2009年3月11日水曜日

「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイ」ジェネシス


原題:WATCHER OF THE SKY

■「フォックストロット」Foxtrot 収録








 空を見つめる者 すべてを見つめる者
 彼の世界はその世界のみ 自分自身の世界などない
 人生がもう驚きに満ちてはいない彼は
 眼差しを上に向け、まだ知らぬ星を見つめている

 神の創造物たちは この惑星の土壌を作り上げた

 もう彼らの時代は終わりを告げた
 生命が 再び生命を滅ぼす
 彼らは別の場所で同じことをするのか?
 彼らは子供時代の遊びしか知らないのか?
 たぶんトカゲは 自分の尻尾を切り落としたのだ
 人類と地球との 長い蜜月の終わりの時が来たのだ

 何も残さないからということで この人類を裁いてはいけない

 創造物たちが死に絶えたからと あなたは神を裁くのか? 
 なぜなら今の時点で トカゲは尻尾を切り落としたのだ
 人類と地球との 長い蜜月の終わりの時が来たのだ

 孤独な命からただ一つにまとまった命へ

 今はあなたの旅が終わったとは思わないで欲しい
 なぜなら あなたの船がいかに頑丈だとしても
 海に慈悲の心はない。
 命あるものたちの海において あなたは生き残れるだろうか?
 古代の子供たちよ ここに来てわたしの話を聴きなさい
 これはあなた方が自らの道を進むに際しての お別れの助言なのだ

 悲しいことに あなた方の思いは星々に向けられている

 そこは我々には行けても あなた方には決して行けない
 空を見つめる者 すべてを見つめる者
 あなたの運命はこれのみ そしてこの運命があなた自身のもの

 Watcher of the skies, watcher of all

 His is a world alone no world is his own
 He whom life can no longer surprise
 Raising his eyes beholds a planet unknown
 
 Creatures shaped this planet's soil
 Now their reign has come to end
 Has life again destroyed life?
 Do they play elsewhere, do they know
 More than their childhood games?
 Maybe the lizard's shed its tail
 This is the end of man's long union with Earth
 
 Judge not this race by empty remains
 Do you judge God by his creatures when they are dead?
 For now, the lizard's shed it's tail
 This is the end of man's long union with Earth
 
 From life alone to life as one
 Think not now your journey's done
 For though your ship be sturdy
 No mercy has the sea.
 Will you survive on the ocean of being?
 Come ancient children hear what I say
 This is my parting council for you on your way
  
 Sadly now your thoughts turn to the stars
 Where we have gone you know you never can go
 Watcher of the skies watcher of all
 This is your fate alone, this fate is your own
  


【解説】 
「Watcher Of The Sky」はイギリスのバンドGenesis(ジェネシス)の代表的な傑作アルバム「FOXTROT(フォックストロット)」(1972)の最初の曲である。導入部に現れる、King Crimsonから譲り受けたと言われるメロトロンの分厚い音の壁が印象的だ。

ボーカルが入っても、スタッカートの裏打ちを多用したリズムが新鮮だし、このリズムを中心に強弱の表情をつけながら、曲を進行させていく演奏面での力量も凄い。


さて「Watcher of the skey」の歌詞である。ここにはこの詞の「話者」と「わたしたち(we)」、「あなた/あなたたち(you)」、「神(God)」、「神の 創造物(creatures)」、「この種族(this race)」、「古代の子供たち(ancient children)」そして「星を見つめる者」など、様々なキャラクターが出てくる。それぞれの関係がわかりづらい。

そのヒントとして英語版Wikipediaにアーサー・C・クラークの「Childhood's End(幼年期の終わり)」との関係に触れた次のような記述がある。


The Genesis song "Watcher of the skies" was inspired by the novel, as was Peter Gabriel's bat-winged stage costume. (
Childhood's End」Wikipediaより)
「ジェネシスの『ウォッチャー・オブ・ザ・スカイ』はこの小説に刺激を受けた曲だ。ピーター・ゲイブリエルのコウモリの羽をつけたコスチュームと同じように。」


英語版Wikipediaには「Wacher of the Skies」の項目もあり、次のような解説が書かれている。

It was written by Banks and Mike Rutherford during a soundcheck for a gig in Italy. While they were surveying the deserted landscape of the airfield where they were rehearsing, they wondered what an empty Earth would look like in this state if surveyed by an alien visitor.
(Watcher of the Skies」Wikipediaより)
「この曲はバンクスとラザフォードがイタリアでコンサートのためのサウンドチェックをしていた時に書かれたものだ。彼らはリハーサルをしていた軍用飛行場の人気のない風景を見渡して、宇宙からの訪問者がこの光景を見たら、こんな状態にある地球とは、何て何もない星なんだろうって見えるだろうと想像したのだ。」


いずれの記述にも、alian(宇宙人)から見た地球人という視点が共通している。ただ、「神」と同等か、それ以上の存在として、神が作った地球上の創造物を第三者的に見守っていた存在だろう。


