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2011年5月26日木曜日

「キャリング・ノー・クロス」U.K.

原題:Carrying No Cross






 

「十字架を背負うこともなく」
  
静かにしてくれ!
これまで数々の過ちを犯してきた
いつも命令的な物言いをしていた
そして面白いと言われるものは全て退屈だった
結局僕はあなたのところへと帰ることになったのだ

制服には拒否反応を示した
僕にふさわしいなどとは決して思えなかった
それらは戦時中のドイツを思い出させた
そんなものが僕らに必要なのかは神のみぞ知るだ

誘惑には際限などなく
僕のモラルが低くなることなど知ったことではない
問題なのはいつだって
その場所が君のものかあるいは僕のものかということだけだった

目の前の十字架を背負うでもなく
崇拝する人もなく若かりし時の栄光として
語れるような話もなく
   
ただ空虚…何もない空っぽの空間だけ
自己を評価する基準すらなく行くべき場所もない
でも一つだけ僕が無視してきたことがある
だからこそその光は輝き続けていたのだった
  
これまで数々の過ちを犯してきた
いつも命令的な物言いをしていた
でも一つだけ無視できないことがある
不良少年だって全てを打ち明けることがあるんだよ
  
コントロールできない感情が
僕の心と魂を照らし出す
僕は一条の光を目にした、ゴールをものにしたんだ
心の平穏さにどんな価値があるというのか?


Stop!
been wrong so many times before 
was always laying down the law
And all attractions were a bore
they led me back to you

Uniforms were an allergy
they never felt quite right to me
they conjured wartime Germany
and God knows we need that

Temptation boundaries will never know
the time when my morale was low
the circumstances always show
the place was yours or mine

Carrying no cross before me
with no prize to idolize no story
to tell of adolescent glory
 
Just void...empty spaces nothing to show
no point of reference or place to go
but one thing I'd ignored and so
the light came shining through.

I've been wrong so many times before
was always laying down the law
one thing you cannot ignore
bad boys can come clean
 
Emotions I could not control
Illuminate my heart and soul
I saw a light, I scored a goal
and what price peace of mind?

【メモ】
2011年春に、ジョン・ウェットンとエディー・ジョブソンによる劇的復活と、1979年以来の来日公演を果たしたU.K.。この曲はその2ndアルバムのラストを飾る大曲である。スタジオアルバムは2枚しか作られなかったから、実質当時のU.K.のラストソングだと言ってもよいかもしれない。

この曲は12分に渡りボーカルとインストが見事に融合した、パワフルでプログレッシヴな展開が大きな魅力であるが、ではそこで歌われている内容とはどのようなものなのかは、あまり語られていない。

これを「bad boys(不良少年)」が過去の過ちを反省し、その結果の空虚さを嘆き、しかし新たな光を得るという、一種の改心の物語であるとする解釈が見受けられる。確かに過去の自分を今の目で「不良少年」だと見ているのは確かである。
 
しかし「制服」を嫌がったり、誘惑にモラルが守れなくなったり、縄張り争い・所有権争いばかりしているなどということは、若者にはありがちなことである。そうしたことを反省し、真っ当な人間として生まれ変わろうという歌には、どうも思えないのだ。

そうではなく、そうした無軌道で何も残らない生き方をしていた「僕」が、初めて「光」を得たという、喜びの歌なのではないか。そこで、わかりづらい歌詞なのでどう補って解釈するかという部分が大きいのだが、ここでは敢えてこの曲を「ラブソング」だと解釈してみたい。

では相手は誰なのか?タイトルに「十字架(cross)を背負う」という言葉があったりするので、「神(God)」であるとしたいところであるが、わたしはラストの一行「and what price peace of mind?」にこだわりたい。

これは「what price ...?」で「〜にどんな価値があるというのか?(価値などない)」という反語表現である。つまりそのまま考えれば、「僕(I)」は、心の平穏・平和を得たわけではないということになる。逆にそんなことに価値があるのか?と疑問を呈している、あるいは否定していると考えられる。

なぜか。

それはその最終連にある「コントロールできない感情が/僕の心と魂を照らし出す(光を当てる)」からであり、そうした感情的な高まりを「僕」は受け入れるだけでなく「ゴールをものにした/得点した(I scored a goal)」と高く評価しているからだ。心の平安ではなく、このような興奮状態は人間への愛ではないか。神への愛だとするには情熱的に思えるし、この曲があまりに宗教的過ぎてしまう気がするのである。

 
そこでわたしはこれを恋愛の詩だとしたい。従って第1連で出てくる「あなた(you)」は、恋人であると取る。「They led me back to you」とはつまり、昔からそばにいた女性に、結局今になってやっと気づいた状態を言っているのではないだろうか。

不良少年として多くの過ちを犯しながら、何も楽しめるものがなく、ただ空虚さだけが残っていた「僕」。たいして気にも止めず、無視(ignore)していた彼女の「僕」への思い。その思いの大切さに「僕」はやっと気づき、それがまるで暗闇を照らす一条の光のように「僕」の心に届いたのだ。

「Carrying no cross」は「(イエス・キリストのように)十字架を背負うことはせずに」と解釈した。「〜ing」で始まっているので、「十字架を背負うのは止めてくれ」という懇願や命令ではなく、付帯状況を示している文章だ。苦難や苦労を避けて過ごす自分自身のことである。続く空虚さと同じ自己認識であり、自己批判である。

