原題:Summer '68
■Atom Heart Mother(原子心母)収録
行く前に何か言うことはいいたいことはないの?
たぶんどんな気分かをはっきりと言いたいんじゃないかな
僕らはこんにちはを言う前にさようならを言っている
君のことを好きですらない;まったく気にもならない
ちょうど6時間前に僕らは出会った。音楽がひどくうるさかった。
君とのベッドから今日僕は出て、まるまる一年をムダにした気分だ
だから知りたいんだ
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
一言も交わさなかった;夜が二人の恐怖心をまだ隠していたから。
時折君は微笑んで見せたけど、どうしてそんなことをしたの?
35度(華氏95度)もある部屋にいるのに僕はすぐに寒さを感じた。
僕の友だちらは太陽の下で横になっている;そこにいられたらよかった
明日はまた別の街だ、そして君のような別の女性。
別の男を迎え入れるために立ち去る前に、時間はあるかい?
どうか教えてくれないかな
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
さようなら君
シャーロッテ・プリングルがもうすぐやって来る
今日はもう何もしたくない
Would you like to say something before you leave?
Perhaps you'd care to state exactly how you feel.
We say goodbye before we said hello.
I hardly even like you; I shouldn't care at all.
We met just six hours ago; the music was too loud.
From your bed, I came today and lost a bloody year.
And I would like to know,
How do you feel (how do you feel)?
How do you feel (how do you feel)?
Not a single word was said; the night still hid our fears.
Occasionally you showed a smile, but what was the need?
I felt the cold far too soon in a room of ninety-five.
My friends are lying in the sun; I wish that I was there.
Tomorrow brings another town, another girl like you.
Have you time before you leave to greet another man?
Just you let me know,
How do you feel (how do you feel)?
How do you feel (how do you feel)?
Goodbye to you,
Charlotte Pringle’s due,
I've had enough for one day.
【解説】
「原子心母」の旧LPのB面に並ぶ小曲の中のリック・ライト作の一曲。ロジャー・ウォーターズがリーダー的にアルバムコンセプトや曲作りに力を発揮し出す前は、リック・ライトもキーボードだけでなく、作曲&ボーカルでもバンドに貢献していた。ポンペイのライヴ映像でも、しっかりボーカル取ってるのがわかる。
さてそのリックの作ったこの曲は、静かなピアノ弾き語り風に始まり、優しく美しいボーカルが印象的な曲。かと思っているとサビのところで一気に盛り上がる。間奏部にはブラスオーケストラまで飛び出す。非常に落差が激しく、ピアノ、アコースティックギター、ブラスオーケストラと多彩な音を、巧みな構成で聴かせる。ブラスオーケストラが入る直前に、ピアノの音の位置が中央に移動していくあたりに、ピンク・フロイドらしい音作りの魅力も感じられる。
そこで歌詞である。「友だち(My friends)」とは違った生活を送っている「僕」の、虚無的な心を歌った曲。6時間前に出会い、ベッドをともにし、出会いの挨拶もしないうちに、もうさようならという女性との関係を歌っている。
「僕」は「君」のことを好きでも何でもないとまで言う。一言もしゃべらずお互いの恐れは夜の闇が隠してくれた。「君」は時々笑みを浮かべたけど、そんなことして気を遣わなくてもよかったんだ。暑い部屋の中でも「僕」は寒さを感じ、太陽の下で寝転んでいる友だちをうらやんでいる。つまりこの虚無感は出会ってからずっと続いているのだ。後から悔やんでいる訳ではない。
「明日はまた違った街、そして君のような違ったまた別の女性」というのは、ピンク・フロイドのツアーに照らして考えれば、コンサート会場ごとにグルーピー(groupie:ロックバンドの親衛隊、おっかけ)が待っていることを言っているのだろう。ピンク・フロイドと切り離して考えれば、そうした流れ者な生き方をしている「僕」なのだ。
こんなゆきずりな関係を「僕」は虚しく思っている。そして「君はどんな気分なんだい?(How do you feel?)」と相手に問う。君はたぶんどんな気分か言いたいんじゃないかな、と思っている。君はこんな関係を虚しいとは思わないのかい?逆にこんなことでも楽しい一時を過ごせたと喜んでいるのかい?
