2012年5月8日火曜日

「クリスタル・ボール」スティックス

原題:Crystal Ball

Crystal Ball収録





クリスタル・ボール(水晶球)

かつて僕は真っすぐで幅の狭い道を歩くことが好きだと思っていた
すべてはうまくいっているんだと思っていた
時々眠らずに見る夢の中で腰を下ろし何日もじっと見つめていた
たった独りで時の流れに身を任せて
たった独りで時の流れに身を任せて

未来は僕のために何を用意してくれるんだろう
いや果たして僕は未来に覚えてもらっているんだろうか
たぶん僕は未来を見るチャンスを手にするだろう
自分自身が水晶球だとわかった瞬間に
自分自身が水晶球だとわかった瞬間に

教えておくれ、僕はどこに向っているのかを
どこにいるのかすら僕にはわからないんだ
教えておくれ、お願いだ教えておくれ
もっともっと教えて欲しいんだ
僕の胸は張り裂け身体は痛み続けている
どこへ行けばいいのかわからないんだ
教えておくれ、お願いだ教えておくれ
知らなければならないんだよ

水晶球よ
知りたいことが山ほどあるんだ
水晶球よ
知らなければならないことが山ほどあるんだ
水晶球よ

手遅れにならないうちに、僕に教えておくれ
 
I used to like to walk the straight and narrow line
I used to think that everything was fine
Sometimes I sit and gazed for days through sleepless dreams
All alone and trapped in time
All alone and trapped in time

I wonder what tomorrow has in mind for me
Or am I even in it's mind at all
Perhaps I'll get a chance to look ahead and see
Soon as I find myself a crystal ball
Soon as I find myself a crystal ball

Tell me, tell me where I'm going
I don't know where I've been
Tell me, tell me, won't you tell me
And then tell me again
My heart is breaking, my body's aching
And I don't know where to go
Tell me, tell me, won't you tell me
I've just got to know

Crystal ball
There's so many things I need to know
Crystal ball
There's so many things I've got to know
Crystal ball

Won't you tell me please before I go

【メモ】
トミー・ショーが加入して一気にスターダムに伸し上がろうかという勢いに溢れた作品「Crystal Ball」(1976年)から、アルバムタイトル曲「Crystal Ball」である。同時期にプログレ・ハードとして活躍したカンサス(Kansas)の「Dust in the Wind」にも似た、ドラマチックなバラードだ。

Crystal Ballとは「水晶球」のこと。無色透明の宝石として、あるいはパワーストーンとして扱われることもあるが、一方で占い師が意図的に幻視するための道具というイメージも強いように思う。ここでは後者の、未来が見える不思議な石として登場している。

第1連の最初の2行は「used to do...」という表現が使われている。「(昔は)よく…したものだった」とか「…するのが常だった」など、過去の習慣や常習的行為を示す言い方である。「walk the straight and narrow line(真っすぐで幅の狭い道を歩く)」とは、見通しが利いて分かりやすく、限定された狭い世界を歩くイメージだろう。「walk the line」で「正しい行動を取る」という意味もあるから、品行方正な真面目な生き方だけをしていたという意味合いも含まれるように思う。つまり簡単に言ってしまえば“純粋な良い子”であったという感じだろうか。だから「think that everything was fine(すべてはうまくいっていると思う)」ことが常だったのである。世の中や人生に何の疑問も不安も抱いていなかったのだ。

でも今僕は昔とは違ってきている。眠ってみる夢ではなく、眠らずに見る夢、つまり様々な不確かなことへの想像や夢想を、歩くのを止めて腰を下ろして行なうようになってきたのだ。「I'd like to...」は「…したい」という意味だから、ただ決められたシンプルで正しい道を屈託なく歩いていた自分に疑問を持ち始め、立ち止まって考える時間を求め始めたのである。「all alone and trapped in time」とあるように、与えられた道をそのまま受け入れるのではなく、自分自身で考えたいのである。「trapped in…」は「…の中で囚われの身になる」とか「…に閉じ込められる」という表現なので、「時間の中に閉じ込められて」→「十分な時間を費やして」→「時間のことなど気にせずに」といった感じであろうか。

