原題:Someday / Refugee
■レフュジー(Refugee)収録
「いつの日か」
いつの日か
僕は出て行くだろう
バッグに荷物を詰めて
飛行機に乗り込み
太陽に向って一直線に
突進するだろう
もうわかってることさ
いつの日か
僕は背を向け
どらにカギをかけ痛みを捨て去るだろう
そして新しく平和を手に入れ
船で旅立つんだ
もうわかってることさ
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か
僕は道をみつけ
立ち上がり
ドアから外へ出て行くだろう
全ての痛みを君に残していこう
それは君が僕に与えたもの
一曲の歌に包み込んでおこう
もうわかっていることさ
いつの日か
君はその日がくることを知るだろう
君はその痛みを知るだろう
それはこの曲の中にある
そして僕は
太陽に向って一直線に
突進するだろう
そう 君もわかることさ
いつの日か君も
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
いつの日か 君は痛みを感じるだろう
Someday
I'll go away
Pack my bag
Get on a plane
I'll smash right through
Right into the sun
And I know that
Someday
I'll turn my back
Lock the house
And give up the pain
And I'll go and take my peace
Gonna sail away
And I know that
Some-day you're gonna feel the pain
Some-day you're gonna feel the pain
Some-day you're gonna feel the pain
Some-day you're gonna feel the pain
Someday
I'll find a way
Get on my feet
Walk out the door
And I'll leave you all the pain
That you gave to me
Wrapped up in a song
And I know that
Someday
You'll know the day
You'll know the pain
It's right here in this song
And I'll smash right through
Straight to the sun
And you'll know that
Some-day you
Some-day you're gonna feel the pain
Some-day you're gonna feel the pain
Some-day you're gonna feel the pain
Some-day you're gonna feel the pain
【メモ】
Yesのメンバーとして「Relayer(リレイヤー)」という傑作アルバムを作り上げることになるPatrick Moraz(パトリック・モラーツ)が、Yes加入以前に在籍していたバンドRefugee(レフュジー)唯一のアルバムから。アルバム1曲目がインストゥルメンタルなので、最初のボーカル曲となる。
RefugeeはThe Nice(ザ・ナイス)というキーボードトリオから、Keith Emerson(キース・エマーソン)がEL&P結成のために抜けたため、その後釜としてPartickを加入させ、“第2のナイス”とするべく生まれたバンドであった。したがってキーボード、ベース、ドラムスのトリオ編成で、ベースのLee Jackson(リー・ジャクソン)がボーカルを取っている。
曲はLeeのちょっとあか抜けない感じの声で歌われるが、曲はPatrickのエレクトリク・ピアノ、シンセサイザー、メロトロンなどの多彩なキーボードによりポップな印象のわりにダイナミックな演奏が聴ける。
この力強さが歌詞とも呼応している。「僕」の決意が自分自身へ向けられているのと同時に「君」へと向けられている歌である。曲調は新しい世界が開けていくような旅立ちの瞬間を思わせるものだ。
「僕」は「飛行機に乗り込み太陽に向って突き進む」ことや「船に乗って旅立つ」など、「新しい平和」を手に入れる希望に満ちた未来を描く。
しかしそれは現実的な話としては「君が僕に与えた痛み」から抜け出そうとする試みに過ぎない。いつかその痛みを残して自分は自分の足で新しい世界へと出て行こう、そう言っているだけなのだ。
その痛みすら「君」は知らない。自分が出て行くことで「知ることになるだろう(You'll know the pain)」と「僕」が思っているだけだ。
そして何よりも興味深いのはタイトルそのもの「いつの日か(someday)」である。つまりここで「僕」が実行しようとしているのは、今これからのことではない。決心がついたことではないのだ。「いつの日か」そうしようと思っている、あるいは「もうわかっていることさ(And I know that)」とわざわざ繰り返すあたりは、そうしようと自分に言い聞かせているかのようでもある。まだ夢のような話なのだ。
つまり現実には、「僕」は「君」におそらく心の「痛み(pain)」を与えられたまま「立ち上がる(get on my feet)」こともできずにおり、そのことを「君」は知らない。「いつの日か」君は僕のこの「痛み」を知るだろうと思っているだけなのである。