それを踏まえて、あらためて「Watcher of the Skies」の歌詞を整理すると「話者」=宇宙人(「幼年期の終わり」にはOverlordと呼ばれる宇宙人が登場する)が、「神」によって創られた「神の創造物」=「この種族」=「古代の子供たち」、つまり進化しようとせず「子供の遊びしか知らない」人類に対して語りかけている歌詞だと解釈した。


神の創造物である人間という種族は、地球で生きていけない状況に陥っている。地球はトカゲが尻尾を切り落とすように、人類に見切りを付けた。だからと言って神を責めることができるか?人類自らが自分たちを滅ぼしたのだ。「話者」である宇宙人的存在は言う。


残された人類は、別の惑星へ移住しようとしているのか。そしてまだ見ぬ新しい星を求めて空を見つめているのは、その人類の代表者か、人類の守護者か。しかし第三者としての宇宙の存在は、それは不可能だと言う。あたながたの運命は別の惑星にはない。この地球で最後を遂げるしかないのだと。


Peter Gabrialが、絶対的な破滅への運命を力強く、幼過ぎた人類を哀れみを持って歌う。そして最後に再びメロトロンとオルガンが登場し、曲はドラマティックに終わる。SF的な壮大なスケールで、人類を批判した歌詞である。

7 件のコメント:

  1. ジェネシスが好きでたまたま此方にたどり着きました。
    私も英語は多少分かりますが、訳詞を読んでいても難解で今まで雰囲気だけで楽しんでいた歌詞を見事に解釈されていることに感銘し、楽しませていただいております。
    今時プログレを好きな人も限られているとは思いますが、読んでいる人も私以外にもいるかと思いますのでこれからもがんばって下さい。

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    1. コメントありがとうございます。お役に立てたようでとても嬉しいです。
      最近プログレが復興しつつあるようで、ありがたいことに当ブログの訪問者数も多くなりました。これからも宜しくお願い致します。

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  2. はじめまして。他の曲もいくつか見ましたが、良い解釈だと思います。

    さてこの曲について、かつて自身で全パート演奏して録音したり、MIDIに打ち込んだりと、数あるGENESISの名曲の中でも私が最も好きな曲なんですが、歌詞の解釈ではなく曲やメロディーの話として一点触れさせてください。

    Supper's ReadyのApocalypse in 9/8で、「9拍と4拍で36拍目ごとに9/8の頭でリズムのアクセントが揃うという仕組み」というのがありましたが、この曲のクライマックスのインストパートも、リズム(ドラムス・ギター・ベース)の4/4とキーボードの6/4が並行して演奏され最後に収束するという流れになってます。
    スタジオ盤と公式のGENESIS LIVEではちゃんと聞き取れます。シンバルに注目すれば4/4リズムであることが把握できます。
    Supper's Readyと同様、この曲についてもここが最大の見せ場だと思います。この部分のためにこの曲があると言っても言いすぎじゃないです。

    というのも私の解釈として、キーボードは神のような人知を超えた大きな力の象徴で、繰り返される独特のリズムはモールス信号、つまり(神の領域に割り込んだ)人類や文明の象徴であり、最後クライマックスで両者が対峙するというイメージなので。
    それまで6/4だったのが、まるで神に抗うように4/4になって6/4と対抗するところが素晴らしい。・・・と私は思ってます。

    なお、ここのリズムを正確に刻むのはただでさえ難しいのに(特にベースやギター)、ましてキーボードが6/4を奏でる中でそれをするというのは至難の業です。
    公式盤以外のライブではここがグダグダになって最後に帳尻だけ合わせてる残念なケースが多いです。
    ほとんどの人は気にならないでしょうけど。

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    1. ひろ様
      コメントありがとうございます。
      別のリズムを刻んでいながら拡散・収束を繰り返すようにしてやがて大団円を迎えるという展開は、異質なものが調和していくような、高みへと上り詰めていくカタルシスがあるんでしょうね。
      でもそういうテクニック的にも構成的にも高度なことをしていながら、(少なくとも公式盤では)一聴すると耳ざわり良く聴かせてしまうのがジェネシスの凄いところですね。
      貴重なご意見、ありがとうございました!

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  3. はじめまして。私は英語が不得意なのでいつもTAKAMOさんの訳詞を参考にさせていただいています。TAKAMOさん訳の「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイ」に触発されて曲のイメージイラストまで描いてしまいました。コメント欄に貼り付けできないのが残念です

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  4. はじめまして。私は英語が不得意なため、いつもTAKAMOさんの訳詞を参考にさせていただいています。
    TAKAMO訳版「ウォッチャー・オブ・ザ・スカイ」に触発されて曲のイメージイラストまで描いてしまいました。コメントに添付できないのが残念です..

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    1. コメントありがとうございます!
      ぜひ拝見させていただきたいので、よろしければ下記までイメージイラストをお送りいただけるとうれしいです。
      takamohri@gmail.com

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