2009年7月1日水曜日

「フェインティング・イン・コイルズ」ブラッフォード

原題:Fainting In Coils / Bruford


One of a Kind
(ワン・オブ・ア・カインド)収録






アリスはその件についてこれ以上聞こうという気持ちがなくなりました、
そこで彼女はにせウミガメの方へ向き直ると、言いました。
「それからどんなことを習ったの?」

「そうさな、『謎学』があったな、」にせウミガメは答えました、
ひれを折って科目名を数え上げながら、
「…『謎学』ね、古代と現代の、それから『
海洋地理学』:
そして『気取った話し方学』-- 気取った話し方の先生は歳取ったアナゴだったなぁ、
週に一度は来ていたもんだよ:
その先生がわれわれに教えてくれたのは『気取った話し方学』、『からだの伸ばし方学』、そして『とぐろの中で気絶する学』さ。」


Alice did not feel encouraged to ask any more questions about it,
so she turned to the Mock Turtle, and said
`What else had you to learn?'


`Well, there was Mystery,' the Mock Turtle replied,
counting off the subjects on his flappers,
`--Mystery, ancient and modern, with Seaography:
then Drawling--the Drawling-master was an old conger-eel,
that used to come once a week:
he taught us Drawling, Stretching, and Fainting in Coils.'


【解説】
イギリスジャズロックアルバムの最高峰の一つに挙げられるこの1979年発表の「One Of A Kind」。全編緊張感あふれるインストゥルメンタルのはず、とお思いであろうが、一カ所だけ語りが入る。それが旧LPA面ラスト、つまりCD的には前半の山場となる「Fainting In Coils」のイントロ部分だ。

 ナレーター:Sam Alder
 アリス:Anthea Norman Taylor
 モック・タートル:Bill Bruford

と、ジャケットに記載されている。バンドオリジナルの歌詞ではないが、アルバムの中で印象的な部分なので取り上げる事にしてみた。ビル・ブラッフォード自身も声を変えてはあるが参加している事だし。

ここで寸劇のようにやり取りされているのは、ルイス・キャロル(Lewis Carroll)による文学作品「不思議の国のアリス」(「Alice's Adventures in Wonderland」)の一節である。

具体的には第9章に出てくる、アリス(Alice)とにせウミガメ(Mock Turtle:カラダはウミガメで頭は子牛)とグリフォン(Gryphon:ギリシャ神話のグリュプスのことで、ワシの頭と翼、ライオンの胴体を持つ怪物)の会話の一部。アリスがグリフォンとの話にうんざりして、にせウミガメに向き直ったところだ。

ご覧のように、そのまま訳してもこれは言葉遊びなので当然ながら意味不明である。しかし本来の科目名が浮かぶと、この言葉遊びの面白さが感じられる。

そこで、本来の科目名、つまりここで作者のルイス・キャロルが言葉遊びをする際に、読んでいる人の頭に当然浮かぶであろうと考えた科目名に直してみた。

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アリスはその件についてこれ以上聞こうという気持ちがなくなりました、
そこで彼女はにせウミガメの方へ向き直ると、言いました。
「それからどんなことを習ったの?」

「そうさな、『歴史』があったな、」にせウミガメは答えました、
ひれを折って科目名を数え上げながら、
「…『歴史』ね、古代と現代の、それから
地理
そして『図画』-- 図画の先生は
取ったアナゴだったなぁ、
週に一度は来ていたものだ:
その先生がわれわれに教えてくれたのは『図画』、『スケッチ』、そして『油絵』さ。」

Alice did not feel encouraged to ask any more questions about it,
so she turned to the Mock Turtle, and said
`What else had you to learn?'


`Well, there was History,' the Mock Turtle replied,
counting off the subjects on his flappers,
`--Mystery, ancient and modern, with Seaography:
then Drawing--the Drawing-master was an old conger-eel,
that used to come once a week:
he taught us Drawing, Sketching, and Painting in Oils.'

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言葉遊びに使っている単語は、下の対照表に示したように綴りや発音が似ているから、読者は実際の科目名を頭に浮かべては、そのあり得ない科目名をニヤニヤと楽しむわけだ。

 Mystery(ミステリー)ーHistory(ヒストリー)
 Seography(スィオグラフィ)ーGeography(ジオグラフィ)
 Drawling(ドローリング)ーDrawing(ドローイング)
 Stretching(ストレッチング)ーSketching(スケッチング)
 Fainting in Coils(フェインティング・イン・コイルズ)
  ーPainting in Oils(ペインティング・イン・オイルズ)

そして、中でも最後の「Fainting in Coils」のナンセンスさ、摩訶不思議なイメージが特に最高である。ここに目をつけて曲名に使ったセンスの良さに感激してしまうくらいだ。

「Fainting in Coils」という曲だけでなく、「One Of A Kind」という超絶技巧を駆使したアルバムの、迷宮的な音楽世界をも象徴する引用だったように思う。

ちなみにアルバムタイトルとなっている「one of a kind」という表現は、「ユニークな、独自の、比類のない」という意味。まさにこのアルバムにぴったりだ。


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