彼女の思いを「僕」は無視してきた。それを利用するでも、否定するでもなく。だからこそその思いは「僕」の気づかないところで輝き続け、今「僕」はその輝きに気づいたのだ。

「でも一つだけ無視できないことがある/不良少年だって全てを打ち明けることがあるんだ」という表現は、唯一彼女に対して、素直になれた自分を言っているのではないだろうか。ちなみに「come clean」は「本当のことを言う、一切を白状する、本音を吐く」という意味であり、これを「改心する」と解釈するのはちょっと無理があると思ったのも、恋愛説を取った理由の一つである。

「あなた(you)」の思いを知り、それに応えることが、僕の平穏だが空虚だった心をかき乱し、「ゴールをものにした」ような心の高ぶりと喜びを、今「僕」にもたらしたのだ。

アルバム「Danger Money」はタイトル曲「Danger Money」で幕を開ける。それは危険手当(danger money)を得ながら命をかけて暗躍するハードボイルドな男の話である。人とのつながりは全く感じさせない孤独で冷酷な男である。この「Carryin No Cross」の「僕」も、無軌道で空虚な生き方をしてきている点では、「Danger Money」の男の若かりし時だと想像してみるのも悪くないかもしれない。

ならば、このアルバムは人との繋がりを、特に愛情を捨てて生きてきた男が、その愛情を最後に手にする・気づくというトータル性を孕んでいるとも言えるかもしれない。

もちろんこの曲のどこにも「愛(love)」という言葉は出てこない。しかしこの大曲が、改心の歌、宗教心に目覚めた男の歌では、あまりに唐突なんじゃないか。そんな思いで多少の無理を承知で「ラブソング」として解釈してみた。

ちなみに最初の「Stop!」は次第に大きくなるバックの音を消し去る一言である。これはこれから不良少年が「come clean(本音を語る)」ために、自分に集中してもらうための声かけじゃないか。そんな風に思うのだが。

こんな捉え方もできるかもということで、お楽しみいただければうれしいです。
    

2010年8月26日木曜日

「ナイト・アフター・ナイト」U.K.

原題:Night After Night / U.K.

■「Night After Night
   (邦題:ナイト・アフター・ナイト)」収録







高速道路に夕闇が立ちこめる
車の列は宝石に姿を変える
僕は半ば狂ったように車を走らせる
家路についているのならいいのに
ねぇ君 君と一緒にいないと
僕はまるで気が触れているみたいだよ

毎晩毎晩そしてまた次の夜も

僕は見知らぬ人の瞳をのぞき込み
過ぎ去った自分の姿を思い出す
きのうは過去の自分を置き去りにしようとする場所
未来はあまりに動きが早過ぎる
ねぇ君 君と一緒にいないと
僕はまるで気が触れているみたいだよ

毎晩毎晩
同じようなくだらないケンカ
もちろん僕はわかっているよ
それが毎晩繰り返されるのは良くないことは

滑走路に赤いライトが見える
飛行機は思った以上に速く動き
僕はエンジンの最後の響きを耳にする
そして残るは完璧な静寂
僕は思う 二人の間の距離
そして発せられることのなかった言葉

僕は思う 二人の間の距離
そして発せられることのなかった言葉


Darkness descends on the freeway
Traffic lines turning to stone
I'm driving myself half crazy
I wish I were headed for home
Say girl when we're not together
I feel like I'm losing my mind

Night after night after night
after night after

I look in the eyes of a stranger
Reminding myself of the past
Yesterday is what I will leave it
The future is moving too fast
Say girl when we're not together
I feel like I'm losing my mind

Night after night
It's the same lousy fight
And I know it ain't right that
It's night after night after

I see the red lights on the runway
The jet is moving too fast
I hear the last roar of the engine
And beautiful silence at last
Think of the distance between us
All of the words left unsaid

Think of the distance between us
All of the words left unsaid

【メモ】
イギリスのプログレッシヴ・ロック最後の大物バンドU.K.の、1979年発売の日本公演のライヴ盤「Night After Night」から、タイトル曲「Night After Night」である。
 
来日時にはすでに2ndアルバムのキーボード・トリオ編成になっていたのだが、このトリオU.K.は、後のAsiaに通じるキャッチーなメロディーと、かなりハードなインストゥルメンタル・パートが交錯する、独自の世界を築いていた。
  
この3人で4人編成時代を含めたテクニカルな楽曲を、ライヴでどのようにこなすのかは興味津々なところであった。実際のステージはギタリストのパートまでエディ・ジョブソンがカバーする素晴らしいもので、スタジオ編集作業などが大分行なわれていると言われるこのアルバムだが、それでもその出来の良さは格別である。
 
そのアルバムトップを飾る新曲「Night After Night」。最初聞いた時には、2nd以上にポップな感じの曲調にちょっと驚いた覚えがある。しかしこの曲も覚えやすいメロディーとともに、曲間にキレの良いオルガンソロが入る。このバランスがU.K.らしさなのだ。

そこで歌詞の内容であるが、「僕」は高速道路を車を走らせている。半狂乱のような状態になっている。目指すのは君の待つ家ではない。君は家にはもういないのだから。だから二人一緒にいられない今、僕は気が触れたようになって車を飛ばしている。

