2009年2月10日火曜日

「ハーバー・オブ・ティアーズ」キャメル


原題:「Harbour of Tears」


■「 ハーバー・オブ・ティアーズ
(原題:Harbour of Tears )収録



 私は七人兄弟の内の一人だ
 兄弟の内の五人は家を出て 新しい生活を始めなければならない
 聖人と殉教者の国と呼ばれるこの地で
 悲しみの涙が雨の中に潜んでいる

 それじゃ さようなら
 私のことを忘れないで…
 「涙の港」から出て行った私のことを

 父の叫ぶ声が今も聞こえる
 「たとえどこへ行こうとも 幸運を祈っているぞ」
 下の岸壁にいる父は 小さく見えた
 たぶん今となっては本当に知ることのできない人

 それじゃ さようなら
 私のことを忘れないで…
 「涙の港」から出て行った私のことを

 さようなら、息子よ… 残念だよ
 もちろんその姿を見せることはできない
 私はこの地の農民だ
 言葉をうまく使える人間じゃない
 私のそういうところを許しておくれ
 おまえは私のことを何も知らなかったんだ
 たとえどこへ行こうとも 幸運を祈っているぞ



 I am one of seven brothers.
 Five of us must leave and start again.
 In this land of Saints and Martyrs,
 Tears of sadness hide within the rain.
  
 So fare thee well, Remember me...
 Sail from the Harbour of Tearss
 
 I can hear my father calling
 'Godspeed, my son,
 wherever you may go'
 He looked so small
 down on the quayside.
 A man I guess
 I'll never really know. Goodbye, lad... I'll miss you,
 though I don't show it.
 I am a farmer of the land,
 I'm not a man of words.
 Forgive me my failing,
 you never knew me.
 Godspeed wherever you may go...

   
【解説】
「Harbour of Tears」は、イギリスのバンドCamel(キャメル)が1996年に発表した感動作。Camelの中心実物というか、この時期のCamel自身とも言 えるギターのアンディー・ラティマー(Andrew Latimer)が、父の死をきっかけにその人生に思いをはせる。それは父方の祖父母への興味へとつながり、その出身地であるアイルランドの悲劇を知るこ とになる。

父方の祖母はアイルランドで裁縫婦をしていた。大家族であった。1800年にアイルランドはイギリスに併合(事実上の征服)さ れ、経済的、政治的中心地がロンドンに移ったため、大きな打撃を受けた。さらに1845年には大飢饉とチフスが流行し、100万人が死亡し100万人がイ ギリスや北アメリカへ移住したと言われる。

詞は、アイルランドを襲ったこのような悲劇、さらにその悲劇を実際に体験した祖父母の家族の歴 史を背景とした、父と祖父の別れの場面を描く。そして父が寡黙な農民である祖父を実は良く知らないでいたことと、自分が亡くなった父のことをどれほど知っ ていたのだろうかという思いを重ねているのだ。

実際の曲ではアンディが息子、ベースのコリン・バース(Colin Bass)が父の役で、後半部分はそれぞれが違う歌詞を歌いながらのデュエットになっている。二人の悲しみが交錯する様が目に浮かぶようだ。
短い曲である。しかしこの曲に先立つ「アイリッシュ・エア」での女性のアカペラから、アンディの最初の一音から鳥肌が立つような悲しみのギターソロを経て始まる最初のボーカル曲である。アルバム全体に一気に深みを与える素晴らしい曲。

またこうしてアイルランドの歴史的経緯、アンディの父の死という個人的出来事を知ることで、より作品の味わいが深まるという、プログレッシヴ・ロックには比較的珍しいタイプのアルバムだとも言えるだろう。


0 件のコメント:

コメントを投稿