「君」とは誰か。やはり恋人であろう。「君」は僕の痛みを知らないということは片思いなのかもしれない。しかし家から出て行くという表現は、現在の自分から抜け出すという比喩として使われているだけでなく、どことなく「君」と共同生活をしていることを感じさせる。その君をを置いて、「僕」一人出て行くんだと言っているように思えるのだ。
愛した相手からの裏切りなのか、心のすれ違いなのか。希望に満ちた曲調とは裏腹に、そこにはある意味煮え切らない男の姿、あるいはうちひしがれた男の姿が浮かぶ。
そのちょっと情けない雰囲気にLeeの歌声がハマっていて、どこかしらコミカルですらある。それをPatrickのキーボードが美しくアレンジしているので、現実より夢の部分に音楽的な膨らみが付き、希望に満ちたような雰囲気にまでたどり着いてしまった不思議な曲だとも言えよう。
すべてはあくまで「いつの日か(someday)」なのに。
原題:The Raven / Robert John Godfrey
■「フォール・オブ・ハイペリオン
(Fall of Hyperion)」収録
大鴉(オオガラス)
大鴉は大空に張り巡らされた飛行路を北へと向きを変える
吹き付ける雨を抜けて旋回し回転し
獲物を探し出し殺す狩りをするために
かれの本能はが求めるのはそれだけ
まさしく気品高き一羽の鳥
その旋回や回転降下は音も無く行われ
身体の小さい獲物に爪をたて引き裂き
腹が満たされると、再び舞い上がり、向きを変える
日没の金色に輝く光の間をすり抜けていく
※ 大鴉は遠く北を目指して翼を広げる
さらなる獲物を狩る本能の命じるままに
そして決して休まることのない苦悩に満ちた
一日を終えて身を休める場所を求める
自分の巣を見つけようと飛び続ける
(まるで木々を抜ける風のよう)
それから巣作りを行うのだ
狩人の鋭い目:
大鴉が獲物:
鷹の羽ばたきは静まる:
矢が放たれる:
大鴉は回転しながら落ちる、落ちる、落ちる
大空の飛行路はばらばらに破壊された
狩られたものの運命 狩ったものの仕事
しかし弓を持つ者は誰一人として
大鴉を狩るべきではないのだ
なぜなら死肉は価値の低い蓄え
その弓を射たものは人として汚点を残す
大空の大自然の正義
※ コーラス
そうして男は大鴉の理性に気づくだろう
冬に増して寒い季節でさへ不満を抱かせることはできない
そうすべき定めにあったこの男
生き物を殺すため われわれ以上の誠実さを
与えられたこの男
※ コーラス
家路へそしてやがて来る陽の光を求めて
今でも大空遠くへと舞い上がる
The raven turns north on skyways chains
To wheel and spin through weathered rains,
To hunt to seek to kill his prey.
His instinct shows no other way.
There is seen no less a noble bird.
That wheels and spins down never heard.
To talon and tear at lesser prey
To fill, then climb, then turn away: ...
through floating fingers of the golden sunset
* The raven wings its way far northward
On a mission of instinct still hunting prey.
Seeks his home beyond the day
Of this his torment of never rest.
Onward on to find his nest.
(The wind through the trees)
Then feathers its way
The hunters keen eye:
The raven's the prey:
The hawkwinds are silenced:
The arrow is spent:
The Raven spins downward, downward downward.
The chains of the skyway are shattered asunder.
The fate of the hunted the work of the hunter.
Yet none with a bow
Should take the raven
For carrion is a less worthy savings.
The archer now as a man is marked
And natures justice of the air.
* Chorus
So her reason will see this man.
No a colder season than
Winters time can discontent
A man from the purpose he was meant.
Endowed with more integrity
Than to kill the creatures less than we.
* Chorus
Homeward and onward seeking the day
Still soaring skywards and away.