毎晩毎晩繰り返されたことを思い出す。それは後半で「the same lousy fight(同じようなくだらないケンカ)」である。それは他愛もないことのようであり、でも執拗に繰り返され止めることのできなかったこと。そんなことを毎晩繰り返すなんて、「僕」だって良いはずはないと思ってたのだ。

ちなみにCD添付のライナーノートでは「lousy tight」と記述されているが、ライナーノートの訳詞も「fight」で訳しているし、歌詞サイトなどで調べると「fight」となっており、実際に聴き取っても「fight」と歌って言うようなので、そちらを採用した。

「僕」はそうした過ちを犯し続けた過去の自分を振り返る。「a stranger」は自分とは思えなくなった自分のことではないか。その抜け殻のような、我を失っている自分の目をミラー越しか何かに見ながら「僕」は思う。過去の自分は過去(昨日)へ置いてこようと思っていたんだと。「will」とあるので、それはまだなされていないことがわかる。未来の予定あるいは意志でしかない。「future(未来)」の動きは早過ぎて、「僕」にはついていくことができない。「僕」は言い訳とも懺悔とも言えるような思いを吐露する。

そのついていけない未来とは何か。そもそも「僕」はなぜ気がおかしくなりそうになりながら、車を走らせているのか。家ではないのならどこに向って。

恐らく目的地は空港である。恐らく自分のもとを去り飛行機に乗って旅立とうとしている彼女を追って、空港にまで必死に車を飛ばしてきたのである。もちろん彼女を引き止めるために。
 
しかし滑走路にはすでに赤いライトが灯っている。飛行機はもう離陸体制に入っている。「The jet is moving too fast(飛行機は動きが早過ぎる)」とはそういうことだろう。「僕」は間に合わなかったのだ。飛行機が飛び去る爆音。そしてその後に残った見事なくらいな静寂。

僕は二人の距離が気持ちの面だけでなく物理的にもどんどん離れていくことを思う。そして伝えようと思いながら伝えられずに残された言葉の数々を思うのだ。

この曲はこうしたちょっとドラマチックながら、でもありがちな別れの一場面を綴ったものだろう。ちょっとしたいさかいの積み重ねが別れへと繋がる。そのプライベートな歌詞世界は、すでに「Heat of the Moment」に似てAsia的だと言えるかもしれない。

しかしジョン・ウェットンが歌うと、こんな別れの歌にも重みが出てくるのが不思議だ。

2010年5月26日水曜日

「タイム・トゥ・キル/時空の中に」U.K.

原題:Time to Kill

■ 「U.K.」(U.K./「憂国の四士」)収録








タイム・トゥ・キル/時空の中に

またシーツを剥ぎ取るような氷のような寒さだ
戸口には狼
僕はここでのみじめな暮らしをもう一日
耐えることができるだろうか

目を閉じどこか別の場所を想像してみよう
遥かかなた
銀の砂と紺碧のカリブ海

孤独な休暇にうんざりしているんだ
ここから出て行くことなんて決してできないから

この独房へと
水が滴り落ちる音に耳を澄ます
怒り狂え
もしこの生き地獄を耐え抜けたなら

この極寒の刑務所に押し込められ
囚われの身は
僕から正気をも奪っていく
  
ただ時間があるだけ
どこにも行くことはできず
時をやり過ごすだけ
今いる場所にとどまり続けて


Rip the sheets off ice cold again
Wolf at the door
Can I stand
A dog's life here for one day more

Close my eyes imagine somewhere
So far away
Silver sand
And azure Caribbean Sea

Sick of Solitary holidays
Cause I never get away from here

I listen to the water drip down
into the cell
Bun Amok
If I survive this living hell

Holed up in this cold calaboose
CAPTIVITY
Even takes
My lucid thoughts away form me

TIME TO KILL
Going nowhere
KILLING TIME
Staying where there's ...


【メモ】
UKのデビュー作にして、オリジナル・メンバー唯一のスタジオ・アルバム「U.K.」(邦題は「U.K.」または「憂国の四士」)収録の曲「タイム・トゥ・キル(オリジナル邦題は「時空の中で)」である。

LPではB面トップを飾るスリリングなインストゥルメンタル・ナンバー「Alaska(アラスカ)」からそのままなだれ込む曲だ。したがって曲としては別々にタイトルが付けられているが、一続きの組曲のようなまとまったイメージがある。

そこで「Alaska」に続いてどのような内容の歌詞が歌われているのかが興味深いところ。タイトルの「Time to Kill」は「kill time(暇をつぶす、待ち時間を紛らわす)」という表現からきている。訳すとすれば「すべきことのない、ただつぶすだけの時間」という感じか。

歌詞は極寒の地で一人独房のような部屋に囚われている「僕」の嘆きである。それは「Alaska」というアメリカ北西部の州の名、あるいは地名から連想される極寒のイメージに、見事に重なっている。

ここでは「僕」は「孤独」であり「みじめな暮らし」をしており、それがあと一日でも絶え続けることができるかどうかというほどに、追い詰められたような状況にいる。第三連で使われている「holidays(休暇)」という言葉も、ここでは仕事や責務から解放された状態ではなく、するべきことのない状態を示したマイナスイメージを持った言葉だろう。

僕ができることはどこか遠くのカリブ海のような暖かな楽園を夢見ることか、あるいはこの苦しみに耐えぬいたあかつきには、「Run Amok(怒り狂う)」ことを自分に言い聞かせることしかない。