第2連では「tomorrow」が擬人化されている。「明日」でも良いのだが、ここでは自分の将来のことが後述されるので「未来」と訳した。「I wonder what tomorrow has in mind for me」とは直訳すれば「僕は、“未来”が僕のために何を心づもりしていてくれるのだろうかと思う」という感じ。2行目の「Or am I even in it's mind at all」は、「?」は付いていないものの「いや果たして僕は“未来”のこころづもりの中に入っているんだろうか」という問いだと取った。

つまり1行目の「“未来”が自分のために何かしてくれる」という前提そのものを、2行目では疑っているのである。“未来”が僕にしてくれる中味をあれこれ考える以前に、そもそも“未来”が何かをしてくれるのか?してくれないんじゃないか?という根本的な問いであり不安の表出である。

そこで水晶球のイメージが登場する。もし自分自身が水晶球であるとわかれば、「僕」は自分の未来を見るチャンスを得るだろうと言う。自分自身を水晶球に例え、自分の中に自分の未来の可能性を見つけようとしているのである。しかしそれが浮かんでくるかどうか、つまり本当に自分が水晶球であることがわかるかどうかは、まだはっきりしない。

だから第3連では自分に語りかけるのだ。ちょうど魔術師や占い師が水晶球に未来の映像を呼び出すかのように。「tell me」の繰り返しが痛々しく切ない。未来を疑いなく単純に描くことが出来た幼い日々は終わり、自分の居場所も向っている先もわからず、心は張り裂け身体は痛み、それでもすがるように自分自身に自分の未来を尋ね続けている若者の姿が目に浮かぶ。

実際に水晶球を前にして未来を占っているのだとしたら、このような切々とした思いは伝わってこないであろう。水晶球に例えた自分自身に問い続けていることが、聴く人の心を打つのだ。しかしまだ何も浮かばない、つまり水晶球にもなり得ていないという悲しみや不安の中で、 「知りたいことは山ほどあるんだよ」と「僕」は自分の可能性を見いだそうと必死なのだ。あるいはその可能性が見えるまでの苦悩と戦っているのだ。

ラストの「before I go」は、占い師の前から席を立ってしまうイメージに重ねて、未来が見えず未来への夢や希望を持てないまま、現実に流されてしまう前に、というような感じではないか。

この曲はそんな自我に目覚めた若者の、弱々しくも何とか前に進もうとするギリギリの思いが込められた歌である。美声だがメタリックな強さと突き抜けるような明るさ(ある意味能天気さと言ってもよいかも)を持ったデニス・デ・ヤングではなく、翳りのある声のトミー・ショーが歌ったからこそ、「僕」の若者としての苦悩が浮かび上がり、後世に残る傑作となったように思う。

そして実はこの気持ちは、年齢に関係なく今の時代に誰もが抱えているものなのではないかと思う。未来のビジョンが描けない世界、自分自身の可能性が見いだせない世界に、今のわれわれは生きているのだ。1970年代には自我に目覚めた悩める十代の歌だったかもしれないが、今はこの時代を生きるすべての大人が共感できる歌に変っているのかもしれない。 時々無性に聴きたくなる曲の一つである。

 

2 件のコメント:

  1. 素敵な解説ありがとうございます。
    わたしはトミーショウの大ファンです。
    私も頑張ってトミーの曲の意味を理解しようとしているのですが彼の歌詞は難しいのが多いのです><

    ちょっと歌詞が違うところがあったので気になり書き込んでいます。
    3行目は Sometimes I'd sit and gazeで like to はないです。なのでしたいという意味はないと思います。サビの部分は最後に Crystal ball Won't you tell me please before I go  Crystal ball この重要な(?)一行が抜けてます。 あとオリジナルのスタジオアルバムでは 7行目のとこwhat tomorrow has in mind for me と歌ってるように聞こえるのですがライブなどをきくと to me と歌ってる感じします。

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    1. コメントありがとうございました。大変遅くなりましたが、訂正させていただきました!

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