2009年12月1日火曜日

「土曜日の本」キング・クリムゾン


原題:Book of Saturday







もし僕が君を欺くことさえできたらと思うよ
ゲームのことは忘れてね
君から離れようとするたびに
君は同じように笑うんだ

だって僕の車は決して道路に触れることはないし
僕らの交わしたウソの寄せ集めは
そのまま僕の背中に舞い戻って来て僕を押しつぶすから

僕らはカードをテーブルの上に置く
つまり互いの非難の言葉をね
そして僕は君の友だちのことは好きだと誓う
バンドの男たちのことさ

失ってしまった思い出
それは口論を伴って舞い戻ってくる
夜と昼の騒音の混乱の中で

申し分のない朝は
君の味方をしてまどろんでいる
僕は乗組員達を起こすつもりだよ
バナナボート旅行さ

ボートはリムジンのように応えてくれる
過ぎし日のおののき震える息づかいへ対し
サイレント映画のスクリーンを活気づかせるリムジンのように…

そこには苦しき者への救いがある
信じがたい光景の数々
僕はいつの日か君を信じようと思う
君の生と死そして夢を

だって絶望の騎兵隊が
その女性の髪の中で抵抗しているのだから
娘盛りに向う情熱に味方して…

君が僕の生活と時間を作り上げている
まるで陰鬱な土曜日についての書
そして僕は決心をせねばならない…


If I could only deceive you
Forgetting the game
Every time I try to leave you
You laugh just the same

'Cause my wheels never touch the road
And the jumble of lies we told
Just returns to my back to weigh me down. . .

We lay cards upon the table
The backs of our hands
And I swear I like your people
The boys in the band

Reminiscences gone astray
Coming back to enjoy the fray
In a tangle of night and daylight sounds. . .

All completeness in the morning
Asleep on your side
I'll be waking up the crewmen
Banana-boat ride

She responds like a limousine
Brought alive on the silent screen
To the shuddering breath of yesterday. . .

There's the succor of the needy
Incredible scenes
I'll believe you in the future
Your life and death dreams

As the cavalry of despair
Takes a stand in the lady's hair
For the fervour of making sweet sixteen. . .

You make my life and time
A book of bluesy Saturdays
And I have to choose. . .

【メモ】
デビューからの盟友ピート・シンフィールドと「アイランド(Island)」を最後に袂を分かち、バンド自体もロバート・フリップ以外のメンバーを一新して臨んだ、1970年代クリムゾンの後期のスタートを切る「太陽と戦慄(Larks' Tongues in Aspic)」からの一曲。

異様なテンションで聴く者を凍らせるようなアルバムタイトル曲パート1に続く、最初のボーカル曲である。

ピート・シンフィールドに代わって、このアルバムから詩を担当することになったのはリチャード・パーマー・ジェイムズ(Richard Palmer James)。ピートのようなイマジネイティヴな世界とは異なり、より現実的な内容、日常的な感情が描かれるようになる。その世界観の違いを感じさせる、新生クリムゾンの最初のボーカル曲だ。

登場するのは語り手である「僕」と、その恋人と思われる「君」。いきなり2人の複雑な関係を予感させる歌詞から曲は始まる。

「If I could...」というのは仮定法で、「もし…ができたらいいのに(実際はできないのだけれど)」という表現。「僕」は、2人の「ゲーム」のような恋愛関係を忘れ去り、「君」を欺いてでも君から離れることができればと願っている。 もちろん実際はできないことを「君」は知っているから、焦ることも怒ることも悲しむこともせず、いつも余裕の「笑い」を示すだけ。

それは「君」が、「僕」は決して出て行かないし、ゲームのように互いに交わしたウソの山に押しつぶされそうになっているのは「僕」だと知っているから。「wheels」は、「a set of wheels」で比喩的に車を意味するが、「wheels」だけでも同じ意味で使われる。出て行く時は車で出て行くということなのだ。「road」に「touch」しないとは、家の敷地から外へ出ないことを言っているのだろう。