「hole up(押し込める)」された「CAPTIVITY(囚われの身)」であるということは、今の状況が本意ではないだけでなく、無理やりそうさせられていることを示しているが、それが誰の手によるものかは明らかにされない。

むしろここでは、自分を苦しめている敵を探したり原因を究明したり、あるいは状況を変えようとするのではなく、今の気も狂わんばかりの孤独な状況を、半ばあきらめたように受け入れ、耐えぬこうとしているかのようである。

まさにそれこそがこの曲の柱となるところではないかと思う。敵も原因も理由もない、まさに今自分が生きていて感じる孤独。極寒のアラスカで独房に入れられているかのような日々の苦しみ。永遠に続くかもしれない、ただやり過ごすだけの時間を前にした、成すすべのない無力感。その絶望と狂気にギリギリのところで踏みとどまっている「僕」。

主語(主部)を省略した短い言葉を重ね、「僕」が一人内省しているようなシンプルな詞は、内容に比べて力強い演奏によって、深刻さや極限状況的な切迫感が薄められ、むしろ淡々とした、生きていくことそのものの辛さというイメージに近づくような気がする。
 
ちなみに発売当時入手して、受験英語として「kill time」を知っていたわたしは、「『暇つぶし』ってことだよな。プログレっぽくない格好悪いタイトルだな。」と思った覚えがある。そんな、ちょっと恥ずかしい思い出も甦る曲である。

しかし時代は「Run Amok」を夢想することではなく実行することを求めていた。そしてパンクが支持され台頭する。

2010年2月4日木曜日

「ジ・オンリー・シング・シ−・ニーズ」U.K.

原題:The Only Thing She Needs

(邦題は「デンジャー・マネー」)収録






真夜中のミサ、黄色い月
驚きの思いが僕の部屋の窓から外へと歩み出す
そこでは彼女は不思議な曲を歌っている
思いがけないほどの、豊かで素晴らしいその声

今空は晴れ渡りつつ
彼女の水晶のように澄んだ瞳に浮かび上がる
夫に顧みられないで待ち続けている妻たちが彼女の前に現れる
彼女に身のほどを思い知らせようとして

彼女が探し求めているものは
これこそ自分に必要だと思える何かなのだ

純真に見つめている
彼女の求める望みを
それは算数の勉強やMGBの店やその時々の流行以来 最高のこと

今空は晴れ渡りつつ
彼女の水晶のように澄んだ瞳に浮かび上がる
夫に顧みられないで待ち続けている妻たちが彼女の前に現れる
彼女に身のほどを思い知らせようとして

彼女が探し求めているものは
これこそ自分に必要だと思える何かなのだ


Midnight Mass, a yellow moon
Wonder walked from my window
Now she sings a different tune
Golden tones, out of the blue

Now the sky is clearing
Looking through her crystal eyes
Waiting Widows loom before her
Cutting her back down to size

The thing she's searching for is
THE ONLY THING SHE NEEDS

Gazing in simplicity
Toward ambitions that she craves
The best thing since Arithmetic
MGB's and current raves

Now the sky is clearing
Looking through her crystal eyes
Waiting Widows loom before her
Cutting her back down to size

The thing she's searching for is
THE ONLY THING SHE NEEDS
 
 
【メモ】
イギリスのスーパーバンド、U.K.のセカンドアルバム「Danger Money(デンジャー・マネー)」から、曲の難易度の高さやインストゥルメンタルパートの充実度で、アルバム収録曲中でもプログレッシヴ・ロック的な完成度の高い「The Only Thing She Needs」である。LPではA面ラストを飾っていた。

エディー・ジョブソン(キーボード、ヴァイオリン)、テリー・ボジオ(ドラムス)、ジョン・ウェットン(ベース、ボーカル)のトリオ編成となった、言わば新生U.K.の魅力をあますところなく詰め込んだ、テクニカルながらロックスピリットを失わない、パワフルな曲だ。

しかし歌詞は漠然とした光景を歌っている。「真夜中のミサ」とは大文字にはなっているが、文字通りのキリスト教におけるミサではなく、「集会、集まり」といった感じであろう。ただしある種の宗教的な雰囲気、特別な意志を持って集まってきた人々の集団という雰囲気がそこには感じられる。

「話者」はその集まりに驚きの思いを抱く。その思いは話者を窓辺へと導く。驚きの思いが向けられたその先には「she(彼女)」がいる。「真夜中のミサ」は素晴らしい声で歌を歌っている「彼女」を中心に行われているようだ。
 
「A woman」とか「A lady」とかではなく、いきなり「she」と言っているので、「話者」に取って初めて目にする女性ではないという感じが伝わる。ボーカルがジョン・ウェットンだから、どうしても「話者」は男性という感じがしてしまうから、ならば歌を歌っている「彼女」は、知り合いか、あるいは恋人なのかもしれない。

しかし「話者」にとって、そうやって人々が集まるほどに素晴らしい歌を歌う彼女は、今まで知らなかった姿なのだ。

「話者」が驚き惹き付けられたように、恐らく多くの男性たちが「彼女」の歌声に惹き付けられ、その「真夜中のミサ」に集まってくるのだろうか。第2連で出てくる「widow」は、実際に夫を亡くした「未亡人」という意味の他に、「a golf widow」のように、夫が趣味やスポーツなどに熱中して顧みられない妻という意味もある。

