2009年2月11日水曜日

「ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ1:アカペラ」キング・クリムゾン

原題:「The Power To Believe : A Cappella」


「ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ
(The Power To Believe)収録




 

彼女は 無気力な日々 ずっと私を支えてくれている
彼女は 乾いた僕をたっぷりの水で潤してくれる
彼女は ある意味、僕の人生を救ってくれたんだ
信じる力を 僕に取り戻させてくれた時にね



 She carries me through days of apathy
 She washes over me
 She saved my life in a manner of speaking
 When she gave me back the power to believe


【解説】
70年代から現在に至るまで、プログレッシヴ・ロックのみならず、ロック界全体でも常に先鋭的な活動をし続けている現役バンドKing Crimsonの、2003年の作品、現時点での最新アルバム冒頭の曲である。

「ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ」はI、II、IIIとアルバム中3回出てくるが、上記の歌はIとIIIで歌われる。ただIIIではサウンドとの掛け合いのようになっているので、歌として通して聴けるのはこのI、つまりアルバム最初の曲においてということになる。それもイコライズされた声ではあるがアカペラで。とても短いが印象に残る曲だ。

訳詞上のポイントは“in a manner of speaking”で、「いわば、ある意味で」という熟語だから、「話す」とは言っていない。彼女はカウンセラーのように、話すことで「僕」を救ってくれている訳ではない。

「信じる力」(The Power To Believe)とは、何と力強い言葉だろう。1969年のデビューアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」の『エピタフ』で、“混乱こそが私の墓碑名とな るだろう”と歌って、当時のニューロックの中でも強烈なインパクトと支持を得たバンドは、今絶望の中の希望を歌おうとしている。

もちろん 能天気に現状を肯定したり、道徳的に人を信じましょうと説いているわけではない。むしろこれは「彼女」への感謝の言葉であり、おそらく愛の言葉である。無気力な自分を見捨てず、ただそばにいてくれた彼女。それが信じる力を取り戻すことにつながったのだ。だから、この歌は希望の歌であり愛の歌である。そし て、それがこのアルバムのキーワード、つまりアルバムコンセプトだと言ってよい。

“She carries me through days of apathy”は現在形だから、私の無気力な日々はきっと今も続いている。「私」は信じる力を心に持ち続け、「彼女」に支えられながら、生きるために戦っている。
 
時に70年代以上に複雑でヘヴィーな曲を演奏しながら、それは70年代当時の現状に対する怒りや悲しみとは異なり、21世紀の現状に屈しないと言う 意味で、今のCrimsonは戦闘的ですらある。だから叙情に流されるメロトロンを使わなくなったのだろう。詞はギター&ボーカルのエイドリアン・ブ リュー(Adrian Brew)作。

時々口ずさんでしまうんだなぁ。

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