【メモ】
タイトルの「ハイペリオンの没落(The Fall of Hyperion)」はイギリスのロマン派の詩人ジョン・キーツ(John Keats : 1795-1821)の哲学的叙情詩のタイトルを、そして曲名「大鴉(The Raven)」はアメリカの作家エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe : 1809-49)の詩の同名のタイトルを思い出させる。全体的に極めて文学的イメージに溢れたアルバムだと言えよう。
作詞は全てボーカルのクリストファー・ルイス(Christopher Lewis)によるもの。
ロバード・ジョン・ゴッドフリィのピアノとメロトロンを中心とする多彩なキーボードワークと効果的な打楽器によるクラシカルさに、彼の書く文学的歌詞はとてもうまく解け合って、不思議な禁欲的で美的な世界を作り出している。
歌詞は大空を飛び回り、獲物を狩ることだけに生きる苦悩と自由に満ちた大鴉という存在を中心に描く。食べること、生きることに追われながら、それでも大空を縦横無尽に飛び回る大鴉。そこには自然の摂理のままに生きるものへの憧れや畏怖が垣間見られるようだ。
しかし狩る側であった大鴉も人間によって狩られてしまう。狩人は狩る役割を誠実に果たした男。しかしそれは大自然の正義の前では人としての汚点となる。
そこに悪意はない。ただ人並み以上の誠実さで仕事として狩りをした人間。獲物として狩られた大鴉。それが自由と苦悩を身にまといながら大空を飛び回っていた大鴉の定め。しかし人には犯してはならない自然の正義がある。
そして繰り返しに続く最終行、大鴉の魂は再び大空へ飛び立つ。
この歌詞には自由と苦悩を持ち合わせながら、人の届かない大空に生きるどこか超越的な存在の象徴として大鴉が描かれていると言えるだろう。そかしそれは、人知を越えた存在でありながら、実はわれわれの憧れの対象ともなりうる理想的な存在なのかもしれない。苦悩しながらも自由に自分の力を信じて生きる大鴉。だから最終行、再び大鴉の魂が舞い上がる時、そこに聴き手は感動を覚えるのではないだろうか。
ちなみにエドガー・アラン・ポーの「大鴉(The Raven)」とは内容的な共通点はない。
原題:「Money」
■「狂気 」
「The Dark Side Of The Moon」収録
カネ 取り上げるんだ
もっと稼ぎのいい仕事をみつけりゃOKってことさ
カネ そいつは凄いモノさ
現ナマを両手でしっかりつかんで隠しておくんだ
新しい車 キャビア 4つ星最高級の白昼夢だ
自分のフットボール・チームを買うっていうのどうだい
カネ 取り戻すんだ
オレは上機嫌さ ジャック オレの大金に手を出すんじゃねぇぜ
カネ そいつは恍惚ってもんだ
オレには道徳家気取りでたわごとを言う善人なんかいらないぜ
オレは最高級ファーストクラス旅行グループの一員なのさ
仕事用のジェット機なんかも必要かもしれねぇな
カネ それは犯罪だよ
公平に分けるんだよ
でもオレの取り分には触るんじゃねぇ
カネ みんな言ってるぜ
今の世の中の諸悪の根源だとよ
でももし昇給を求めたところで
何ももらえやしなくたって驚きもしねぇだろ
「そうさ...(笑い)オレは間違っちゃいなかったぜ!」
「その通りさ、全く間違ってなんかいなかった!」
「オレは本当に正しかったのさ!」
「そうよ、完璧に正しかったんだよ。あの頭のイカレた老いぼれ野郎ならふらつき回ったあげくにアザをもらうだけだったけどな!」
「どうして誰も何かをしようとしないんだ?」
「その通りだ!」
「どうして誰も何かをしようとしないんだよ?」
「わからねぇよ。そん時はこっぴどく飲んだくれてからな!」
「オレはヤツにこう言っていたんだ。ブツは中にある、2番目の貨物の中からぶんどれるぜとな。ヤツは聞いてきた。何で11番目のじゃねえんだよって。その後オレはヤツに大声で怒鳴りながら言ってやった。何で11番貨物じゃないかって訳をな。強烈な一撃だったんだろう、それで一件落着ってわけさ」
Money, get away
Get a good job with more pay and you'er O.K.
Money it's a gas
Grab that cash with both hands and make a stash
New car, caviar, four star daydream,
Think I'll buy me a football team
Money get back
I'm all right Jack keep your hands off my stack.
Money it's a hit
Don't give me that do goody good bullshit
I'm in the hi-fidelity first class travelling set
And I think I need a Lear jet
Money it's a crime
Share it fairly
But don't take a slice of my pie
Money so they say
Is the root of all evil today
But if you ask for a rise
It's no surprise that they're giving none away
"Yeah... (laughs) I was in the right!"
"Yes, absolutely in the right!"
"I certainly was in the right!"
"Yeah, I was definitely in the right. That geezer was cruising for a bruising!"
"Why does anyone do anything?"
"Yeah!"
"Why does anyone do anything?"
"I don't know; I was really drunk at the time!"
