2009年3月26日木曜日

「シェア・イット」ハットフィールド&ザ・ノース

原題:Share It

■「THE ROTTERS' CLUB
 (ザ・ロッターズ・クラブ)収録





  オタマジャクシたちが耳の中で金切り声をあげている:

「ねえねえ、ろくでなし同好会!  
この歌の意味を教えてよ、そしてそれを共有しようよ!!」

何が起こっているのか理解する方法はないんだ

僕は昨日現状がわからなくなってしまったんだ
今となってはを目覚めさせるのは 寛大さだとわかったんだ
だからそんなふうにやっていこうじゃないか
は僕に対して気を遣わないでくれたまえ
も君や君の友だちに気を遣わないようにする
- 僕たちはそんなやり方を広めることができるだろ
急ごうじゃないか だって僕らは時間を無駄にしているんだから

本気で取らないでおくれよ、本当に、なんたる冗談!

大事なのは共有するってことだ

激しく困惑してるところに無神経に感情を吐き出したりすれば、君はうんざりしてしまうだろう

お金はどこか別のところで使ってよ
その手の安っぽい哲学で君をわずらわせたくないんだ
そんなのはテレビでやってるのを見る方がまだましさ
特に大多数は 人目を忍んで使ったヘアスプレーにちょっと注意を向けるだけさ
みせかけだけの女優が服を脱ぐ時にはね
ただ単に自分の曲線美や胸の谷間と
髪の毛のことなど完全に気にしてないというそぶりを示す時にね

本気で取らないでおくれよ、本当に、なんたる冗談!

できるのはにっこり笑って耐えることだけさ

面白くもないのに笑ったり、とても平凡な病的な感情

そんなものは君をほとほと退屈させてしまうだろう
中断しない笑いを僕におくれ、そして災厄を追い払っておくれ
そうしてくれなきゃ、ろくでなし同好会は君の耳を切り取っちゃうだろう

また再び、笑い、酒を飲み、踊り、大いに楽しみ、酔いつぶれ

できるだけ歌を歌い、君がそれを共有してくれるのを望みながら

Tadpoles keep screaming in my ear:

"Hey there! Rotter's Club!
Explain the meaning of this song and share it!"

There's no way of understanding what's been going on

I lost track yesterday
Now I found out that it's generosity that turns me on
So let's keep it that way
Help yourself to me,
I'll help myself to you and all your friends
– we can spread it around
So if you can spare it then come on and share it
Let's get on with it cause we're wasting our time

Please do not take it seriously really, what a joke!

The only thing that matters is to share it

Crass displays of acute embarrassment would make you cringe

Spend your money elsewhere
I won't trouble you with all that cheap philosophy
It's better still to watch that on T.V.
Most especially adverts of some slinky hairspray
When the plastic actresses take off their clothes
Just to demonstrate all their curves and cleavages
and subtleties quite forgetting their hair

Please do not take it seriously really, what a joke!

The only thing to do is grin and bear it
Mirthless merriment, sickly sentiments so commonplace
It would bore you to tears
Give me non-stop laughter, dispel disaster
Or the Rotter's Club might well lop off your ears

Laughing and drinking, dancing, grooving, stoned again

Falling over singing, hoping that you'll share it

【解説】

カンタベリーミュージックの一つの頂点と言われるハットフィールド&ザ・ノースのセカンドアルバム「ロッターズ・クラブ(Rotters' Club)」(1975)から、最初の曲「シェア・イッット(Share It)である。

冒頭いきなりのボーカル曲で、リチャード・シンクレアが甘く安定した歌を聴かせてくれる。カンタベリー・ジャズロックを期待していると肩すかしをくらったような感じだけれど、この力の抜け加減がカンタベリー的とも言える。Caravanの「グレイとピンクの地」の冒頭を飾る「ゴルフ・ガール」を思い起こさせる。


しかし同じ歌ものにしては、この「ロッターズ・クラブ」の方がはるかにリチャード・シンクレアの歌唱に力がこもっている。それはバックのメンバーに影響されてのことかもしれない。


フィル・ミラーのギター、デイヴ・スチュワートのキーボードが、音に厚みと彩りを加える。Caravanよりロック的なパワーがある。


歌詞は、混乱してしまって歌の意味をうまく説明できないでいる自分を描く。耳の中でオタマジャクシが「ろくでなし同盟(Rotters' Club)」と叫んでいる。オタマジャクシは音符の比喩か。ろくでなし同盟はバンドを暗に指しているのか。「歌の意味を教えておくれ、そして共有しよう!」とオタマジャクシは叫ぶ。音楽がバンドにどんな音楽が作りたいんだい、どんな意味やメッセージをそこに乗せたいんだいと聞いているかのようだ。

しかし「僕」はどう曲を作って、どう意味付けしていこうか、もうわからなくなっている。まあ気楽に行こうよとオタマジャクシ、つまり“音楽”に言っている。「本気で取らないでくれよ、なんたる冗談だろう!」と言う言葉が、歌詞の意味を掘り下げる無意味さを指しているかのようで面白い。「大切なのは共有すること(share it)なのさ」という、一緒に楽しむことが大事だと言っているのだ。音楽は意味ではない、共有して楽しむことなのだ。

2連の「generocity that turns me on」の「turn on」や最終連の「stoned again」は、共に「ドラッグを使う」「(ドラッグで)恍惚となった」という意味も持っている。そこはかとなく、一緒に享楽に溺れようぜと言っているようなところも感じられる。

ちなみに「リーダーズ英和辞典」(研究社)によると、「turn on, tune in, drop out (しびれて目ざめて抜け出せ)」という1960 年代のカウンターカルチャーで LSD を若者に奨励するスローガンだそうで、「薬をやって, カウンターカルチャーの環境に波長を合わせ, 社会から脱落せよ」というほどの意味として知れ渡っていたという。ヒッピー文化の教祖的存在であった Timothy Leary (1920‐96) が 66 年に行なった講演中で述べたことばに由来するらしい。

いずれにしても、そこに難しい意味や含蓄を求めず音楽を共有しようとアルバム冒頭で宣言した上で、その後に驚異的なインタプレイの応酬ながら、ポップさと美しさを秘めたインストゥルメンタルが続いていく。

ちょっといい感じの力の抜け加減が、作品全体の取っ付き易さを象徴している一曲。

  

2 件のコメント:

  1. ナカニシタカアキ2014年2月18日 18:37

    はじめまして。
    リチャードシンクレア4月の19.20日と東京でライヴありますね。楽しみです。

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    1. コメントありがとうございます!リチャード・シンクレアのライブが東京であるとは知りませんでした。ありがとうございました!

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