ならば、歌を歌う「彼女」の前に現れる「waiting widows(待ち続ける未亡人たち)」とは、「彼女」の歌に魅かれ自分たちをおきざりにして家を出て行く夫を待ち続けていた、妻たちを指すのではないかと思うのだ。彼女たちの怒りの矛先は歌を歌う「彼女」へと向けられる。そして「cutting her back down to size」しようとするのである。

「cut ... back」は「削減する、縮小する」、「cut down to size」は「(過大評価されている人を)実力相応の評価に下げる、〜の鼻をへし折る、身のほどを思い知らせる」という意味があるので、この2つの表現が合わさったものと考えた。

それでも「彼女」は「自分が必要とする何か」それだけを求めて歌い続けるのだ。

第4連では「Arithmatic(算数)」、「MGB's(MGBの店)」という言葉が出てくる。それらはかつて彼女が「自分に必要」だと思って、一生懸命頑張ってきたものなのかもしれない。Wikipediaによると「MGB(エムジービー)は、イギリスのスポーツカーブランドである「MG」の主要車種の一つで、1962年の発表から1980年の製造終了迄に、全世界に於いてシリーズ全体で実に52万台以上も製造・販売された、2ドア・オープンカーの代名詞存在である。」とのこと。

子どもの頃は熱心に勉強し、次に青春を謳歌し、その後に彼女は自分自身が本当に欲しているものを、純粋な気持ちで見つめようとしている。そして「彼女」は「自分が必要とする何か」を求めて歌い続ける。

不思議な、ちょっと神秘的な光景かと思いきや、意外と現実的な「widows」が待ち構えているような状況。しかし自分自身の本当にやりたいことを求めている彼女を肯定するように、曲調は緊張感をはらみながらも、力強く突き進んで行く。
 
興味深いのは「話者」は「話者」の枠から出ようとせず、彼女を取り巻く状況を見つめ、彼女の気持ちを代弁していることだ。そこに「僕」の存在はあまり感じられない。「僕」と「彼女」の関係にも触れられない。単語的にも「my window(僕の部屋の窓)」という部分で「僕」が一度だけ顔を出すのみで、全体として歌詞は彼女の描写に徹している。

つまり「恋人」かもしれないという可能性を残しつつも、ここには色恋は関係なく、前に進もうとしている彼女を応援しようとするような雰囲気が漂っているのだ。

曲はスリリングなインストゥルメンタル・パートを経て、大団円のようなかたちで幕を閉じる。この前向きさ、力強さは、それまでのU.K.や、さらに遡ったキング・クリムゾンらにはなかったものだ。逆にまた1980年代のポップでポンプな流れとも違う。

歌詞とサウンドの両面で、1970年代後半というこの時期のこのバンドだから生み出せた名曲だと言えるだろう。

2009年3月1日日曜日

「ナッシング・トゥ・ルーズ」U.K.

原題:Nothing To Lose

■「デンジャー・マネー」Danger Money 収録







 失うものは何もない – 今俺は実際にそれを打破でき  
 失うものは何もない – 今俺は虚勢を張る必要も
ない  
 もしおまえが使えないのなら – 忘れてくれ、もう必要ないから
 
 失うものは何もない – もしそれが熱くないのなら 置き去ろう
   
 
 見せられるものなんて何もない 
  でも俺を止められる者もいない 俺は旅立つのさ
 
 俺は長いこと待っている、時間をムダにしている 
  だから今日旅立つのさ
 
 失うものは何もない – 俺の人生のために急がなければ
 
 失うものは何もない – サーチライトを撃ち抜いて避けろ
 
 失うものは何もない – 境界線を突破する準備はできている
 
 失うものは何もない – 今度こそ証明してやるのさ
   

 見せられるものなんて何もない 
  でも俺を止められる者もいない 俺は旅立つのさ

 俺は長いこと待っている、時間をムダにしている 
  だから今日旅立つのさ
 
 失うものは何も
ない – 命がけで走らなければならないんだ  
 失うものは何もない – サーチライトを撃ち抜いて避けろ
 
 失うものは何もない – 境界線を突破する準備はできている
 
 失うものは何もない – 今度こそ証明してやるのさ
 

 失うものは何もない – 今俺は実際にそれを打破できる
 
 失うものは何もない – 今俺は虚勢を張る必要もない
 
 もしおまえが使えないのなら – 忘れてくれ、もう必要ないから
 
 失うものは何もない – もしそれが熱くないのなら 置き去ろう
 
 失うものは何もない – 命がけで走らなければならないんだ


 Nothing to lose – Now I can really break it
 Nothing to lose – Now I don't have to fake it
 If you can't use – Forget it then I don't need it
 Nothing to lose – If it ain't hot I'll leave it

 Nothing to show but no-one to stop me I'm going away
 I'm kicking my heels, rolling the wheels and I'm leaving today

 Nothing to lose – I gotta run for my life
 Nothing to lose – Shoot out and shine those search lights
 Nothing to lose – I'm ready to cross that border line
 Nothing to lose – I'm going to make it stick this time

 Nothing to show but no-one to stop me I'm going away
 I'm kicking my heels, rolling the wheels and I'm leaving today

