2010年8月8日日曜日

「ムーヴィング・ウェイヴズ」フォーカス

原題:Moving Waves / Focus






 

揺れ動く波たちよ、風はお前から去ったのに
お前はそれでもまだざわめき立っているのか?
揺れ動く波たちよ、風はお前から去ったのに
お前はそれでもまだざわめき立っているのか?

われらはいまだ教えられた言葉を繰り返し続ける
その言葉はわれらの全存在を恍惚へと向わせる

波たちよ、お前たちはなぜそれほど興奮して
同時にまた冷静でいるのか?

われら個々の行動の背後には
共通の衝動が働いているからなのだ
われら個々の行動の背後には
共通の衝動が働いているからなのだ

上昇する波…その衝動の背後にはどんな動機があるのだ?
その衝動の背後にはどんな動機があるのだ?

それは上昇し続けようとする欲求


Moving waves, the wind has left you
And you're still in commotion?
Moving waves, the wind has left you
And you're still in commotion?

We are still repeating the word it has taught us
It moves our whole being into ecstasy

Waves, why do you all become excited
And then all calm together?

Because behind our individual action
There is one impulse working
Because behind our individual action
There is one impulse working

Rising waves...what motive is behind your impulse?
What motive is behind your impulse?

The desire to reach upwards


【メモ】
オランダ最強のプログレッシヴ・ロックバンド、フォーカス(Focus)の傑作アルバム「Moving Waves」より、アルバムタイトル曲にして、唯一のボーカル曲である。

ボーカルではなくヨーデル入りボイス・パフォーマンスとして、一曲目の「Hocus Pocus(悪魔の呪文)」で強烈な声を聴かせたキーボード&フルート&ボーカルのタイス・ヴァン・レアが、ピアノ伴奏だけで、まるでクラシックの歌曲のようなストイックな歌唱を聴かせる。

フォーカスはこのタイス・ヴァン・レアとギターのヤン・アッカーマンという、強烈な個性と自己主張のぶつかり合いから生まれたバンドで、クラシックやジャズの要素を大胆に取り入れたインストゥルメンタル曲を主体とする。

したがって、もともと言葉で何かを訴えようとするバンドではないこともあって、歌詞は抽象的である。ちなみに作詞はフォーカスのメンバーではない。「words: Inayat Khan」とクレジットされている。Inayat Khan(イナーヤト・ハーン、1882-1927)はインド音楽の名手にして思想家、そしてまたスーフィズム(イスラム神秘主義)の宗教家・伝道者でもあった人物。この歌詞は、おそらくその彼の著作物からの引用であろうと思われる。

「moving waves(揺れ動く波よ)」は、実際に目にする水面の波ではなく、いわば心の動揺であり、抑えがたい情動である。心の水面を波立たせた「wind(風)」は、もう消え去ってしまっている。しかしその風によって突き動かされた波のざわめきは、今も消えることは無い。風がもたらした「word(言葉)」は今も「われら」を「ecstasy(恍惚)」へと導いてくれるのだ。

「wind」とは、新しい音楽を作り上げようとする何かのきっかけのことを示しているように思われる。それはちょっとした出来事や発見だったのかもしれない。しかしその体験が終わっても、突き動かされた情動は消えることはなく、波は今も尚ざわめき立っているのだ。

なぜそうなったのかは自分でもわからない。興奮しつつ冷静さも失っていない波は、まさに何かを創造しようとする衝動そのものに他ならない。理由も無く湧き出る抑え切れない衝動。

話者は「I(わたし)」ではなく「We(わたしたち)」という主語を使う。「われら個々の行動の背後には/共通の衝動が働いているのだから」、「興奮しながら同時に冷静でいる」ことができるという。

つまり個人的体験ではなく、集団が持つ大きな衝動なのだ。狭く取ればバンドという小集団を指しているのかもしれないし、広く取れば1971年という時代の雰囲気を捉えていると言えるかもしれない。さらに広く取れば、気づかないけれどわれわれ皆が持っている原初的な衝動を述べているとも言える。

動き続け上昇し続ける波。その衝動の背後にあるのは何なのか?最後の一行はその答えとして訳した。それは「desire to reach upwards(上昇し続けようとする欲求)」。「reach upwards」は手をギリギリまで伸ばして、少しでも高みへと届こうとする様子であろう。
 
クラシカルな曲調と相まって、高みへ向う崇高な精神をも思わせる内容だ。著作物からの引用だとしても、この部分を選んで曲にしたことは、この2ndアルバム制作当時の、まさに新しい音楽を作らんとする意欲と情熱に、見事に合致した内容だったからに他ならないだろう。静かな曲調ながら、バンドの意欲と自信を感じさせる曲である。

 

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