わたしは英知の真珠を
その男の中に見た
彼が、失いそうになった一日を救った時に。
悲嘆にくれて過去を振り返る時
わたしがこう言ったことが思い出されるだろ。
一日を決して見捨ててはいけない。
その一日は二度と同じようにはやってこないのだから。
永遠に続くものなど何もないんだ
二度目のチャンスなんてものもない。
一日を決して見捨ててはいけない。
いつも今日この日のために生きるんだ。
I saw a pearl of wisdom
in the spirit of a man
as he saved
the day he lost.
Time will say I told you so
if we look back in regret.
Never give a day away.
It won't return the same again.
Nothing can last
there are no second chances.
Never give a day away.
Always live for today.
【メモ】
Camelのデビュー30周年記念作「A Nod And A Wink」(2002)から、ボーナス・トラックを除いたアルバム収録最終曲である。今のところこのアルバム以後はラティマーが病気治療・療養期間に入っているので、そういう意味では現時点でのCamelのラスト・ソングとも言える。
そしてこの曲は彼らの曲の中ではちょっと異色なのだ。前年2011年9月11日のアメリカ同時多発テロで、旅客機が世界貿易センタービルのツインタワーに突入し炎上、崩壊した。その崩壊前に、ビルの生存者が火災に追われ、ビルから飛び降りるという惨事が続いた。
この曲はそうした人の中の一人の男性を、アンディがテレビで目にしたことから作られた曲なのである。アンディはその男性が最後の決断をしたその気持ちに、この曲で寄り添おうとしている。
歌詞を見てみよう。
第1連では、その男性は飛び降りるという行為で、自らの「失いそうになった一日を救った」のだと言う。そこに人としての英知の輝きを見るのだと。それはどういうことなのだろう?
第2連で「一日一日を諦めるな、同じ一日は二度とやってこない」と「わたし」は主張する。ということは「その男」は「一日を諦めなかった人」なのだ。第3連でも「二度目のチャンスなんてない」「一日を見捨ててはいけない」と、同様な主張がなされる。
彼の行為はどうして「一日を諦めなかった/見捨てなかった」行為になるのだろう?
それはこういうことじゃないかと思うのだ。彼は不可避な力で自分の日常をねじ曲げられた。そして死へと追いやられようとしていた。でも最後の最後に彼は、自らの意志で自らの最後を決めたのである。それが一日を諦めず、一日を見捨てず、自分の一日として過ごすことを示す行為だと、「わたし」には感じられたのではないだろうか。
ビルから飛び降りた男性の決断に思いをはせると、いたたまれない気持ちになるが、そこに人の尊厳を見たことで「わたし(アンディと言ってもいい)」は、彼を讃えようとしているのである。
そしてそれをわれわれの人生に当てはめ、より普遍的な「今日のために生きる(その日その日を大切にして生きる)」ことの重要さを伝えるかたちで歌詞が終っているのだ。 どんな過酷な運命にも屈せず、自分に誇りを持って、毎日をその日のために生きること。
さらにこの最後の瞬間まで一日一日を大切に生きようというメッセージは、年老いてきたアンディ自身、あるいはすでに亡き人となってしまった盟友ピーター・バーデンスのことをも思い起こさせる。それは他人へのメッセージであるとともに、きっと自分へのメッセージでもある。読み手・聴き手は、自分の生き方を振り返りつつ、アンディやピーターの人生、さらにはCamelを聴き続けていた自分のこれまでの人生すら考えてしまう。
作られた状況を知ると、短いけれどとても心に響く歌詞である。そしてシンプルなメロディーと叙情的なギター&ハーモニーが深い感動を呼ぶ、Camelのラスト・ソング(あくまで現時点)にふさわしい名曲だ。