そう、虚しいとはっきり言って欲しいのかもしれない。あるいは問いただし続けることが、自分が虚しい気持ちでいることの訴えなのかもしれない。しかし答えは得られない。虚しさを逃れるすべは今の「僕」にはないからだろう。
最終連、二行目だがライナーノートには「Charlotte Pringle's due」と記載されている。これとは別にネット上のファンサイトや歌詞サイトでは「Charlotte Pringles too」となっている例もある。
まず「Charlotte Pringle」とは何の名前かが、この歌詞の中からではわからない。ネット上では「都市の名前」という説もあった。
もし「Charlotte Pringle's due」ならば、「Charlotte Pringle is due」と、be動詞の部分が短縮形になっている文章だと解釈して、「(次の公演場所)シャーロット・プリングルが待っている」と、毎日のように移動とコンサートに明け暮れていた生活を思わせる一行だと取れる。また「Charlotte Pringles too」で解釈するなら、今滞在している都市に対しても「(Goodby to)Charlotte Pringles too(シャーロット・プリングルの街にもさようなら)」と取ることが出来る。
しかし、Google Earthで「Charlotte Pringle」を探そうとしたが、該当する場所がないようだった。
次に「Charlotte Pringle」は女性の名前だと考えてみる。「たぶん次に待っているグルーピーの女性」というネットにあった説に従えば、「Charlotte Pringle's due」ならば「シャーロット・プリングルがもうすぐやってくる予定だ」という感じか。6時間前に会った、おそらく名前もろくに知らない今の女性よりは、フルネームを知っている、親しく長い付き合いであると思われる女性。あるいは「僕」の恋人の名前かもしれない。
「Charlotte Pringles too」で考えると、「さようなら君(Goodbye to you)」に続いて「シャーロット・プリングル、君も(さようなら)なんだね」と、部屋から出て行こうとしている女性を見ている様子か。
しかし「I've had enough for one day.(一日分としては十分なことをやり終えた)」、つまり本当はもう一人にして欲しい。そっとしておいて欲しい。できることなら、友だちと同じように太陽の下で寝転がっていたい。そんな最低な心境なのだ。いずれにしても、個人名が出てくることで、歌詞全体のリアリティーが一気に上がる効果を持つ一行だと言える。
「バンドの二度目のUSツアーにまつわる曲で、作曲者のリチャード・ライトがあるグルーピーとの出会いのあとに感じた精神的な虚無感について歌っている…(中略)…『68年の夏あ、どこにでもグルーピーがいた』何年も経ったのち、ライトはこう語っている。『彼女たちは専属のメイドみたいに面倒を見に来てくれて、洗濯をして、一緒に寝て、淋病をうつしていた』」
(「ピンク・フロイドの狂気」マーク・ブレイク、
ブルース・インターアクション、2009年)
グルーピーとの生活を歌ったのだとしても、そうした背景とは切り離して一つの曲として聴いてみても、「僕」をとりまく、非常に不安定な生活、心の通わない虚しい出会いを切り取った印象的な歌詞だ。ブラスオーケストラのドラマティックな音が「僕」の激しい自責に近い気持ちを表しているようでもあり、また一方で、やわらかなボーカルとアコースティックな伴奏が、「僕」がとても優しい思い、優しい目で、相手の女性を見ているような印象を残す。名曲。
■Atom Heart Mother(原子心母)収録
行く前に何か言うことはいいたいことはないの?
たぶんどんな気分かをはっきりと言いたいんじゃないかな
僕らはこんにちはを言う前にさようならを言っている
君のことを好きですらない;まったく気にもならない
ちょうど6時間前に僕らは出会った。音楽がひどくうるさかった。
君とのベッドから今日僕は出て、まるまる一年をムダにした気分だ
だから知りたいんだ
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
一言も交わさなかった;夜が二人の恐怖心をまだ隠していたから。
時折君は微笑んで見せたけど、どうしてそんなことをしたの?
35度(華氏95度)もある部屋にいるのに僕はすぐに寒さを感じた。
僕の友だちらは太陽の下で横になっている;そこにいられたらよかった
明日はまた別の街だ、そして君のような別の女性。
別の男を迎え入れるために立ち去る前に、時間はあるかい?
どうか教えてくれないかな
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
どんな気分なんだい(どんな気分なんだい)?
さようなら君
シャーロッテ・プリングルがもうすぐやって来る
今日はもう何もしたくない
Would you like to say something before you leave?
Perhaps you'd care to state exactly how you feel.
We say goodbye before we said hello.
I hardly even like you; I shouldn't care at all.
We met just six hours ago; the music was too loud.
From your bed, I came today and lost a bloody year.
And I would like to know,
How do you feel (how do you feel)?
How do you feel (how do you feel)?
Not a single word was said; the night still hid our fears.
Occasionally you showed a smile, but what was the need?
I felt the cold far too soon in a room of ninety-five.
My friends are lying in the sun; I wish that I was there.
Tomorrow brings another town, another girl like you.
Have you time before you leave to greet another man?
Just you let me know,
How do you feel (how do you feel)?
How do you feel (how do you feel)?
Goodbye to you,
Charlotte Pringle’s due,
I've had enough for one day.