"I was just telling him it was in, he could get it in number two. He was asking why it wasn't coming up on freight eleven. After, I was yelling and screaming and telling him why it wasn't coming up on freight eleven. It came to a heavy blow, which sorted the matter out"
【メモ】
Pink Flyodのモンスターアルバム「The Dark Side of the Moon」から、シングルヒットを記録した曲「Money(マネー)」である。
曲の最後は、このアルバムの特徴となっている、人々のつぶやきが折り重なるようにして消えていく。このつぶやきの部分はLyricWikiを参照させていただいた。
当時も感じたが、シングル・ヒットするほどポップな曲でも歌いやすい曲でもない。かなりダレた感じの7拍子のリズムを主体に、吐き出すようなボーカル。ただし中間部に目の覚めるようなロックスピリット溢れるギターソロが挿まれており、そこだけノリの良い4拍子になるという緩急の際立った構成である。
歌詞の内容は、最後のつぶやき部分とも呼応して、かなり危ない仕事をやることで大金を手にしている「オレ」の話になっているように感じられる。キング・クリムゾンの曲の「イージー・マネー(Easy Money)」、あるいはU.K.の「デンジャー・マネー(Danger Money)」とともに、「わかっちゃいるが、こういう生き方を選んじまったのさ」っていう感じが漂っている曲だ。
ただし歌詞を追っていくと、「オレ」は一匹狼的に動いているアウトローではない。仲間がいて取り分がある。そういう意味ではある種ビジネスライクに割り切っている風ではない。それしか手がないからやってるんだとでも言うような雰囲気が漂う。
それは曲のダレた感じとも共通する。大きなことは言っているが、そこに後ろめたさや卑屈さを感じるのだ。あるいはそれがこの曲のメインであって、大金云々という話はすべて「four star daydream(四つ星クラス最高級の白昼夢)」ではないかと思うくらいだ。
そしてPink Floydらしいのがラストの一文。「賃上げを要求したって何の返答もないさ、驚くにもあたらない」という社会批判。しかしそれは批判というよりは現実認識であって、この文を以て「マネー」が反体制的な曲だというわけでは決してないだろう。
やはり「諸悪の根源」だとわかっていながら、カネを求めざるを得ない、現代社会の有り様や、人間の悲しさ、どうしようもない業のようなものを、シニカルに歌っているのだ。
それが明確な社会批判へと転じるのは「アニマルズ(Animals)」を待たなくてはならない。
原題:Goin' Away
■「恐るべき静寂」(TAI PHONG)収録
Goin' Away / 旅立ち
僕は行くよ
行き先はわからない
でもそんなことは問題じゃない
とにかく言えるのは
世界を見たい
毎日新しい街を見て回りたいってことだ
どこであれ ここよりましだろう
僕をバカだと皆は言うだろう
僕はうまくいかないかもしれない
でも皆はわかっていないんだ
自分たちがただじっと祈っているだけだってことを
旅立ち
新しい友や人々との出会い
行く先々で
どんな人と出会うかなんて分からない
新しい愛も残していきたい
そうすれば様々な感情が最後に流れ出すことができるから
どこであれ ここよりましだろう
僕をバカだと皆は言うだろう
僕はうまくいかないかもしれない
でも皆はわかっていないんだ
自分たちがただ祈ってじっと待っているだけだってことを
僕は自分の道を進む
そして新しく何かを始めることを
そして心を開くことを学ぶんだ
僕は自分の道を進む
空高く飛ぶ日が来るのを待ちながら
今とは違った空や木を見るだろう
まるで朝の陽の光を浴びた心の中のように
長い時と長い努力が必要だろう
でも希望を持つことを学びたいんだ
やり続けるには十分な理由さ
そしてもしいつの日か道ばたで
ちょっと落ち込んでいる僕を見かけても
あまりに重い荷物を背にして
僕が疲れて弱りきっていても
間違っていたじゃないかなんて言わないでくれ
まっすぐ故郷へ帰りななんて言わないでくれ
そう思っても黙って笑ってくれる方が意味があるだろう
あるいはもう少しましなこととしては
行くべき道を示し
「さようなら、またいつか会いましょう」と言ってくれないか
そして僕のことは知らないと言ってくれないか
決して悪いようにはしないから
I'm going away
I don't know where
But it doesn't matter
Any way I can say
I want to see the world
Another city every day
Anywhere's better than here
They say I'm fool
And I will fail
But they can't understand
They'er just waiting and praying
Goin' away
Meeting new friends and poeple
I didn't know they could be
On my way
I want to leave a new love