互いに言いたいことを隠さずに言い合って、非難し合っても、結局最後には「僕」は「君のともだちのことは好きだ」と誓ってしまう。つまり「僕」は口論になっても負けてしまうのだ。バンドの男たちというのは、「君」の別の恋人たちなのかもしれない。 そして、もう過去のものとなった2人の思い出も、今となっては思い出せば口論の種にしかならない。

「on one's side」は「〜に味方して」という意味を持つことから、「朝の全ての完璧さは君に味方して眠りについているので」と付帯状況として捕らえ、訳を少しわかりやすく、朝文句なく幸せな気分で寝ていられるのは「君」だけ、と解釈した。

その頃「僕」は君を置いて、バナナボート旅行に繰り出そうと思う。「デェ〜ィ、オ〜」と歌い出す、明るい歌「バナナ・ボート・ソング(Banana Boat Song)」のヒットが1957年。そんな平和で明るくのどかなイメージがそこには込められているのかもしれない。

「She responds like a limousine」の「She」はバナナボートのことを指しているのだろう。船は女性として擬人的に扱われ、代名詞sheが使われることは良くある。バナナボートは「君」との間にこれまで交わされた口論や非難の応酬を忘れさせてくれるような、活き活きとした存在なのだ。「bring...alive」は「…を生き返らせる、活気づける」という意味。「limousine」を修飾していると取った。

それは「needy(貧しいもの、苦しんでいるもの)」、つまり「僕」 の救いとなる。君から離れた世界は信じがたい光景に満ちている。だから「僕」は「いつの日か」君を受け入れようと思うのだ。そんな日が来るだろうと思うのだ。それは、今は受け入れられないでいる「僕」の夢見る世界なのだ。

なぜ「いつの日か」なのかと言えば、「僕」に「絶望」をもたらす騎兵隊が、「君」がまさに美しい娘盛り(16歳と限らなくてもいいのだが)の魅力を増すために、その美しい髪の中で「僕」に常に抵抗しているからなのだ。ここはちょっと回りくどい表現だけれど、彼女の髪が象徴する女性としての溢れんばかりの魅力や美しさの前では、「僕」は何もできないということなのだろう。

こうして「僕」は「君」に全てを縛られていることを知っている。そしてそこから逃れられないことも、抵抗しても負けてしまうことも、1人旅立てればもっと活き活きした生活を送り、その時には「君」を受け入れられるようになるかもしれないことも知っている。

君はまるで「陰鬱な土曜日の書」なのだ。
ではタイトルにもなっている「土曜日の書」とは何か。

ここからは想像でしかないのでご了承願いたい。まず本アルバムが発表されたのは1973年。同じ年にエルトン・ジョン(Elton John)が「土曜の夜は僕の生きがい(Saturday Night's Alright for Fighting)」という大ヒット曲が生まれている。つまりその当時土曜日は、ハメを外す日、ウイークデイに縛られていた自分を解放する日というイメージが強かったと言える。

つまり土曜日になると「君」は「僕」を残し、友だちである「バンドの男」たちとハメを外し、日曜日の朝は幸せに満ち足りて眠っているのだ。もしかすると「僕」の隣ではないかもしれない。そんな陰鬱な土曜日、毎週繰り返される悲しみに満ちた日の記憶の集積。これが「陰鬱な土曜日の書」ではないか。苦悩の書である。

しかし最後の最後で「僕」は思う。「決断(選択)しなければならない…」と。 君をいつか受け入れられるようになるために、(「バナナボート」に乗り込んで)「君」から自由になる決断を。

しかし音楽的には、それまでの調子を崩すこと無く、淡々と終わる。だからこれもまた、わかってはいるけれど実行はできない、という心のつぶやきなのかもしれない。

身もふたもない言い方をしてしまえば、惚れちまったダメ男の煮え切らない歌とも言えるが、 非常に叙情的で美しい演奏と静かに歌い込むジョン・ウェットンのボーカルにより、「そうした感情や状況は、理屈ではわかっていても、現実には簡単に整理したり解決したりできない切なく苦しいものである」ことを感じさせる名曲となった。


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