2010年9月18日土曜日

「再び赤い悪夢」キング・クリムゾン

原題:One More Red Nightmare








 
パンアメリカン航空の悪夢
1万フィート上空の遊園地
心配ないと言い聞かせ
地上の家にいるのと同じくらい安全だと断言する
僕は席に座って旅することの美点に
考えを巡らせていたのだ
その時高度が突然下がり
耳がキーンとし始める
またあの赤い悪夢だ
  
目眩とともに首筋を
汗が滴り落ち始める
運命が叫び声をあげるのが聞こえる
「この旅行を終わりにしなさい」
それは別れの白鳥の歌のよう
だって乱気流の凄さを知っているのか
スチュワーデスは僕に何かを強要するが
機長は逆にそれを禁止するのだ
またあの赤い悪夢だ
  
現実が僕を揺り動かす
天使が僕の言葉を耳にして
僕の祈りはかなえられ
刑の執行の取り消しが認められたのだ
悪夢は今霧散し
思考が突然目を覚ました
現実は安全無事
グレイハウンド・バスの中で眠っていただけ
また見てしまったあの赤い悪夢
  
 
Pan American nightmare
Ten thousand feet funfair
Convinced that I don't care
It's safe as houses I swear
I was just sitting musing
The virtues of cruising
When altitude dropping
My ears started popping
One more red nightmare

Sweat beginning to pour down
My neck as I turn round
I heard fortune shouting
"Get off of this outing"
A farewell swansong
See you know how turbulence can be
The stewardess made me
But the captain forbade me
One more red nightmare

Reality stirred me
My angel had heard me
The prayer had been answered
A reprieve has been granted
The dream was now broken
Thought rudely awoken
Really safe and sound
Asleep on the Greyhound
One more red nightmare

【メモ】
この曲が含まれているキング・クリムゾンの「Red」が発表されたのは1974年である。ここで「パンアメリカン航空の悪夢」という表現があるが、当時の実際のパンアメリカン航空の事故としては、1963年214便の航空機事故がある。214便が空港上空での着陸待機中に落雷に合い墜落、乗員乗客合わせて81名が犠牲なった事故だ。

それ以前にも1952年に202便ボーイング377機がブラジル奥地に墜落、乗員乗客50名が犠牲になるという事故も起きている。

ただ、当時特別にパンアメリカン航空に強い不安があったというよりは、飛行機ということで自然に出てきた航空会社名なのだろうと思う。1960年当時の世界の航空界のリーダー的存在であり、ビートルズの初訪米にもパンアメリカン航空が使われていたくらいなのだ。

だから「あの具体的なパンアメリカン航空の墜落事故という悪夢」ではなく、「誰もが乗るパンアメリカン航空機に乗って墜落するという『僕』の悪夢」という意味で解釈した。ただこうした事故の記憶は、当時この曲を聞く上で、恐怖のリアリティを増したであろうことは想像に難くない。

さてでは歌詞の内容を見てみたい。

まずタイトルの「one more red nightmare」であるが、「one more」とあるため、「僕」はすでに同じような悪夢を見た経験があることがわかる。それもかつての悪夢が今甦るという感じではなく、「またあの悪夢を見てしまった」というような感じである。幾度も繰り返される悪夢体験だ。

その悪夢はパンアメリカン航空機に自分が乗っているところから始まる。「1万フィート上空の遊園地(funfair)」という言葉は、すでにジェットコースターなどを思い起こさせる。「houses」の安全さとは違ったスリルと非日常の世界だ。そしてそれは大きな不安であることがわかる。

「気にしない(I don't care)」とわざわざ言うが、「convince」は「説得する/納得させる」という意味合いの言葉なので、自分に言い聞かせようとしている感じだ。「swear」も「誓う/断言する/保証する」という強い言葉なので、「safe(安全)」であると信じ込もうとしている「僕」の不安が逆に滲み出ている。そして不安を抑え込みながら、旅の楽しさにあれこれ思いを馳せようと努力していたのだろう。

しかし飛行機は急降下を始める。気圧の変化で耳がおかしくなる。聴覚という感覚の描写が恐怖イメージのリアルさを増す。そう、やっぱりまたいつもの墜落の悪夢が始まるのだ。「僕」は夢の中で、「これはまたいつもの悪夢じゃないか…」とわかっているのかもしれない。

第二連ではすでに「僕」はパニック寸前の状態にいる。「turn around」は「振り向く」と訳して、落ち着きない様子を描いていると言えなくもないが、ここでは「(頭が)ふらつく、めまいがする」という意味で取った。「振り向く」先に何かを見つけたり求めたりと動作が続いてはいないので、耳鳴りの後で「めまい」とした方が自然に思えたからだ。

