入れても作りたい音の確固たるイメージ。恐ろしくカッコ良く、恐ろしく幽玄な世界。

ちなみにタイトルの「Quits」は、「quit」なら「屈する、やめる、立ち退く」などの意味を持つ動詞と「離すこと、放棄」などの名詞がある。「s」と複数形になっているから名詞か。そうすると彼女の期待していたこと、ことごとくに対する「あきらめ」とも取れる。

しかしまた「quits」という単語で「貸し借りのない」という形容詞としても使われる。例えば「I'll be quits with you.」と言うと、「この借りは返すからな(覚えていろよ)」という意味。

死にそうな絶望の中から、ゆっくりと立ち上がって相手を追い出した彼女が、次第に崩壊していく気持ちの中には、そんな思いも含まれているのかもしれない。とても意味深なタイトルなのだ。

傑作アルバムの最後を飾る強烈な曲。

2009年4月23日木曜日

「ヒプノティック」パートス

原題:「Hypnotique」

Timelossタイムロス」収録



わたしは一輪の花 香りを嗅いで
一つだけ確かなこと それはわたしの運命
わたしに栄養を与えて そうしたら幸せをあげる

あなたは水 わたしをびしょびしょにして
二人がいっしょにいれば そこに調和が生まれる
わたしといっしょにいて そうすれば希望と情欲に満たされる

ここにわたしは今立っている 裸のままで
あなたが答えを求めても 何も得ずただ苦しむだけ

「わたしを愛するか愛さないか遊び」という むなしいゲーム


ここにわたしは今立っている しおれて
あなたを独り占めして わたしの一部にできると思ったのに
欲深な わたしの中に吸い上げられたたあなたの偽りの涙が

「私を求めてに泣いたのよ」


I'm a flower - smell me
One thing is certain - that is my destiny
Nourish me - and I will bring you happiness

You are my water - drown me

When we're together, there is harmony

Be with me - and all there'll be is hope and lust


Here I'm standing - naked

Your search for answers will end in agony

"Loves me not or loves me do" - a game in vain
Here I'm standing - withered
Thought I could keep you, make you a part of me

Miserly absorbed your false tears

"Cried for me"


【解説】
スウェーデンのバンドPaatos(パートス)のファースト・アルバムから、2曲目の「Hypnotique」(= Hypnotic 催眠状態の)。ささやくようなボーカル、エコーのかかったピアノとフルート。静かに美しい曲である。

しかしこのトリップ感覚を含んだムーディーさは、まさに女性が愛する男性に暗示をかけて自分の世界へと引きずり込もうとするような妖しさを秘めた曲である。
女性は一方的に相手に愛を求めている。「わたしは花」だから「水を与えて」と。そうすれば見返りとして「しあわせ」をあげるし、そうして二人がハーモニーを奏でることで、希望と情欲に満ちた生活が得られるのよと。

「Nourish me」「Be with me」と命令文が続く。それこそ暗示や催眠(hypnotic)をかけるかのようだ。

ところどころに使われている言葉がエロティックなイメージを喚起する。1連目の1行目「香りを嗅いで(smell me)」、距離がかなり近づかないといけないのと、においを嗅ぐという野生的な行為がエロティックさを感じさせる。

2連目の1行目、「drown me」も「溺れさせて、びしょびしょにして」と、単に水をやるというよりはもっと生々しい表現だ。

3連目「ここにわたしは今 立っている」は、準備を整えて「あなた」を待ち受けているかのようだ。それも「はだかで(naked)。しかし「あなた」はどうしていいかわからずただ苦悩(in agony)するだけだろうと言う。ことが思い通りに進まないであろうことを予期している。結局それは“私を好きになるならない遊び”という、空しいゲームだと。

この3連で、一方的に言いよっていた「わたし」に中に影が射す。そこには愛はないかもしれないと。そして静かに流れるメロトロン、フルート、ギターが、曲を次第に盛り上げていく。

4連で、「わたし」の思いは叶わないことがはっきりする。わたしは3連と同じように
同じ「ここにわたしは今 立っている」。ただし「しおれて(withered)」立っているのだ。同じ文で始まることで、結局そのまま相手にされず放っておかれたかのような印象を醸し出す。

過去形で「あなたを独り占めにして わたしの一部にできると思っていた」が、現実はそうはならなかった。ただ「わたし」が吸い上げたのは「あなた」の滋養豊かな水ではなく「偽りの涙」。それはわたしを生かしはしなかった。でもその涙は「わたしを求めて泣いたのよ(Cried for me)」。「わたしのために涙を流した」ともとれるが「わたし(のからだ)を求めて泣いた」とも取れる。だから「miserly(欲の深い、しみったれた)」なのだろうう。

しかし「いつわりの涙」であっても「わたし」はその状況を怒りもせずただ哀しみながら受け入れているのかもしれない。思う通りにならなくても、しおれてしまっても、あなたが答えを出せなくても。あなたを愛しているから。

曲はこの後メロトロンの劇的な音を背景にフルート、ドラムが激しい演奏を行い終わる。「わたし」のやるせない思い、
かなわぬとわかっても全てを投げ出しても自分のものにしたい「あなた」への思いを叩き付けるかのようである。