 Nothing to lose – I gotta run for my life
 Nothing to lose – Shoot out and shine those search lights
 Nothing to lose – I'm ready to cross that border line
 Nothing to lose – I'm going to make it stick this time
 Nothing to lose – Now I can really break it
 Nothing to lose – Now I don't have to fake it
 Nothing to lose – Forget it then I don't need it
 Nothing to lose – If it ain't hot I will leave it
 Nothing to lose – I gotta run for my life


【解説】
トリオになったU.K.を代表するキャッチーな曲。当時シングルでも発売された。タイトル曲「Danger Money」以上に、現実に向っていこうとする意志を感じる曲。ただし何か裏付けがあっての自信ではなく、「失うものは何もない」という一種の開き直りだ。

しかしそこで、くよくよ、うじうじと考え込んでいないで、何かが起こることを待っていないで、自分から動き出そうという宣言のような力強い歌。King Crimsonの面影を求めて初代U.K.に期待した世代にとっては、隔世の感があるか。しかしアルバムとして見た時、まだまだ一筋縄では行かない複雑な展開のパートも含まれていて、そのバランスが絶妙な名盤だ。



訳的には、itがたくさん出てくるが、漠然としたその場の状況を指しているitだろう。「kick one's heels」が「長い時間待たされる」という意味を持つが、「roll the wheels」には熟語としての意味は特にない。ただ「spin one's wheels」で「 時間を浪費する, 空回りする」などの意味があることから、それと同じような意味合いだと解釈した。

「I'll make it stick this time」は「make…stick」で「実証する、有効とする」というような意味があるため、「(自分の価値を)証明してみせるぜ」というふうに解した。最後の「run for my life」、「for my life」は「命がけで」という熟語だが、「俺自身の人生のために」と文字通りに訳してもいいかもしれない。

演奏上難しいことはやっていないが、曲の中程にヴァイオリンソロが入る。ライブの場合ここでエディー・ジョブソンがいったんキーボードから離れてヴァイオリンを持つ必要がある。日本でのライヴ「Night After Night」(ナイト・アフター・ナイト)を聴くと、そこの切り替えがスリリングなのだ。コーラスはオーバーダブが見え見えでちょっと残念だけど。


「デンジャー・マネー」U.K.

原題:Danger Money

■「デンジャー・マネー」Danger Money 収録







危険手当 危険手当
 危険手当 危険手当 危険手当

 俺は家から3000マイル離れたところにいる 疲れ果て一人ぼっちだ
独身なのはいいことだ できることなら一晩中楽しい思いをしていたいぜ
 しかし自分の首に賞金が掛かるような仕事を選んだんだ 逃げなければ

 地獄のような生き方だが 報酬はたっぷりだ

 銃を掛けておく場所はない(挨拶をかわす時間もない)
 一人残らず(誰もがおまえが絞首刑になるところを見たいんだ)
 俺はこの仕事をまた選ぶ(それはわからないさ)
 俺はその瞬間を恐れている(電話のベルがなる瞬間を)

危険手当 危険手当
 危険手当 危険手当 危険手当

 俺は太ももにルガーを装着した マグナムもだ
 快適さを求めて冷静になった もちろんひどく熱くもなれる
 俺はプロだ おまえが数秒の内に倒れているのが見えるようだ
 情けをかけないこともできる
そうさ情けには金を払ってくれないからな


 ご立派な政治的混乱(そして誰かが行かねばならなかった)
 名前と時間と住所だけ残してくれ(無地の封をした封筒に入れて)
 俺はすんでのところで脱出する
(信じられないような話をしているわけじゃない)

 そして残されたもの全てが俺のものさ(でも、おまえはどう思うんだ?)

 危険手当 危険手当 危険手当

 俺は金儲けが目当ての冒険家さ 生き延びる意志を持っている
 だが問題の核心に触れる時 命があってラッキーだと思うのさ
 過去を振り返ってみても、そうだな、また同じことをやるだろう
 俺は今 危険が迫っている情報を手にした 
だから金を受け取り逃げるだけだ


 俺は適任者の俺自身を動かし始める(そして弾丸が飛び交う時には)
 俺は誰にもみつからないところにいるのさ(死ぬのはまっぴらだからな)
 今夜のニュースになるだろう(皆いったい誰の仕業だと驚くだろう)
 また逃走するってわけだ(だが行くべき場所はどこにもない)

 危険手当 危険手当 危険手当

 Danger money Danger money
 Danger money Danger money Danger money

 I'm 3000 miles from home, I'm so tired and I'm all alone
 It's a good thing that I'm single, wish I could swing all night long
 But I got a job with a price on my head so I must get away
 It's one hell of a lifestyle but then it brings in the pay

 Nowhere to hang my gun (no time to say hello)
 And every mother's son (he wants to see you swing)
 I take the job again (and you will never know)
 I dread the moment when (the telephone will ring)

 Danger money Danger money
 Danger money Danger money Danger money

 I got a Luger strapped to my thigh, I got a Magnum as well
 I got my cold eyes for comfort, I can be hotter than hell
 I'm a professional man, I could see you in seconds flat
 I can show you no mercy, well they don't pay me for that

 A fine political mess (and someone's got to go)
 Just leave name, time and address (in plain sealed envelope)
 I get out just in time (and no-one tells the tale)
 And all that's left is mine (but how do you feel?)

