2010年4月4日日曜日

「アン・インメイツ・ララバイ」ジェントル・ジャイアント

原題:An Inmates Lullaby

(邦題は「イ ン・ア・グラス・ハウス」)収録






入院患者の子守唄

このきれいで心地よい クッション付きの小さな部屋で
昼下がりには横になりながら
僕はここにいる変わった友だちみんなと話ができるんだ
僕は横になるように言われてるんだけどそれは…なぜかはよくわからないんだ
   
庭園に咲く花を食べてみたんだそこには美味しいチューリップがあるから
そして間に合わなくてズボンを濡らしてしまっても気にしないんだ
他に行く場所もなかったし見つけることもできなかったし
  
とっても大きな白い電球をじっと見上げる
その電球は毎日灯っていて夜の間も灯り続けているんだ
僕の間抜けな友だちの声が聞こえる
看護婦さんたちはいつも部屋にカギをかけずっと外で待っているんだ
 
今朝怪我をしてしまったのでお医者さんが僕に注意をし自分の部屋に行かされ僕に悪い子だと言ったんだ
 
誰かが僕が彼はたぶん長い間ここにいることになると思ってるって言っている どうして他の皆は僕の頭がおかしいっって思うんだろう
誰かが僕が彼はたぶん長い間ここにいることになると思ってるって言っている そして僕の頭がおかしいって 
 
このきれいで心地よい小さなクッション付きの部屋で
昼下がりには横になりながら
僕は ここにいる変わった友だちみんなと話ができるんだ
僕は横になるように言われてるんだけどそれは… なぜかはよくわからないんだ
  
  
Lying down here in the afternoon
In my pretty cosy little cushioned room
I can talk to all my funny friends in here
I was told to rest why ... I am not quite clear
 
Eating flowers growing in the garden
where there are tasty tulips and I don't care
If I wet my trousers there was no time
I had nowhere else to go nowhere else I could find.

Staring up at the great big white light.
That shines everyday and shines all through the night
Hearing voices of the silly friends of mine
Always lock the door nurses waiting outside all the time.

Hurt myself this morning, Doctor gave me warning sent me
to my room and told me that I'm bad.

I heard someone saying I think he'll be staying maybe for a
long time, Why does everybody else think that I'm mad
I heard someone saying I think he'll be staying maybe for a
long time and that I'm mad.

Lying down here in the afternoon
In my pretty cosy little cushioned room
I can talk to all my funny friends in here
I was told to rest why ... I am not quite clear.

 
【メモ】
イギリスの超技巧派バンドジェントル・ジャイアントが1973年に発表した5枚目のアルバム「In A Glass House」からの一曲。このアルバムもコンセプトアルバムと言えるもので、Wikipediaには次のように書かれている。

「A complex and determined concept album - named for the aphorism that "people who live in glass houses shouldn't throw stones" - it was the band's most directly psychological effort to date.」

「複雑で明確なコンセプトアルバム - ガラスの家に住む者は石を投げるべきではない<弱みを持つ者は人に文句を言ってはいけない>という格言に由来する - この作品はバンドが現在に至るまで、一番直接的に精神面をテーマとして扱った作品である」

6つの収録曲が精神的弱さを持った一人の人物の精神的・心理的変遷を綴ったものとなっていて、この「An Inmates Lullaby」は2曲目、1曲目の「Runaway(逃亡者)」に続いて、精神的なダメージを負った段階の曲だと言える。

そうしたコンセプトの設定自体も奥の深いものであるが、その中でもこの曲の凄さは際立っているように思える。

タイトルからもわかるように「僕」は入院している。その理由は「僕にはよくわからない」。自分の現状を認識することもままならない状態。「美味しいチューリップ」を食べてしまったり、おもらし(wet my trousers)しても気にしないでいたり、天井の電球がずっと点いていることが気になっていたりというあたりから、「僕」が入院しているのは精神科の隔離病棟であることが想像される。

「cushioned room」というのも「クッションの置かれた部屋」というよりは「壁がクッションのように当たっても怪我をしない部屋」ということではないかと思う。つまり「僕」は時に激しいパニックを起こすのではないだろうか。 だから午後の一時を除いては、一人部屋に残され、その部屋にはカギがかけられ看護婦は常に待機しているのだ。
  
僕はまわりの友だちを「funny(間抜け、ばか)」だと思い、でも周りの皆が僕の頭がおかしいと思っていることは納得できない。「hurt myself(怪我をする)」とか「bad(悪い)」とかいった感覚的・抽象的な言葉はあるが、何がいけなくてなぜ注意されたのかは理解できていないかのようだ。

ちなみに「Hurt myself」であるが、「hurt oneself」で「怪我をする」という慣用句である。しかしここでは文字通り「自分自身を傷つけてしまった」 と解することもできそうである。つまり自傷行為をしてしまったと。だから「悪い子」だと言われたのかもしれない。

文法的におそらく故意に乱していると思われる歌詞。付帯状況を示すような分詞構文でありながら、それだけで終わっている部分(「Eating.../Staring...」など)は、「僕」のうつろな気分や物事に集中できずに視点や関心がどんどん変わってしまう様子を感じさせる。

特に
「I heard someone saying I think he'll be staying maybe for a long time, Why does everybody else think that I'm mad」

とその繰り返しに見える次の行の 
「I heard someone saying I think he'll be staying maybe for a long time and that I'm mad」

は、「僕」が前の行の言葉を繰り返そうとして、中間部分(赤字部分)が思考からごっそり抜け落ち、最後の「that I'm mad」に飛んでしまったかのようで刺激的であるし、それがまた結果的に「I heard someone saying that I'm mad.(誰かが僕の頭がおかしいって言っているのが聴こえる)」とも読めてしまうというというのも実に巧みだ(ただし、実際の歌では全文が繰り返されている)。

また句読点に縛られないで、頭に浮かんだままに文にしているとすれば「I heard someone saying I think he'll be staying maybe for a long time,」の部分は、「誰かが何か言っているのが聴こえる たぶんあいつは長い間ここにいることになるだろうな」と意味を取ることもできそうである。

つぶやくような声がさらにイコライジングされ、意識が半覚醒状態にあるような夢幻的な曲。しかし歌詞は恐ろしいほどに閉ざされた「僕」の状況の描写である。「僕は混乱している」とか「僕は気が触れてしまいそうだ」といった客観的・理性的な意識や視点をまだ持ち合わせた上での叫びとは違う、生々しくも悲しく異様な世界がそこには描かれているのだ。
 
「僕は頭がおかしいと思われ不当に隔離されている」といった強い反発や自己主張もない、淡々とした静かな精神的に壊れた世界。

サウンドに関心が行きがちなジェントル・ジャイアンだが、その歌詞もまた奥が深いことを感じさせる一曲。 

ちなみにこの歌詞を訳しながらダニエル・キーツの「アルジャーノンに花束を」を思い出してしまいました。
 
  

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