単なる歌ものに終わらない、どこか狂気をはらんだような歌詞と、静かにささやくようなボーカルから最後に劇的に盛り上がるドラマティックな演奏。Paatosの魅力あふれる名曲である。

2009年2月20日金曜日

「センサー」 パートス


原題:「Sensor」


Timelossタイムロス」収録




 石 - わたしの胸の中に
 ぐちゃぐちゃの状態で生まれた石
 最後の安息に向っていた時に

 わたしはわたし自身を眠らせる
 ゆっくりと夢から走り出し
 失望し 幻滅しながら 這い進む 
 
 あなたはわたしを 苦もなく見つけ出すでしょう
 その時、わたしは微笑んでいるかしら?
 あなたの名前を決してわからないだろうと思うと とても残念だわ



 Stone - Heavy in my chest
 Born in a state of mess
 As I hurry to my final rest

 I put myself to sleep
 Slowly running from my dreams
 Disappointed, disillusioned creep

 You'll find me without pain

 I wonder - will I smile?
 It's a shame I'll never know your name
 

【解説】
「セ ンサー」(原題:Sensor)は、英語のpathos(悲哀)を意味するパートス(Paatos)のデビューアルバム「TIMELOSS」(邦題:「タ イムロス」)、冒頭の曲である。スウェーデン出身の女性ボーカルをフロントにプログレッシヴな音楽を演奏するバンドだ。

サウンドは物憂くけだるい面と、繊細な面と、暴力的な荒々しさが同居する振幅の激しいもの。しかしそれらをペテロネラ・ニッテルマルム(Petronella Nettermalm)の美しいが陰りのある線の細いボーカルが、ひとつの世界へとつなぎ止めていく。

曲 はエレクトリック・ピアノとパーカッションによる心地よいラウンジ・ミュージック的な音楽でオシャレ風に始まる。かと思いきやエレキギターが入るところか ら曲調は一転し、ボーカルが激しいドラムとメロトロンをバックに力強く歌い始める。そしてほぼ一気に上記の歌詞を歌い切る。

曲調は激しいが、歌詞の内容は非常に“死”のイメージが濃厚だ。「最後の安息(final rest)」に向けて急いでいる「わたし」はぐちゃぐちゃの状態でずっしりと重い石を胸の中に持っている。重苦しい、息の詰まるような表現。

第 2連では「わたし」は「自分自身を眠らせる(put myself to sleep)」とあるが、「put…to sleep」には普通に眠らせるという意味だけでなく、「麻酔をかける、安楽死させる」という意味もある。眠たくて眠るのではない、無理矢理眠らせるとい う意味合いが強い表現だ。だから第1連の「最後の安息」とイメージがつながり、「死」を感じさせることになる。

「running from my dreams」とあるので、夢に向ってではなく、逆に「夢から遠ざかるように走る」のである。現実の夢かもしれない。続く「失望し (disappointed)、幻滅し(disillusioned)」という言葉が、夢と対局にあることからも、それは伺えるだろう。

「creep」は2連冒頭の「I」を主語とした動詞として訳した。そこで「失望し、幻滅しながら 這い進む」と訳した。どこに向って?夢とは逆の世界、夢破れた世界、つまり「死」の世界に向って。

そ して「あなた(you)」は苦もなく、簡単にわたしを見つけるだろうと言う。わたしの亡骸だろうか。「その時、わたしは微笑んでいるかしら?」そこに平安 を見つけることができているだろうか。少なくとも現実の辛さから逃れられた安堵に微笑んでいるのかしら、という感じか。

最後の一行「It's a shame I'll never know your name」も、これまでの流れから「死」を感じさせる。残念ではあるが、死んでしまった「わたし」にはもう、わたしを見つけてくれた「あなた」の名前は永遠にわからないのだ。

で はこの「you」とは誰なのだろう?「I」が恋した人と考えると「名前は決してわからない」とあるのがつながらない。この曲を聴いたリスナーはそれは自分 だと思うのではないか。すでにわれわれはパートスの世界、彼女の歌が描く世界に取り込まれてしまっている。われわれ一人一人は、自ら命を絶とうとしている 人間の、一番身近にいるのだ。

ボーカルのパートが終わると、メロトロンが鳴り響く神聖な雰囲気を持ったパートが始まる、ギターが感傷的なメロディーを奏でる。そして激しいけれどもどこか平和なシンセソロで曲はやや唐突に終わる。

まるで詩的に装飾された遺書のような歌詞である。
最初のアルバムの最初の曲がこれである。スゴイ。

ち なみにアルバムトータル時間は40分を切るLP時代を彷彿とさせる長さ。しかしあらゆる要素が混在する密度の高いアルバム。ラストの曲はブラスまで導入し たジャズロック風インストゥルメンタル満載の曲。このバンドはドラムのキレが凄いから、アンニュイな雰囲気を持っていても、ムードに流されないことを再確 認。

キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」並に多様な曲が平然と並び、一つの世界を作り上げているデビュー作にして傑作。

Paatoslive