2013年9月22日日曜日

「ダイアナ」コーマス

原題:Diana

First Utterance収録






彼は欲望に身を任せ美徳は終わりを告げ

蒸し暑い森林を通り抜けていく
彼の黒ずんだ血液は浮き上がった血管を流れ
蒸し暑い森林を通り抜けていく

彼が欲望に静かに身を任せることを美徳は知っている

蒸し暑い森林を通り抜けて
酷い震えが素早く伝わる
樹木に覆われた小道の先へと

鈍い光をじっと見つめながら彼女は逃げる

松林を抜けて
彼女はうなり声を聞いて悟る
猟犬のうなり声で悟る

ダイアナ ダイアナ 頑張って歩け

欲望は歯をむき出し鳴き声を上げる
純潔の臭いを嗅ぎ付けたのだ
狂乱状態に感づいたのだ

欲望は彼の目を使って声を上げながら走り回る

白衣の人物は消え去る
ぬかるみがその目を焦がすが
欲望はその心を焦がす

森が牙をむくと彼女の目には恐怖が浮かぶ

蒸し暑い森林を通り抜けて
欲望は今彼の魂を打ち砕いた
抗う気持ちは砕け散った

鈍い光をじっと見つめながら彼女は逃げる

松林を抜けて
彼女はうなり声を聞いて悟る
猟犬のうなり声で悟る

ダイアナ ダイアナ 頑張って歩け

欲望は歯をむき出し鳴き声を上げる
純潔の臭いを嗅ぎ付けたのだ
狂乱状態に感づいたのだ

Lust he follows virtue close
Through the steaming woodlands
His darkened blood through bulging veins
Through the steaming woodlands

Virtue knows he follows softly
Through the steaming woodlands
Travel light the deathly shudder
Down the leafy pathway

The dim light she comes peering
Through the forest pines
And she knows by the sound of baying
By the baying of the hounds

Diana Diana kick your feet up
Lust bares his teeth and whines
For he picked up the scent of virtue
And he knows the panic signs

Lust cries running with his eyes
The white-clad figure fleeting
Mud burns his eyes
But desire burns his mind

Fear in her eyes as the forest grins
Through the steaming woodland
Lust now his soul destroyed
With enmity disarmed

The dim light she comes peering
Through the forest pines
And she knows by the sound of baying
By the baying of the hounds

Diana Diana kick your feet up
Lust bares his teeth and whines
For he picked up the scent of virtue
And he knows the panic signs


【メモ】
Comusというグループ名は17世紀英国詩人ミルトン(John Milton)の「仮面劇コーマス(Comus)」(1634年)より取られたとされる。Comusはギリシャ神話の酒神バッカス(Bacchus)と魔女キルケーの子どもで快楽と音楽の神の名前であり、森にいて放埓を勧める淫猥な魔術師として描かれる。その森を彷徨い惑わされた乙女(Lady)の救出劇である。

劇ではComusはLadyを自らの快楽の館(pleasure palace)に連れて行き、魔法で動けなくした上で、手を尽くしてLadyに誘惑の言葉を投げかける。しかしLadyはその誘惑を頑に拒絶する。最後Ladyの二人の兄弟と守護霊(Attendant Spirit)が現われLadyは救われ、その純潔は守られるのである。それはMiltonのプロテスタント的倫理観の現われだと言われている。

さてそこでこの歌に内容について考えてみたい。
森を彷徨い逃げ惑う乙女ダイアナ(Diana)と、欲情に支配され彼女を追い詰めようとする彼(he)を歌った内容だということは分かる。彼は猟犬と共に彼女を追っている。

「仮面劇コーマス」の物語に於いては、ComusはLadyを二人の兄弟のところへ連れて行くと偽って自分の城へと導くことになっているので、逃げ惑うLadyを襲わんとして追いかけるというような場面は無い。しかし誘惑する男Comusと拒むLady、そして二人を取り囲む森(woodlands、forest)という設定は大きく影響していると言えそうである。