 Danger money Danger money Danger money

 I am a soldier of fortune, I've got the will to survive
 But when the brass tacks are down I'm lucky to be alive
 When I think back on my past, well I'd do the same thing again
 I got a bug now for the danger, just take the money and run

 I start this whole machine (and when the bullets fly)
 I'm nowhere to be seen (you're too afraid to die)
 It's on the news tonight (they wonder who you are)
 I'm on another flight (but you're going nowhere)

 Danger money Danger money Danger money


【解説】
U.K.はアルバム「U.K.」を出した後、メンバーは分裂しU.K.自体はエディー・ジョブソン(ヴァイオリン、キーボード)、ジョン・ウェットン(ベース、ボーカル)、テリー・ボジオ(ドラムス、パーカッション)のトリオとなる。インストゥルメンタル部分の中心はエディー・ジョブソンのヴァイオリンとキーボードになり、コンパクトな編成により聴かせどころが明確になった感じだ。

それは曲にも現れていて、オリジナルU.K.よりも、さらに憶えやすいメロディー、わかりやすい構成になっているのが特徴。そのアルバム最初の曲がこの「Danger Money」だ。

いきなり変拍子のドラムスに覆い被さるキーボードと、プログレッシヴ・ロック風な出だしだが、歌が始まるとノリの良いリズムでストレートなロック色が強くなる。プログレ風な拍子のヒネリは入っているのだけど、初代U.K.同様に、まずカッコいい。

詞の内容であるが、タイトル「danger money」は、危険手当、つまり危険な仕事に就いた場合に、通常の賃金に上乗せされる特別手当のことだ。「put a price on someone's head」という表現に「〜の首に賞金をかける」という意味があることから、「俺」は、首に賞金がかかっている、賞金がかかってもおかしくないような立場にある。

ルガーはドイツ製の半自動拳銃、マグナムは弾薬が多量に装填された強力な銃。「soldier of fortune」には「傭兵」という意味もあるが、ここではもっと個人で秘密裏に活動する仕事のようだ。どちらにしても金のためなら身の危険も顧みずヤバい仕事もこなすのが「俺」だ。

分かり易い詞。裏の世界の「俺」を描いた詞と取っても、「俺」が象徴する我々の不安定な日常の比喩的表現と超深読みしてもいいのかもしれない。しかし明確になった詞の表現、そして金のためなら命をかけてもいいとか、それでも生き延びてやるといった、ある意味開き直った自己肯定的な姿勢は、「U.K.」の「In The Dead Of Night」と比べると明らかに異なる。

ジョン・ウェットんが求めていた、新しいU.K.像を象徴する曲だと言えるだろう。

余談だが「Danger Money」は英語だから様になるタイトルで、「危険手当」だとイメージがひどくズレる。だから日本人がロックをやる時、英語をつい使いたくなっちゃうんだろうなと思う。サビのところだけでも。これを「危険手当」そのままでロックにできてしまうのは「筋肉少女帯」ぐらいか。

2009年2月28日土曜日

「バイ・ザ・ライト・オブ・デイ/光の住人」&「リプライズ/闇と光」U.K.



原題:By The Light Of Day, Reprise


■「U.K.」(「憂国の四士」)収録






バイ・ザ・ライト・オブ・デイ

 灰色の空に雷を呼ぶ黒雲
 活動的な夜明けの熱気と激情
 火と水という二つの元素の怒り
 水平線は激情の中に溶けていく

 昼間の光の下では
 昼間の光の下では

 年月を進ませる静かな運命の歯車
 権力と苦悩は恐怖を助長する
 愛の夢を求めれば
 さらにその終わりは早まる
 
 昼間の光の下では
 昼間の光に下では

リプライズ

 罪の報いは現実に行われるんだとは言わないでくれ
 壁にかかれた文字 - どれが点数でどれが取り分だ?
 私たちが 森を通して木々まで見ることができないのも 無理はない
 私たちが作り出した香水ですら、
 そよ風に運ばれてくる 吐き気を隠すことはできない

 昼間の光に下では
 夜の静寂の中では

By The Light Of Day

 Black clouds moving gray sky to thunder
 Kinetic sunrise fever and blood
 Fire and water element anger
 Horizon melting to blood

 By the light of day
 By the light of day

 Silent wheel advancing years
 Power and glory agony fears
 Love's a dream that some pretend
 Accelerates an early end
 
 By the light of day
 By the light of day

 By the light of day
 By the light of day

Reprise

 Don't tell me that the wages of sin are for real
 The writing's on the wall – what's the score what's the deal?
 No wonder we can't see through the wood to the trees
 No perfume we design can ever veil the sickness on the breeze



【解説】
「By The Light Of Day」の1連では、夜明けの情景がうたわれている。夜明けは昼間の「雷」「熱気」「激情」「怒り」をもたらす。「わたし」にとっては、決して明るさと希望に満ちたものではないのだ。音楽も静かなパートとなり、歌い方もけだるい感じ。

年月は間断なく過ぎていき、力と栄光を手に入れたら手に入れたで恐怖が生まれ、愛を手に入れようと夢を描くほど、その愛はすぐに消えてしまう。人生の空しさ、生きることの空しさが描かれる。

「Presto Vivace and Reprise」の「Presto Vivace(テンポを速く、活き活きと)」はインストゥルメンタル部分なので、その後再び「In The Dead Of Night」と同じメロディーに戻るところが「Reprise(繰り返し)」にあたる。

