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2009年4月5日日曜日

「嘆きの雫」アネクドテン

原題:Sad Rain

■「
Waking The Dead, Live In Japan 2005 ウェイキング・ザ・デッド~ライヴ・イン・ジャパン2005)収録  






 Sad Rain / 悲しみの雨


 まばゆい朝焼けが今始まった
 やってくるはずのなかった日が今ここにある
 彼女は凍った海沿いに歩き続け
 見えない星を数えようとしている

 沖では遠くに響く黒い雨の音
 雲間に優しく光る青白い月
 太陽は地平線へと戻っていく
 風がゆっくりと彼女の心を引き裂いていく

 そしてわれらの時代がやって来たのだ、友よ
 子供は泣き叫んでも、誰も世話をしようとしない
 鳥たちの泣き声は消え去ってしまった
 空は灰色に染まる、しかしひどく温かい

 暗闇の中で一筋の光を求めて
 汚いものから目をそらし続けて
 明日という苦いワインを味わうんだ
 わたしは終わりの無い道を歩み続ける  
 
 the neon
dawn has just begun,  
 
the day is here that wasn't meant to come  
 she's walking by the frozen sea
 
 
trying to count the stars that she can't see

   
 a distant sound of black rain in the water
 
 
the pale moon shining soft through a cloud  
 
the sun is turning black in the horizon  
 the wind is slowly tearing her apart
   

 
and so our time has come, my friend  
 
the child who cries and no-one seems to care  
 
the echoes of the birds are gone  
 
the sky is painted grey, but it's so warm  

 
searching for a light in the darkness,  
 
trying to keep your eyes from the dirt  
 
taste the bitter wine of tomorrow  
 
i'm walking on a path that never ends
【解説】

この曲は湾岸戦争(1990年にイラクがクウェートへ侵攻したことに対し、国際連合が多国籍軍を派遣、1991年1月に大規模なイラク空爆を開始したことから始まった戦争)に対しての反戦の思いが込められた曲だと言われる。

Nicklas(ボーカル、ギター、メロトロン)が、Anekdoten結成以前に書いた曲であり、Anekdotenの曲としては最も古い部類に入る。日本版のデビューアルバム「Vomed(暗鬱)」にのみボーナストラックとして入っていたが、このライヴアルバムで、正式にお披露目となった曲だ。アルバムでもラストを飾り、メロトロンが大活躍する、非情に感動的な大曲である。Anekdotenの叙情的な面を取り出して凝縮させたような曲だ。

歌詞を見ると、湾岸戦争への抗議というメッセージよりも、戦争が始まったことへの悲しみがつまった曲である。第1連の「やってくるはずのなかった日」の「まばゆい朝焼け」とは、恐らく空爆のことではないか。空爆は夜間に行われ、夜の闇を行き交う砲弾や爆破の光は、まるでショーさながらの“美しさ”で、テレビ中継された。その後も、ミサイルが建物を直撃する映像などが流され、まるで映画かテレビゲームを見ているような錯覚を起こさせる戦争でもあった。

夜なのに眩い光と火の嵐で闇夜が焦がされることで、「彼女」は見えるはずの星が見えず、星を数えるという幼い遊びができない。本来あるべき優しく静かな夜をかき乱す嵐は、彼女の心を引き裂き苦しめる。「彼女」は戦争で被害を追った人々の象徴か、あるいは戦争が始まったことを悲しむ全ての人々の象徴だろうか。

第3連、「我々の時代がやって来たのだ、友よ」はおおいなる皮肉か。これが我々が作り出した世界なのか、これがわれわれが目指した世界なのか、と問うているかのようだ。

それでも第4連で「わたし」は、「一筋の光を求めて」「終わりの無い道を歩み続ける」と言う。「わたし」は辛い道が目の前に伸びているのを知っていても、希望を捨てない。しかし我々には、そうやってとにかく前へ進んでいくことしかできないのだ。「わたし」はこの愚かな人類に、それでも希望を持とうとしているのだ。

「湾岸戦争」と切り離して単独でこの歌詞を見ても、本来あるべき平和や自然が
、われわれの愚かさ、罪深さから「われわれの時代がやって来た」ために破壊されてしまったことを憂い、それでも希望を持って前へ進むんだという思いが込められた内容だと言えるだろう。

