2011年5月4日水曜日

「ラヴァーズ・エンド パートI」ムーン・サファリ

原題:Lover's End PT.I

Lover's End収録





「恋人の終わり」
  
土曜日の夜、君はめかしこんでいるけど、今夜は君を誰が家まで送るのかな?
君がいつも夢中なあの人は、深夜の待ち合わせ場所で待っている
僕が心の中で死にそうになっていて、雄弁な舌が言葉を失っていることを、君はちょっとだけ考えたんじゃないかな
何年もかけて積み上げたものが一夜にして崩れてしまうんだ、今夜は終世僕が忘れられない日になるだろう

だって彼女は僕の世界を変えられなかった

彼女は僕の一番の良さを見なかったんだ
彼女は僕の世界を変えられなかった
彼女は決してそのことをわからないだろうけれど

僕は責任を取って、時が傷つけることを知る人間のように歩こうとする

君の目の涙を押しのけるように同情の気持ちが現れたけど、でも僕の部屋10Aで夜を過ごすことは二度と無かった
歳を取るに従って僕は悔やむことが増えていく、僕らは一緒に歳を取っていくと思っていたのに
でも僕にはわかっているんだ、愛が消え去るこの時、僕はここで静かに立ち尽くしていて、もう一年になるけど、まだ僕は話をすることが出来ないっていうことを

君だけが僕の世界を変えることができたのに

君はいつも僕の一番良いところを見てくれていた
君だけが僕の世界を変えることができたんだ
僕にはわからなかったんだけれど

僕は幸せな日々を思い出し、君を傷つけたことを忘れようとする

そして僕らがいつか再び出会えても、僕らはこれまで言ったことをまた言い合うんだろう
僕は酒場を渡り歩き心の傷を哀れむ
まるで逃亡中の自作の殉教者のように
そしてもし君が僕を今でも愛しているなら、ねぇ
僕にそのことを教えてくれないか?
 

It's Saturday night and you're dressed to the 9's, who will walk with you home tonight?
The one you could always turn yourself to is out on a late night rendezvous
Guess you've known for a while that I'm dying inside and this silver tongue's lost all it's words
What took years to build up takes a night to tear down, and this night will haunt me for the rest of my life

'Cause she couldn't change my world

She didn't see the best in me
She couldn't change my world
She'll never understand

Now I carry the can, try to walk like a man knowing time will just wound our heals

Sympathy fights through the tears in your eyes, couldn't take another night at 10A
It seems the older I get the more things to regret, I thought we would grow old together
But I know I'm standing here quiet as love fades away, in a year now I still can't speak

Only you could change my world

You always saw the best in me
Only you could change my world
I didn't understand

I will try to remember the Halcyon days, forget that I ever hurt you

And if we'll meet again some day, could we say things we ever said
Now I'm stalking the bars and I pity my scars, like a self made martyr on the run from it all,
And if somehow you love me still, baby, would you let me know?


【メモ】
スウェーデンのニュータイプなプログレッシヴ・ロックバンド、Moon Safari(ムーン・サファリ)の2010年の傑作アルバム「Lover's End」から、アルバムトップを飾るタイトル曲のpart 1である。

“ニュータイプ”とわざわざ断ったのは、いわゆるプログレッシヴ・ロック的な起伏のある大曲を揃えながら、何よりもアカペラ・ボーカルグループ顔負けの、本格的なボーカル・ハーモニーを主軸に据えている点が、今までのどんなプログレッシヴ・ロック・バンドにもない新しさと懐の広さを感じさせるからである。


多少なりとも似ているものを探すとすれば、強いて上げてイギリスのCapability Brownの「Voices」ぐらいだろうか。とにかくボーカルのハーモニーの美しさと、シングルカットできそうなメロディーをふんだんに盛り込みながら、安定した演奏でドラマチックに展開して行くというのは、すでに狭義のプログレッシヴ・ロックのイメージを逸脱し、ある意味その呪縛を解き放って、可能性を広げていると言っても過言ではないと思う。


さてそのタイトル曲の内容である。

爽やかなハーモニー、軽やかなリズム、哀愁のハーモニカ、甘いメロディー。こうした明るいイメージとは異なり、その内容は暗く悲しいものだ。タイトルが示すように、恋人が自分のところを去り、他の人のところに会いに行くのを黙って見送る苦しくも悲しい心模様が描かれているのだ。
  
第1連の1行目に出てくる「dressed to the nines」は「着飾って、盛装して、めかしこんで」という表現だ。土曜の夜、恋人たちが会い、二人だけの幸せな時を楽しむ時間である。しかしめかしこんでいる「君」は「僕」と一緒にいるのではなく、誰か他の人に会いに行こうとしているのだ。「君が夢中になっている人」が誰かは「僕」は知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。でも今日誰かが「君」と会うために待っているのだ。

今夜はそんな、「君」が「僕」以外の男性に初めて実際に会いに行くという、決定的な「恋人が恋人でなくなった日=恋人が終わった日」なのだろう。第1連3行目の「Guess」は「(I)guess」という風に補って取った。「君」は「僕」のことも多分多少は気には留めているのだ。 その上でやはり他の人に会いに行くことを選んだのである。