「fortune」は「運命」を擬人化したのだろう。「Fortune」と大文字で始まっていないので、「(幸運をもたらす)運命の女神」ということではない。「運命」はそれが悪い方へと向うことを避けろと叫ぶ。しかしそれは「僕」にとっては「swansong(白鳥の歌:死に際の言葉)」でしかない。僕は「fortune」に対して思う。「乱気流の凄さを知っているのか?(こんな乱気流からどうやって脱出しろって言うんだ!)」

次の2行の訳が難しい。スチュワーデスと機長の態度を示す行だ。わたしはここでは具体的な命令や動作は示されていないものと解した。つまりスチュワーデスの「made(make)」と機長の「forbade(forbid)」を並べて対比させることが主眼なのだ。「make」は「make+人+to do」という形で、人に何かを「(強制的に)させる」という使役動詞の役割を持つ。これに対して「forbid」は「forbid+人+to do」という形で、人に「(…するのを)禁じる」という使われ方をする。

つまり何かを「無理矢理させようとするスチュワーデス」と「無理矢理させまいとする機長」という、両者の態度が真逆であることを示すことがここでは重要であり、それが機内の混乱、あるいは「僕」のパニックを現していると考えた。「made」、「forbade」と、動詞が韻を踏んでいるのも両者の対比を際立たせているように思う。

第三連で「僕」はハッと目を覚ます。飛行機の墜落あるいは飛行機が墜落するという悪夢から自分を救って欲しいという祈りが通じたのか、「僕」は事故死することもなく、悪夢から「突然(rudely)」意識を取り戻す。

そして問題はその後のラスト部分をどう解釈するかである。

悪夢から目覚めた「僕」は実は平和な場所にいた。そして「Asleep on the Greyhound」と続くのだが、これを「グレイハウンド・バスの中でひと眠り/またしても赤い悪夢を味わった」と日本語版ライナーノートの訳では解釈している。つまり最後の最後でまた悪夢に襲われ平和がくつがえされたわけだ。ドラマティックな気はするのだが、わたしはちょっと展開が急過ぎる感じがする。悪夢の重みが薄れる気がするのだ。

わたしはこれを、悪夢を見ていた自分を振り返って「実はグレイハウンドで眠っていただけだったんだ」と言っていると解した。飛行機の中(夢・悲劇)と対比させ、気づいたらバスの中(現実・平和)だったという状況の説明である。

だから最終行の「One more red nightmare」は「今また見てしまった赤い悪夢」という程度に訳した。単純に各連の最後を同じフレーズで揃えたに過ぎないのかもしれないけれど、そこに悪夢を見てしまったことの余韻を感じたい。

作詞はリチャード・パーマー・ジェイムズではなくジョン・ウェットン。「Greyhound(グレイハウンド)」とはアメリカ最大のバス会社で、その長距離バスそのものを指す場合もある。もしかするとツアーの移動中に見た夢とかが元になっているのかもしれない。

現実は平和であっても、こうした死に直面してパニックになる悪夢を繰り返し見ることは、精神的に決して平和な状態だとは言えない。「僕」の精神状態はレッド・ゾーンにあるのだ。アルバム「Red」が持つ異様な緊張感に、この歌詞も大きく貢献していると言えるだろう。

ちなみに「red」には血まみれのという意味もある。そういう意味では今回は「刑の執行は取りやめ」になったが、その先まで続く悪夢もあるのかもしれない。さらに「red」には「麻薬(特にマリファナ)に酔った、ハイになった」という意味もあるから、バッドトリップの歌という意味合いも潜んでいるかもしれない。いずれにしても「red」という言葉には不穏さが漂っているのだ。

最後にトリビアを一つ。Wikipediaには、この曲がまるでテープが切れたように唐突に終わるのは、収録時間を意識していたのではないかと書かれている。LP盤でのこの曲の収録時間は7:07と印刷されていた。当時のパンアメリカンを代表する旅客機は、ボーイング707型機であった。
  
 

3 件のコメント:

  1. ジョン・ウェットンの実体験を基にした歌詞なんだそうですよ。クリムゾンナンバーには作詞者の実体験で書かれた作品が他にもセラハンジンジートなどがありますね。

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    1. コメントありがとうございます。
      そうでしたか、実体験でしたか。しかしどこか奈落の底に落ちていく夢とか、割りとありがちですよね。飛行機に乗った経験があれば、落ちたらどうしようっていうは誰しも少しは考えることだし。
      でもそうした“良くあること”を、ちょっとコミカルな雰囲気も残しながら、重々しくハードな曲にしてしまうっていうのが、当時のKCの凄さかもしれないですね。

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  2. この曲滅茶苦茶かっこいいと思ってましたが歌詞もいいですね
    普通に疑問ですがこういう実在する会社の名前だして悪いイメージ付くような内容の歌詞唄っても大丈夫なんですかね?
    なんやかんやでクリムゾンは凄いなあ

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