曲は雄大なメロトロンの響きに始まり、ボーカルパートは静かに悲しみに浸るように歌われる。メロトロンの奏でるテーマがドラマチックだ。その後、メロトロンフルートソロ、メロトロンヴァイオリンソロを経てメロトロンストリングスの厚い波が押し寄せる。

この来日時は日本側で3台のメロトロンを用意してのライブだったので、サンプリングではないナマ・メロトロンの音の揺れやピッチベンドなども堪能できる。

感動必至の名曲である。

  

2009年2月9日月曜日

「ニュークリアス」アネクドテン


原題:「Nucleus」
■「ニュークリアス」(原題:Nucleus)収録





 呼び覚まされ 私は再び生まれた 目を見開き
 叫び声を上げ 立ち上がろうとして 石を押しのけた

 灰の中をゆっくりと進み ロープをしっかりと掴み
 最後に 愛と命と希望の存在を信じる

 美、空、地球、月
 常に動き続け 調和しながら鼓動する
 そして回転を続ける

 手を伸ばす 光の下へと導かれる 望む
 夜の闇へ投げ込まれる 輝く
 
 さらに深くさらに中心部へと近づく
 目的と意味 そして全ての事柄の本質へ!



 awaken - I am reborn - seeing

 calling - roll away the stone - rising
 
 pacing through the ashes, holding fast the rope
 finally believing in love and life and hope
 
 beauty - sky, earth and moon
 always moving - beating in tune
 turning around...
 
 reaching - drawn to the light - wanting
 shooting into the night - glowing
 
 getting ever deeper, closer to the core
 the purpose and the meaning, the essence of it all!

【解説】
「Nucleus」はスウェーデンのバンドAnekdoten(アネクドテン)が1995年に発表したセカンドアルバムのタイトルナンバーであり、アルバム最初の曲である。アルバムは2004年にバンド自身の手でリマスターされ、より強力な作品となった。

Anekdoten は1993年、1980年代のポンプロックの流れとは全く別の場所から、アルバム「Vomed」(邦題は「暗鬱」)で彗星のごとく現れた。その大胆なメロ トロンの使い方や、メロディーよりもリズムを重視するかのごとくヘビィなサウンドは、1970年代のKing Crimsonの世界に通じていた。

2nd アルバムの「Nucleus」は、1stからさらにバンドの一体感が強まり、動と静の落差がより明確になった傑作アルバムとなった。タイトル曲である 「Nucleus」はその最初を飾る激しい曲である。ちなみに“nucleus”とは「中心、核」といった意味を持つ。

曲は新たな生命の 誕生を歌う。ただし“reborn”とあるように、再び生まれたのである。前世の命なのか他の生物だったのか、今ある自分が生まれ変わったかのような体験 を表現しているのか。しかしrebornということは自分が一度生命を得て亡くした記憶があるということだ。つまり何も知らない赤子として生まれたのでは ない。「復活」と言ってもいいかもしれない。

そして「復活」した「私」は雄大な宇宙の法則の中で、「愛と命と希望を信じて」ものごとの本 質へ向かって動き出す。一度滅びてしまった者が再び動き出す瞬間と信念をとらえた詞。短い言葉をつなげながら、最後の行に至る流れは、まるで彼が次第に意 識取り戻し意志を明確にしていくかのような効果を生んでいる。
サウンド的には生命が再び誕生する際の、命の爆発とでも言いたい凄まじくヘヴィーなリフでこの曲は始まる。ボーカルが始まると一転してメロトロンフ ルートを活かした静かな演奏に変わり、インストゥルメンタルパートになると再びヘヴィーサウンドが荒れ狂う。最後は渦巻くような音の中、訴えるような声が 重なり(これは聞き取れない)、唐突に曲は終わる。

再生、復活のエネルギーに満ちているような、アルバムを象徴するような激しい曲であ る。1970年代のプログレッシヴ・ロック(だけではないが)の詞は、現状に対する悲観的な、あるいは絶望的な認識を表現していたものが多かった。「クリ ムゾンキングの宮殿」しかり、「狂気」しかりである。ではそれから20年〜30年経ったプログレッシヴ・ロックの詞は、いったい何を描くのか。

少なくともこの曲には、苦しみを知った上で、生きることを肯定していく叫びが込められていると言える。