2010年6月15日火曜日

「ヒート・オブ・ザ・モーメント」エイジア

原題:Heat of the Moment








「あの一時の激情」

君に酷く当たろうなんて思っていなかったんだ
それは決してしないと言っていた事
でも君からの一瞥に僕は君の信頼を失うんだと思い
この微笑みが顔から消えそうになった

僕らはよくダンスをしたものだよね
事情により何かが生まれ
それが次から次へと事を巻き起こした、僕らは若くて
一緒にまだ歌われていない歌を大声で歌おうとしていたんだ

それはあの一時の激情
僕の心の内を僕に告げていたもの
あの一時の激情
君の瞳に宿っていたもの

そして1982年の今
ディスコの人気店にはもう君は魅力を感じないし
君は何かより大きなものに関わることができるのだ
君は真珠を手にしドラゴンにまたがり空を飛ぶ

なぜならあれは一時の激情
あの一時の激情
あの一時の激情
君の瞳に宿っていたもの

君の容貌が衰え独りぼっちになった時
いく晩の夜を電話の傍らに座って過ごすだろう
いったい君が本当に欲したものは何だったのか
良く覚えているのは10代の頃の野心だけ

それはあの一時の激情
僕の心の内を僕に告げていたもの
あの一時の激情
君の瞳に宿っていたもの


あの一時の激情
あの
一時の激情
あの
一時の激情...



I never meant to be so bad to you
One thing I said that I would never do
One look from you and I would fall from grace
And that would wipe this smile right from my face

Do you remember when we used to dance
And incidence arose from circumstance
One thing lead to another, we were young
And we would scream together songs unsung

It was the heat of the moment
Telling me what my heart meant
Heat of the moment
Showed in your eyes

And now you find yourself in '82
The disco hot spots hold no charm for you
You can't concern yourself with bigger things
You catch the pearl and ride the dragon's wings

'Cause it's the heat of the moment
The heat of the moment
The heat of the moment
Showed in your eyes

And when your looks have gone and you're alone
How many nights you sit beside the phone
What were the things you wanted for yourself
Teenage ambitions you remember well

It was the heat of the moment
Telling me what my heart meant
Heat of the moment
Showed in your eyes

Heat of the moment
Heat of the moment
Heat of the moment ...

 
【メモ】
1982年、衝撃的なデビューを果たしたスーパーバンドAsia(エイジア)の1stアルバムから、最初のインパクトとなる第1曲目。シングルヒットもした、Asiaの代表曲でもあり、またプログレッシヴ・ロックの“その後”が、一つの完成形として示された曲でもある。

プログレッシヴ・ロックの余韻が感じられる、ドラマチックな展開を詰め込んだ3分間のポップな曲。これはすでにプログレッシヴ・ロックではないという意見も多いだろうけれども、プログレッシヴ・ロックを通過したからこそ生まれた音楽であることは間違いないだろう。

そしてその歌詞であるが、これが実に感傷的な内容なのである。1982年というまさにこのAsiaがこのアルバムでデビューした時点から、若かった過去の「一時の激情」による決別を振り返る歌なのだ。

内容は「僕」が「君」に語りかける設定である。かつて共に若く情熱と野心にあふれていた「僕」と「君」。事情は定かではないが、当時若かった「僕」と「君」に次々と降りかかった出来事の末、「僕」の意に反して二人は離れてしまう。その時の「一時の激情」の爆発によって。

恐らく「僕「が、心の中に隠して自ら気づかないでいようとしたもやもやした感情を自分がわかる「言葉」にして「君」にぶつけてしまったのだろう。それが「君」を傷つけ「君」は恐らく同じような感情の爆発を、無言の軽蔑的な眼差し(「one look」、「showed in your eyes」)として返してきたのだ。

ミもフタもない言い方をしてしまえば、かつて別れる事になった恋人に、あれは一時の激情の出来事だったと言い訳している歌。しかし自分と別れた彼女は、1970年代後半にはディスコに関心を持ち、1982年の今はそれにも飽きて、より大きな事柄に関わろうとしている。そう、竜と竜の玉を手にしたかのごとく。
 
しかし若い頃の美貌も年とともに失われた時、一人寂しく誰かから電話がかかるのを待ちながら夜を過ごし、残るのは若かった頃の野心の思いでだけだ、と「僕」は言う。そこには悔恨と未練の情が見え隠れしているように思える。今は成功している「君」。でもそれは若さがあってこそのもの。その先にはきっと孤独が待っていると。

そこにはむしろ過去を引きずっている「僕」という男の姿が浮かんでくる。

ちなみに竜の玉はインド起源の「如意宝珠」という神通力が込められた玉が起源だとか。五色に光るとされているようで、西洋のドラゴンには存在しないもの。ここではロジャー・ディーンのジャケットにあるような、中国的なドラゴンのイメージが用いられている。五色に光るというところから「pearl(真珠)」と言ったのだろう。ただし「wings(翼)」を持っている点は西欧的ドラゴンか。

そこでその「真珠を手にしドラゴンの背に乗って空を飛んでいる」「君」は、ドラゴンの万能性を手に入れたかのような成功している「君」の姿ではあるが、それは「僕」にとっては一時的なものに過ぎない、はかないものなのだ。躍動感あふれるファンタジックなロジャー・ディーンのジャケットアートは、「君」の力強い生き方を示しているのではなく、一時の夢、さらには「僕」の悲しみを示していると言えるのかもしれない。

こうしてAsiaは、より個人的な内容の詩を歌う事で、直前にジョン・ウェットンが参加していたプログレッシヴ・ロック・バンドU.K.以上に、音だけでなく歌詞の面でもポップになった。

しかしそれは、1970年代を共に過ごしてきたリスナーたちが、より若い世代のパンクやディスコ・ミュージックに居場所を見いだせないでいる中、過去に取り残された男の心情を描く事で、見事にその共感を得られた歌詞だとも言えるだろう。

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