2009年4月1日水曜日

「ナイト・ウォッチ」キング・クリムゾン」

原題:The Night Watch

■「Starless and Bible Black

 (暗黒の世界)収録





輝け輝け、素晴らしき作品が放つ光よ輝け

最盛期に描かれた 城門の前に立つ警備隊
今は完全にすすけてしまったその金色の光
三百年の時が過ぎ去ったのだ
持ち場を固守する 立派な指導者と騎兵隊の一団

その芸術家は彼らの顔を良く知っていた

女性友だちの旦那だとか
債権者たちや議員たち
まばゆい衣装に身を包んだ商人の男た

過ぎ去りし日々以来ずっとはつらつとした姿勢を取り続けている

ギルド(中世の商人団体)の職務を行う瞬間
年代を経ることで暗くなったキャンバスの上で
凍り付いたように動かない市の有力者達

油絵の具の匂い 一瓶のワイン

そして彼らの顔がすべて私に向けられる
ラッパ銃と矛槍(ほこやり)の柄
そしてオランダ人達の立派な態度

彼らは一人ずつ登場する

その当時の生き方を擁護する者達
赤煉瓦の家 ブルジョアジー
妻のためのギターの練習

ひどく長い年月 我らはここで苦しんでいた

スペイン戦争に苦しめられた我らの国
今自分達自身を見いだす機会がやってきた
このドアの後ろに広がる穏やかなる統治
我らは再び後世について思いをめぐらす

そして普通の人々が持つ誇りを

今でも画家の手により生き続けている
善良で誠実なる市民は
皆すべてが理解してくれるよう願っているのだ

Shine, shine, the light of good works shine

The watch before the city gates depicted in their prime
That golden light all grimy now
Three hundred years have passed
The worthy Captain and his squad of troopers standing fast

The artist knew their faces well

The husbands of his lady friends
His creditors and councillors
In armour bright, the merchant men

Official moments of the guild

In poses keen from bygone days
The city fathers frozen there
Upon the canvas dark with age

The smell of paint, a flask of wine file

And turn those faces all to me
The blunderbuss and halberd-shaft
And Dutch respectability

They make their entrance one by one

Defenders of that way of life
The redbrick home, the bourgeoisie
Guitar lessons for the wife

So many years we suffered here

Our country racked with Spanish wars
Now comes a chance to find ourselves
And quiet reigns behind our doors
We think about posterity again

And so the pride of little men

The burghers good and true
Still living through the painter's hands
Request you all to understand


【解説】

1973年に「太陽と戦慄」で活動を再開したKing Crimsonが、ライブ音源とスタジオ音源を見事に一つのアルバムに詰め込んで作り上げた1974年作「Starless and Bible Black(暗黒の世界)」からの一曲。特にこの曲は変則的な作りで、イントロでギターがかき鳴らされる部分まではライブ、その後一旦音が消えて静かなギターに導かれてボーカルが歌い出すところから最後までがスタジオ録音である。

荒れた感じのライブの音が消え、一瞬の沈黙からスタジオでの丁寧な音に切り替わる手法が斬新で、息をのむような美しさを生んでいる。そして歌われるのが「夜警(The Night Watch)」とタイトルのついた歌詞だが、作詞のリチャード・パーマー・ジェイムズは、オランダの17世紀の画家、レンブラントの「夜警」にインスパイアされて、この詞を作ったという(下図)。


つまり夜警している人を歌ったのではなく、「夜警」の絵について歌った内容であるということだ。従って17世紀から20世紀、三百年、警備隊は絵の中で生き続けている。

油絵の具の臭いをかぎ、ワインを味わいながらこの絵を見ていると、絵の中の人物が「わたし」に目を向け、一人一人絵から抜け出てくる(「make one's entrance=登場する)かのようである。
「bourgeoisie(ブルジョアジー)」はブルジョア階級のことをで、「bourgeios(ブルジョア)」とは、中世ヨーロッパで、上層の貴族・僧と下層の労働者・農民との中間に位置した商工業者や市民を指す。まさにギルドをや警備隊を作っていた絵の中の人物たちのことだ。

ちなみに「妻のためのギターの練習」というフレーズの後で、実際に曲間のギターソロが入るというのも心憎い構成。

そして苦しい時代を経て、自らの力、市民の警備隊の力で自分たちを守っている彼らは、後の世に思いをめぐらす。それが最終連だ。

「a little man」とは「けちな野郎、取るに足りない男、普通の人、平凡な人」というような意味があるが、ここでは悪い意味ではなく、一般の市民と解した。「burgher」も「中産階級の市民、<特に>オランダ・ドイツの都市の市民)」を指す言葉だ。

最終連は一行目が、最後の「understand」の目的語にあたる倒置の構造だと解釈した。従って、その一般市民である「夜警」の絵に描かれた彼らは、一般の人々が持つ誇り、プライドの大切さを理解せよと訴えているのだ。

過去にはこれほど市民が希望に満ちた時があったのに、と混沌とした現代を逆に浮き彫りにさせる歌詞とも取れるし、過去の勇敢な市民たちが画家の力で時を越えて、現代の我々を応援してくれているんだ、とも取れる。個人的には、力強いギターソロや全体的に優しいタッチのサウンドを聴くと、わずかでも希望を見いだしたい思いが、この曲から感じられるように思う。

ちなみにこの絵画は、本来は昼の様子を描いた絵だったが、表面のニスが黒く変色したため、夜のような雰囲気になってしまったことから「夜警」という俗称がつけられたという。だから歌詞の中では「watch」とあるだけで「night watch」という言葉はないし、「すすけてしまった」「暗くなったキャンバス」など、「夜警」の絵に関しての知識も盛り込まれている。

「夜警」の正式な題名は「フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ラウテンブルフ副隊長の市民隊」とのことである。


4 件のコメント:

  1. この時代のフランドル絵画におけるギターには寓意として性的な意味が強くこめられてあることをPALMER JAMESはもちろん知っていて、Guitar lesson でなく lessons にしている点を見逃さないで!

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  2. 当時の絵画においてはギターに性的な寓意をが込められているというお話、寡聞ながら存じ上げませんでした。貴重なご指摘をありがとうございます!

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  3. たまたまたどりつきましたが、趣味を共にする方に出会えて嬉しく思っています。
    The Night Watchの冒頭は祈願の意味をふくむ命令文だとずっと思ってました。the light of ~ の部分は呼びかけかなと。もちろん自信はありませんが。管理人様の訳は格調があって素敵です。今後のさらなるご活躍を願っています。

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    1. コメントありがとうございます!
      冒頭部分、ここでは300年を経て煤けてしまっていても光り輝いているという描写だと解しましたが、確かに呼びかけ、願い、あるいは祈りと取ると、この絵に対する話者の思いが増しますね。
      そうするとthe light...shinesと三単現のsがついていないことも解決されます。ご意見採用させて下さい。
      ありがとうございました。

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