Then feelings finally can pour
Anywhere's better than here
They say I'm a fool
And I will fail
But they can't understand
They're just praying and waiting
Oh I'm on my way
I'm gonna learn a new start
And open my heat
Oh I'm on my way
Waiting for the day
When I'll find I can fly
I'll look at another sky and a tree
As it is in my mind in a sunny morning
It will take a long time
And long work, yes I know
But I've got to learn hope
It's enough to go on
And if sometime you see me
Kind of blue along the road
If you see me down and tired
Carryin' such a heavy load
Don't say I was wrong
Don't say I should come straight home
It would be mean to be laughing that way
Or doing me one better
So just show me the way
say au revoir tomorrow
Tell me you haven't seen me
And you I won't ever do wrong
【メモ】
まず手元のCDのブックレットに書かれていた英語歌詞は、日本版LPと同じLinda Hennrickという方によって聴いて書き取られたものである。しかしCDブックレットはLPの英文の一部が抜けていたり、単語が違っていたりしているため、ここで採用しているのはCD(1997年発売の国内版)ではなく、日本版LPのものを採用した。
ベトナム系フランス人を核として「Sister Jane(シスター・ジェーン)」などのシングルヒットも含まれたファースト・アルバム「Tai Phong(恐るべき静寂)」の最初の曲である。言わば最初にTai Phongの世界に触れる曲だ。2曲目が泣きの名曲「Sister Jane」なので、そちらの印象の方が強くなりがちだが、この曲も特異な声質のボーカルの魅力や、なまめかしく美しい中間部の二人のギターソロなど、曲としての完成度は高い。すでにTai Phongの魅力全開と言ってもよい。
そしてこの前向きな歌詞である。確かにある意味「Somewhere over the rainbow(虹の彼方に)」的な、ここではないどこかに自分の夢が叶う場所があるという、若者の抱きそうな思いを綴った内容ではある。
しかし「僕」は、その「どこか」を夢見ているだけではなく、そこを探して旅立とう(going away)としているのだ。「just waiting and paying(ただ座して祈っている)」だけじゃなく、自ら夢に向って行動しようとしているのだ。
「I will fail(うまくいかないかもしれない)」という恐れもある、さらにどこかの道ばたで「kind of blue(ちょっと落ち込んで)」いたり、もしかすると思い荷を運び「down and tired(弱り疲れて)」いるかもしれない。「heavy load」は生きて行くための苦悩として比喩的に使われていると考えてもいい。「down」は文字通り「倒れて」いるとも取れる。
しかしそんな「僕」を旅先で目にしたとしても、そら見たことかとか、すぐに故郷へ帰れとか言わないで欲しいと「僕」は言う。そう思っても、ただ「laughing(笑って)」くれと。あるいは、できるなら進む道を示してくれたらうれしいと。
そして「au revoir(good bye)」と言って手を貸さずに去って欲しいと。「tomorrow」は「明日」ではなく、「将来、いつか」と解釈した。
そして僕を「見知らぬ人(見たことの無い人)だと思って欲しい」、あるいは「見なかった(そこで会わなかった)ことにして欲しい」と「僕」は願う。
あくまで例えそれが大きな苦難であり、思い通りに行かない生活であっても、決してそこから逃げずに進んで行こうとしているのだ。故郷の知り合いの手助けもいらないし、手助けを必要としているように思われたりれ触れ回られたりしてほしくないのだ。
第2連で「leave a new love」とあるが、「love」には主に女性に対して使う場合に「恋人」という意味もある。「新しい恋」あるいは「新しくできた恋人」すらも残して行く覚悟なのだ。それがこれからの旅路における、自由な感情の発露を可能にしてくれるだろうから。
だから最終連で呼びかけている「you」は、この恋人のことを指しているのかもしれない。とすれば、この曲全体が、愛しい恋人への別れの歌だという捉え方もできる。自分のこれからの人生のために、自分の可能性を広げるために、今愛しい君とも別れて「僕」は旅に出る。そういう選択をしたんだという決意を伝える歌だとも言える。
ある意味男らしい歌。そして2曲目の「Sister Jane」がある意味女々しい歌。この落差もアルバム構成上の妙なのかもしれない。