あるいは古典的会話劇にインスパイアされ、より現代的で劇的な一場面として作り替えたのかもしれない。「steaming woodlands(蒸し暑い森林)」とは真夏の森のことだろうか。

第一連の表現には性的な言葉が多く使われている。「lust」は強い性欲、及び聖書では罪とされる官能的欲望を示す言葉だし、「virtue」は一般的な美徳という意味に加え「純潔、貞操」の意味を持つ。「bulge」にも「膨れ上がる」という動詞以外に、「男性の股間の膨らみ、男性器」という意味がある。だから最後の部分は極めて性的なイメージに繋がる。

第二連でDianaの持つvirtue(美徳/貞操)は、「彼」の強烈なlustを感じ取っている。そのおののき/震えは森の端々にまで伝わってしまう。

第三連の「鈍い光」は追手である「彼」の持つ松明であろうか。つまり時は夜なのだ。そこは真夏の夜の森なのである。猟犬の吠え声も聞こえる。危険はすぐそばに迫っているのだ。

第四連ではDianaを励ます言葉(命令文)として「kick your feet up」とある。「足を高く上げる」と言うよりは、「止まりそうな足をムチ打って動かす」という感じと考えた。

第五連は「彼」の描写である。すでに「彼」は「lust(欲望)」の虜であり、欲望が彼を支配し、彼の目を使って追いかけているような状態なのだ。「white figure(白い人影)」はDianaのことであろう。「彼」はDianaの姿を一瞬捉えたのだ。泥はねで視界は遮られても、「欲望は心を燃やし尽くす」。ここでの「mind」は「知性、思考」という知的な活動を示しているのだろう。つまり考える力や判断する力を失うほどに、彼は欲望に満たされているのだ。

それは次の第六連にも通じる。「森が牙をむく」とは、茂った木々が彼女の行く手を阻む様子だろうか。そして「欲望は今彼の魂を打ち砕いた/抗う気持ちは砕け散った」と、「彼」が欲望に支配されたことが再び語られるのだ。「mind」が焼き尽くされ「soul」が打ち壊された「彼」には、最早欲望に抗う気持ちなど残っていないのである。

曲調はスローで思いの外ポップ、か細い女性ボーカルと荒っぽい男性ボーカルが薄気味悪いが、こうして背景を追ってみると演劇的というか劇伴音楽的で、どこかしらコミカルさも感じられる物語性があるのだ。舞台で例えば森の精たちとかが歌いそうである。決してドラッギーな妄想を生のまま歌にした感じではない。

それは一聴した声の怪しさに反して、ボーカルは音程も安定していてハモりも奇麗で、実はかなり上手いこと、さらにアコースティック楽器アンサンブルが実にしっかりしていることにも寄るだろう。だから逆に冷徹な狂気さも増すとも言えるのだけれど。

同様に「lust」に支配されたComusは、1stアルバムの「Song to Comus」でも語られる。そういう意味ではこの「First Utterrance」は、「仮面劇コーマス」にヒントを得て、オリジナルの猟奇的人物Comusを題材とした、一種のコンセプトアルバムと言っても良いのかもしれない。

文法的にすべて上手く説明できるわけではない部分は、付帯状況のように訳してあるのでお気づきの点などありましたらご指摘いただけると有り難いです。

次はComus流狂気ソングの頂点「Drip Drip」を取り上げようかな。

4 件のコメント:

  1. この記事の掲載後、正に放送していたプログレ三昧でこの曲が流れてびっくりしましたww。

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    1. コメントありがとうございます!
      私も、シンクロニシティーってやつかな?と、本当にビックリしました!

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  2. ダイアナはもちろんですが、ドリップドリップも大好きな曲なので更新を楽しみにしてます!

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    1. コメントありがとうございます!
      時間と気合いが伴わないと、中々新しい投稿ができませんが、気長にお待ち下さいませ。

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