そこに描かれているのは「無力感」か。「In The Dead Of Night」での「わたし」は、享楽にふける人もいる中で、自分の「孤独」を歌っていた。「By The Light Of Day」ではどう生きても空しい「空虚感」、そして「Reprise」では「わたし」から「私たち」へと主体が変わっている。自分個人の状況ではなく、実は現実世界の我々のことを歌っているのだ。

この複雑で猥雑な世界では、我々は知らないうちに罪を負ってしまったり、真実を知らないまま過ごしていたりする。何とかしなければと努力したとしても、結局報われはしない。

ある意味、King Crimsonが最後に歌ったstarless and bible blackな世界観につながった、救いのない現実を歌っている歌なのだ。しかし、それにもかかわらずドラマチックなサウンドは、単なるあきらめではなく、そこに「わたし」の怒りを付け加えているような気がする。どうにもならないとわかっていながら感じてしまう怒り。

U.K.は、King Crimsonの音楽に比べると、素直にカッコイイ音楽に変貌した。後のAsiaほどキャッチーでポップというところまでは行かないが、カッコイイと思えるメロディーや演奏は、U.K.の大きな魅力である。

でありながら、もの凄く高度な演奏を間に入れている。ビル・ブラッフォードのドラムのスネアだけ聴いてみても、どれほど変化をつけているかに驚く。そうしたプログレッシヴ・ロックの要素は、楽曲のみならず歌詞の中にもまだ残っていたといえるかもしれない。

なお歌詞中の「power and agony」という部分であるが、日本語ライナーノートでは「power and glory」となっており、当初それをもとに訳した。しかしジョン・ウェットンのサイト、並びに歌詞検索サイトでも「power and agony」であるとのご丁寧なご指摘をいただき、歌詞並びに訳詞をそちらに統一した。ご指摘ありがとうございます。

2009年2月27日金曜日

「イン・ザ・デッド・オブ・ナイト/闇の住人」U.K.

原題:In The Dead Of Night

■「U.K.」(「憂国の四士」)収録







おまえも 片目を開けたまま眠れる私と 同類の者なのか?

精神がおかしくなりそうな孤独な時間を 
どうしていいのか苦悩しながら
床からのほんの小さな音に 光を求めながら

ドアのノックの音に
今おまえの両手は汗ばみ 心臓はときめきながら  

真夜中の静寂の中で

真夜中の静寂の中で  

金と権力のある人々は からまった結び目を解く
 
彼らの望む 飽き飽きしたスリルや気まぐれに ふけるために
 
中から聞こえる 息をころした泣き声を隠す 雨戸の閉まった窓
 
詮索好きな人たちも 始まったその手の行為に気がつかない
   

真夜中の静寂の中で
 
真夜中の静寂の中で


Are you one of mine who can sleep with one eye open wide?
Agonizing psychotic solitary hours to decide
Reaching for the light at the slightest noise from the floor
Now your hands perspire heart goes leaping at a knock from the door

In the dead of night
In the dead of night

Rich and powerful ascend complicated bends to be free
To indulge in what they will any jaded thrill or fanstasy
Shuttered windows that belie all the stifled cries from within
And prying eyes are blind to proceedings of the kind that begin

In the dead of night
In the dead of night

In the dead of night
In the dead of night


【解説】
King Crimsonのジョン・ウェットン(ベース)、ビル・ブラッフォード(ドラムス)に、エディ・ジョブソン(ヴァイオリン、キーボード)、アラン・ホールズワース(ギター)という、夢のようなメンバーが集まったバンドU.K.のファースト・アルバム「U.K.」の、カッコ良すぎる最初の曲「In The Dead Of Night」である。

実際には次の「In The Light Of Day」「Presto Vivace And Reprise」まで一続きの組曲のようになっている。曲の構成としては「夜」→「昼」→「まとめ」みたいな感じか。今回はその「夜」の部分である。その「夜」を描く部分がサウンド的に激しく、「昼」を描く部分が、ゆったりした雰囲気になっているところが面白い。

まず「in the dead of night」は慣用句で「真夜中に」という意味。ただし時間的に深夜であるということだけでなく「dead」という言葉があるように、「皆が死んだように寝静まった時」という意味合いが込められている。そこで「真夜中の静寂の中で」と訳してみた。これは次の曲の「in the light of day」(昼間の光の中で)と、日本語的にもかたちを合わせたいこともあった。

内容を見ると、1連は「おまえも」と呼びかけている「わたし」がいて、「片目を開けて眠る」くらい病的に孤独にさいなまれている様が描かれる。わずかな物音に人の気配を期待して、孤独から逃れようとしている「わたし」そして「おまえ」、あるいは現代の多くの人々。

2連では、同じ真夜中に「rich and powerful」は享楽にふけっていると語られる。「rich 」も「powerful」も、どちらも形容詞なのだが、「rich and powerful」と言うと「金と権力のある人」という名詞になる。泣き声を抑えて家に閉じこもっているのは、その犠牲者たちなのか。でも真夜中の静寂の中では、そのようなことが始まっても誰も気がつかない。

夜の孤独と享楽。二つを対照的に描いたのが、この「In The Dead Of Night」である。しかし前半に「おまえ」に語りかけるかたちで「わたし」が存在することを考えると、後半は「わたし」が「金と権力のある奴ら」を思いながら、金も権力もなくただ孤独の中で苦しんでいる自分を振り返っていると見ることができよう。

さてでは「昼の光の中」にいる「わたし」はどうなのか。