2009年4月9日木曜日

「アス・アンド・ゼム」ピンク・フロイド

原題:「US AND THEM」
■「狂気
「The Dark Side Of The Moon」収録





 

    
 僕たち、そして彼ら
 結局 僕らはみな普通の人間に過ぎないんだ
 僕、そして君
 それが僕らが選ぶべきことじゃなかったなんて神のみぞ知るさ
 進めと彼は後方から叫んだ

 そして最前列の兵士たちは死んだ
 将軍は腰をおろし、地図に引かれた線が
 端から端へと動いた
 
 
黒、そして青
 いったい誰が、どっちがどっちで、誰が誰かなんて分かるんだ
 戦況は有利になったり、不利になったり
 結局のところぐるぐる、ぐるぐる回っているだけ
 それはただの口論だって言ってるのを聞いたかいと

 ポスターの運び手は叫ぶ
 息子よ聞きなさい、
 銃を持った男は言った
 戦場にこそお前のいるべき場所があるんだと



 やつらはたぶんおまえを殺そうとするさ
 まぁ、もしお前さんがやつらに、素早くちょっとだけ鋭い一撃をくらわせれば、
 やつらは二度と同じことはやらねぇ。わかったか? やつは権威を手放して、考えるようになる。
 …一度理性的になってみようってな。ちょっとした意見の相違ってやつさ、

 だからって攻めていって滅ぼしちまうこたぁないだろ?
 言いたいのはな、行儀よくしてれば犠牲がないっていわけじゃないってことさ、そうだろ?な?


 倒れ、そして息絶える
 それは助けられないこと、でもそんなことはたくさんある
 一緒にいるとか、あるいは別々にいるとか
 誰か、戦うことって言うのはそういうことじゃないって否定してくれるだろうか
 道をあけてくれ、忙しい1日なんだ
 心の中に考えることがたくさんあるんだ

 一杯のお茶とパン一切れがないために
 その老人は死んだというのだ

  
 
   Us, and them  
 And after all we're only ordinary men
 
 Me, and you
 
 God only knows it's not what we would choose to do
 
 Forward he cried from the rear
 

 and the front rank died  
 And the General sat, and the lines on the map
 
 moved from side to side
 

    Black and blue  
 And who knows which is which and who is who
 
 Up and Down
 
 And in the end it's only round and round and round
 
 Haven't you heard it's a battle of words
 
 the poster bearer cried
 

 Listen son,
 said the man with the gun
 
 There's room for you inside
   
 
 They're maybe gonna kill ya.
 So like, if you give 'em a quick short, sharp, shock,
 they don't do it again. Dig it? I mean he get off light, come to think.
 ...Of rationalising it, once. It's only a difference,
 but why go and ruin it?

 I mean good manners don't cost nothing, do they, eh?     

 Down and Out
 
 It can't be helped but there's a lot of it about
 
 With, without
 
 And who'll deny it's what the fightings all about
 
 Get out of the way, it's a busy day
 
 And I've got things on my mind
 
 For want of the price of tea and a slice
 
 The old man died 

    


【解説】
ピンク・フロイドの「狂気(The Dark Side Of The Moon)」の中でも、特にドラマティックなナンバーがこの「Us and Them」だ。淡々と語られる現実、そして抑え切れず爆発するようなサビのボーカル部分。全体に流れるオルガンの音と、中間部のピアノ、つぶやき、サックスが美しい。



戦争をイメージさせる言葉に満ちた歌詞である。結局僕らはみな普通の人間(ordinary man)なんだ、神のように何もわかってはいない。だからどうすればいいかなんてわからない、という言葉が全ての認識の基本である。そして「僕」の苦しみの根源でもある。

戦場に駆り出され、自分の身は安全な後方にいる上官からの「進め!」という命令一つで、最前列にいた兵士たちはバタバタと死んでいく者たちがいる。将軍(General)は腰を降ろし、状況を確認する為の現地の地形図、あるいは勢力図を見ながら、線が動くのを見ているだけ。線が動くとは、恐らく配置部隊などの移動や、勢力図の再構成の様子を言っているのではないか。

兵士が次々と死んでいるのに、それがわずかな線の動きでしかないという恐ろしさ、そして苛立ち。黒と青というのも、敵軍と自軍との色分けを言っているのだろう。一方で「ただの口論に過ぎないのさ」と現実を把握できていない者もいれば、他方では「その現場(inside)」つまり戦場(
inside the war)にこそ、「お前の居場所があるんだ」と息子に諭す父親もいる。

「僕」は、戦争で単なる線として扱われ、いとも簡単に殺されていく人間がいるという現実を受け止め切れないでいる。自分にはそれを止めさせたりすることはできない。どうしたらいいかわからない。

まして自分が何もできずに死んでいく人なんて、そこら中にたくさんいる(there is a lot of it about)。一杯のお茶とパン一切れがないために死んでいった老人のように。

単なる反戦の歌ではなく、一方で、戦争やその他の理由で、簡単に死んでいく者たち(Them)がいて、他方で、そうしたことを知りながら、どうしていいかわからず、結果的にのうのうと生きている自分のような人間(Us)がいる。その理不尽さ、やるせなさ、自身の無力さ。それがこの曲の根幹だと思う。

途中にイタリックで書かれた部分は、歌詞ではなく、間奏部分で老人風の声が挿入される、その内容である。その男の論理は、やられる前にやれ、ただ相手が懲りて考え直すくらいでいい。攻め滅ぼす必要はない。でも、何もしなくても犠牲者はでないなんてことはないんだ、必要なことはやらなきゃ、というもの。一つの考え方である。こんなつぶやきも、「僕」はどう受け取っていいかわからないのだろう。ちなみにyaはyou、digは「理解する」という意味だ。

前作「Echoes」の幻想的な詩に比べると、明らかに現実と向き合う個人の苦悩が描かれている。この「僕」が感じている理不尽さ、不条理さ、無力感。これもまた現代の「狂気」の一面なのだ。


なおアルバムブックレットにはこのSE的なつぶやきは歌詞として書かれていない。今回はLyricWikiの歌詞データを参考にさせていただいた。

  

4 件のコメント:

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  2. 初めてまして。とても参考になりました。Brain Danageの詩について調べていて、ここに辿りつきました。僕は初めこの詩は、us と them の非対称についてだと思っていました。われわれ一般の人間(we ,us ,I ,front rank)と権力者(them, you,general)の側は選べないということだと。貴ブログを読んでこれは、すべては相対的だという解釈も可能だと思いました。とくに、black とblueやup と downのあたりからは。
    とすると、us them がたとえば敵と味方で、us them の両方を含んだwe かもしませんね。その方が意味が深いと思います。僕は単純にwe は usだと考えていました。

    まったく妄想のようなbrain damageの解釈をブログに載せました。ご意見をいただければ幸いです。
    http://asanagi987.blog27.fc2.com/blog-category-4.html

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  3. コメントいただいてありがとうございます。
    わたしはまだ「Brain Damage」は読み込んでないので、私なりの解釈とかいったものはないのですが、貴ブログの解釈、とても素晴らしいと思いました。
    ラストに「君が所属しているバンドが、今までと違った曲を奏で始めても/君とは月の裏側で会えるだろう」っていうのは、明らかにシド・バレットが頭にある気がします。
    その統合失調症を患った彼への思いは、自分と別の人間の別の出来事ではなく、自分の中にも共鳴する部分がある、自分の中にだって(あるいは誰の心の中にだって)実は狂気が潜んでいる、そんな思いが伝わってくる気がします。
    今度私なりに訳に挑戦してみたいと思います。
    ありがとうございました。

    TAKAMO

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