結局彼女は僕を代えられなかったんだ、そう「僕」は言う。ここでは「君」ではなく「彼女」と距離を置いて分析するかのように述べている。「君」と呼ぶような近い関係ではなくなったという気持ちの表れでもあるかもしれない。そうした喪失感、絶望感がこの「彼女」という言い方には感じられる。


第1連と第3連に、僕は話すことが出来ないという表現が出てくる。また第3連は「責任を取る(I carry the can)」という表現もある。さらに第5連(最終連)には「僕がかつて君を傷つけたことを忘れよう(forget that I ever hurt you)」とも「僕」は言っている。「僕」が別の男性の元へとめかしこんで今出て行こうとする「君」に何も言えないのは、結局過去に「僕」が冒した過ちが「君」を酷く傷つけたという事実があるからではないだろうか。


それは悔いても今更どうしようもないことなのだ。愛が消え彼女が去るのを黙って見ているしかないほどに、「僕」は彼女を傷つけたのだろう。最終連では自分のことを「自作の殉教者」と卑下すらしている。つまり「殉教者=愛のために命をも投げ出す人」を装っているんだと、自分を非難しているのだ。


しかし「僕」は彼女とずっと歳を重ねていきたかった。「幸せな日々(Halcon days)」を続けていきたかった。そして同じような表現が繰り返されるサビの部分が、2回目では「彼女」から「君」に、主語が変わっている。冷静に終わったこととして悲しみを受け入れようとしていた「僕」の中の思いが、やはり抑え切れなくなってきたかのようだ。まるで直接語りかけるように、かつてのHalcon daysの「君」の大切さを述べる内容になっているのである。


どのような事実が二人の間にあったかはわからない。もの凄く身勝手なことを「僕」は言っているのかもしれない。であったとしても、この押さえ切れない「君」への気持ちが、曲の途中から吹き出してきたかのような変化は、その切なさが聴く者の心に響く。


そして最後の言葉。「もし君が僕を今でも愛しているなら、ねぇ(baby)/僕にそのことを教えてくれないか?」何という悲しいつぶやきだろう。あくまで「僕」は黙って全てを受け入れようとしているのだ。でも心の中では「君」のことが好きで好きでたまらないのである。事情はわからない。でもこの最後の言葉には思わずジーンと来てしまったのだった。


この歌の歌詞は、僕の前から君が出て行くというある意味センセーショナルな場面を歌っている。しかもそれを押しとどめようとせず、何も言わず、ただ見送ろうとしている「僕」の心の苦しさが綴られているのだ。


しかしその切なさ・苦しさ・辛さに、美しいハーモニーと爽やかな曲調が、青春の1コマのような印象を与え、ドロドロした部分のない、みずみずしさすら感じられる世界になっているとことが、この曲の大きな魅力だと言えるだろうと思う。名曲である。


最後にお詫びを一つ。第3連の「at 10A」の意味がどうしても取れなかった。日本語訳には入れていない。ご存知の方がいらっしゃればぜひご教授いただきたい。



※ 「10A」についてlizardqueen7173氏から貴重なご意見をいただいた(下部コメントをご参照下さい)。そのご意見に沿って、「僕」の部屋の番号であると解して訳し直した。心から感謝いたします(2013.10.6)。
  

6 件のコメント:

  1. 本日、初めてこのブログを存じ上げました。
    これからちょっとずつ読ませていただこうと思っています♪
    Moon Safariは是非1stの曲もお願いしたいです
    (A Sun Of Your Ownとか)(笑)

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    1. コメントありがとうございます!
      Moon Safariは2ndと3rdしか聴いてなくて、1stは未聴なのです。
      申し訳ありませんが、しばらくお待ち下さいませ。やっぱり曲を聴かないで歌詞だけ訳すと、ちょっと不完全な感じがしてしまうので…。

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  2. KENSOの清水氏のブログで知りました。
    日本版の和訳より日本語らしい文章になっていて、書き方ひとつでこうも解釈が変わるのかと驚きました。
    Moon Safariは大好きなバンドですのでぜひたくさん書いていただけたら嬉しいです。
    これからも更新楽しみにしています!

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    1. コメントありがとうございます!
      勝手で独りよがりな意訳にはならいないように、でもできるだけ歌がどんな情景や心情を伝えようとしてるのかがわかるような訳とコメントを、と考えております。
      よろしくお願い致します。

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  3. 最近moon safariを聞き出した者です。
    「10A」ですが、CDジャケット内のこの曲の歌詞の左頁に、ドアの開いた部屋の写真があり、そのドアの横に「10A」と表示されています。部屋の中は真っ暗ですが、たぶん、ホテルかアパートの部屋と思われます。まずは、ご一報まで。

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    1. なるほど、そうでしたか!
      貴重なご意見をありがとうございました。
      さっそく参考にさせていただきます!

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