【解説】
「原子心母」の旧LPのB面に並ぶ小曲の中のリック・ライト作の一曲。ロジャー・ウォーターズがリーダー的にアルバムコンセプトや曲作りに力を発揮し出す前は、リック・ライトもキーボードだけでなく、作曲&ボーカルでもバンドに貢献していた。ポンペイのライヴ映像でも、しっかりボーカル取ってるのがわかる。
さてそのリックの作ったこの曲は、静かなピアノ弾き語り風に始まり、優しく美しいボーカルが印象的な曲。かと思っているとサビのところで一気に盛り上がる。間奏部にはブラスオーケストラまで飛び出す。非常に落差が激しく、ピアノ、アコースティックギター、ブラスオーケストラと多彩な音を、巧みな構成で聴かせる。ブラスオーケストラが入る直前に、ピアノの音の位置が中央に移動していくあたりに、ピンク・フロイドらしい音作りの魅力も感じられる。
そこで歌詞である。「友だち(My friends)」とは違った生活を送っている「僕」の、虚無的な心を歌った曲。6時間前に出会い、ベッドをともにし、出会いの挨拶もしないうちに、もうさようならという女性との関係を歌っている。
「僕」は「君」のことを好きでも何でもないとまで言う。一言もしゃべらずお互いの恐れは夜の闇が隠してくれた。「君」は時々笑みを浮かべたけど、そんなことして気を遣わなくてもよかったんだ。暑い部屋の中でも「僕」は寒さを感じ、太陽の下で寝転んでいる友だちをうらやんでいる。つまりこの虚無感は出会ってからずっと続いているのだ。後から悔やんでいる訳ではない。
「明日はまた違った街、そして君のような違ったまた別の女性」というのは、ピンク・フロイドのツアーに照らして考えれば、コンサート会場ごとにグルーピー(groupie:ロックバンドの親衛隊、おっかけ)が待っていることを言っているのだろう。ピンク・フロイドと切り離して考えれば、そうした流れ者な生き方をしている「僕」なのだ。
こんなゆきずりな関係を「僕」は虚しく思っている。そして「君はどんな気分なんだい?(How do you feel?)」と相手に問う。君はたぶんどんな気分か言いたいんじゃないかな、と思っている。君はこんな関係を虚しいとは思わないのかい?逆にこんなことでも楽しい一時を過ごせたと喜んでいるのかい?
そう、虚しいとはっきり言って欲しいのかもしれない。あるいは問いただし続けることが、自分が虚しい気持ちでいることの訴えなのかもしれない。しかし答えは得られない。虚しさを逃れるすべは今の「僕」にはないからだろう。
最終連、二行目だがライナーノートには「Charlotte Pringle's due」と記載されている。これとは別にネット上のファンサイトや歌詞サイトでは「Charlotte Pringles too」となっている例もある。
まず「Charlotte Pringle」とは何の名前かが、この歌詞の中からではわからない。ネット上では「都市の名前」という説もあった。
もし「Charlotte Pringle's due」ならば、「Charlotte Pringle is due」と、be動詞の部分が短縮形になっている文章だと解釈して、「(次の公演場所)シャーロット・プリングルが待っている」と、毎日のように移動とコンサートに明け暮れていた生活を思わせる一行だと取れる。また「Charlotte Pringles too」で解釈するなら、今滞在している都市に対しても「(Goodby to)Charlotte Pringles too(シャーロット・プリングルの街にもさようなら)」と取ることが出来る。
しかし、Google Earthで「Charlotte Pringle」を探そうとしたが、該当する場所がないようだった。
次に「Charlotte Pringle」は女性の名前だと考えてみる。「たぶん次に待っているグルーピーの女性」というネットにあった説に従えば、「Charlotte Pringle's due」ならば「シャーロット・プリングルがもうすぐやってくる予定だ」という感じか。6時間前に会った、おそらく名前もろくに知らない今の女性よりは、フルネームを知っている、親しく長い付き合いであると思われる女性。あるいは「僕」の恋人の名前かもしれない。
「Charlotte Pringles too」で考えると、「さようなら君(Goodbye to you)」に続いて「シャーロット・プリングル、君も(さようなら)なんだね」と、部屋から出て行こうとしている女性を見ている様子か。
しかし「I've had enough for one day.(一日分としては十分なことをやり終えた)」、つまり本当はもう一人にして欲しい。そっとしておいて欲しい。できることなら、友だちと同じように太陽の下で寝転がっていたい。そんな最低な心境なのだ。いずれにしても、個人名が出てくることで、歌詞全体のリアリティーが一気に上がる効果を持つ一行だと言える。
「バンドの二度目のUSツアーにまつわる曲で、作曲者のリチャード・ライトがあるグルーピーとの出会いのあとに感じた精神的な虚無感について歌っている…(中略)…『68年の夏あ、どこにでもグルーピーがいた』何年も経ったのち、ライトはこう語っている。『彼女たちは専属のメイドみたいに面倒を見に来てくれて、洗濯をして、一緒に寝て、淋病をうつしていた』」
(「ピンク・フロイドの狂気」マーク・ブレイク、
ブルース・インターアクション、2009年)
グルーピーとの生活を歌ったのだとしても、そうした背景とは切り離して一つの曲として聴いてみても、「僕」をとりまく、非常に不安定な生活、心の通わない虚しい出会いを切り取った印象的な歌詞だ。ブラスオーケストラのドラマティックな音が「僕」の激しい自責に近い気持ちを表しているようでもあり、また一方で、やわらかなボーカルとアコースティックな伴奏が、「僕」がとても優しい思い、優しい目で、相手の女性を見ているような印象を残す。名曲。