2009年10月28日水曜日

「堕落天使」キング・クリムゾン

原題:Fallen Angel






弟が生まれた時に流した涙
その時から孤独ではなくなった
ナイフでやり合う危険にさらされ続けた16年間
不思議なことになぜ彼の命なんだオレのじゃなくて

空を背景にウエストサイドの建物が泣いている
墜落天使が死んでしまうのだ
はした金のために命を危険にさらして

街のストリートで過ごすという人生は
オレたちのような人間をつくりあげる
一瞬のさらに10分の1の速さで飛び出しナイフは刃を突き出す
車へ戻った方が身のためだ

寒々としたニューヨーク・シティの雪の降り積もった裏通り
彼の血で汚れ 全ては狂ってしまった
気持ちが悪く疲れ果て憂うつで不愉快でイライラした状態
こんなことがいつまで続くと言うのか

堕落天使
堕落天使

空を背景にウエストサイドの建物が
死に行く堕落天使のために泣いている
この街で命の火が消えようとしている

堕落天使…


Tears of joy at the birth of a brother
Never alone from this time
Sixteen years through knife fights and danger
Strangely why his life and not mine

West side skyline crying
Fallen angel dying
Risk a life to make a dime

Lifetimes spent on the streets of a city
Make us the people we are
Switchblade stings in one tenth of a moment
Better get back to the car

Snow white side streets of cold New York City
Stained with his blood it all went wrong
Sick and tired blue wicked and wild
God only knows for how long

Fallen angel
Fallen angel
West side skyline
Crying for an angel dying
Life expiring in the city

Fallen angel ...


【メモ】
1970年代キング・クリムゾンの最終アルバム「Red(レッド)」の2曲目、ボーカル曲としては最初の曲にあたる「Fallen Angel」。通常「fallen angel」は「堕天使(だてんし)」と訳されるが、ブックレットでは「堕落天使」と訳されている。


「fallen angel(堕天使)」とは、旧約聖書にある、もともとは天使の身でありながら、高慢、嫉妬、自由意志などの理由で、天界を追放(堕天:天から墜ちる)された者のこと。

ここでは話者がその誕生を「涙を流して喜んだ」 弟と、喧嘩ばかりの若者の世界に共に生きて、弟がニューヨークの裏通りでジャックナイフによって刺され、死んでいく姿を「天国」から「地獄」へと墜ちた「堕天使」にダブらせているのだろう。

「堕天使」=「悪魔」と解釈してしまう場合もあるようだが、少なくともこの詩においては、弟は「天使」なのである。「街のストリートで過ごすという人生」故に、彼は本来の天使でいられなかった。はした金に命をかけるような生活に身をやつすしか無かった。

聖書の「堕天使」が「天使」自身に問題があり、天界を追われるのとは違い、弟はなす術も無く、この若者のストリート環境の中で、「堕天使」とならざるを得なかった。どこか「ウエストサイド・ストーリー」的な、少年ギャング団抗争の犠牲者的なイメージが浮かぶ。

殺伐とした生き方。それでも大切だった弟。なぜ「オレ」の命ではなく弟の命が奪われることになったのか、苦悩する「オレ」。「オレ」を孤独から救ってくれていた最愛の弟。「オレ」には「天使」であり続けた弟。

冷酷で、寒々しく、血にまみれた光景とともに、そんな切ない思いが伝わってくる詩である。「オレ」は車に戻り早く現場から立ち去りたいと思う。そう思いながら、空を切り取るニューヨークの建物の影に目をやりながら、街全体が悲しみに浸っていると感じる。弟の死を悲しんでくれていると感じる。それは弟が「堕天使」本来の意味とは異なり、本質的には今でも「天使」であったからであろう。

「Fallen Angel(堕天使)」とは、少年同士の小競り合いの結果、ナイフで刺されて死ぬなんて最低な人生を送らねばならなかった、つまり地獄へ堕ちなければならなかった弟という天使を歌った歌なのだ。

「混乱こそわが墓碑銘」と歌ったデビューアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」のような、抽象的で装飾的な詩とは異なり、この最後のアルバムにおいて、よりリアルな、当時の裏の暗き世界、暗きムードを切り取って見せた曲。

叙情的な悲哀に満ちたメロディー、ドラマティックなコーラス、コルネット、オーボエ、トランペット、ギターのめくるめくも痛々しさの宿るサウンド。そして細かく切り込んでくるドラムス。名曲である。

6 件のコメント:

  1. こんにちは。
    http://www.youtube.com/watch?v=YpXgeCihz_o&feature=watch-vrec

    つべでこれを見て感動して、詩の意味を知りたくて
    ここに来ました。
    こんな内容だったんですね。有難うございます。

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  2. 少しお役に立てたのかなと喜んでおります。コメント有り難うございました!

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  3. 初めまして m(__)m
    この曲を初めて聴いた時、何となく70年代の日本のフォークというか、ニューミュージックシーンを彷彿とさせる曲調だなと思いました。
    例えば、中村雅俊や川島英五なんかが歌ってそうな・・・そんな印象を受けました。
    まあ、これは要するに日本のアーティストが、この曲に少なからず影響を受けたという事なんでしょうね。

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    1. コメントありがとうございます。
      こういうフォークっぽい素朴で叙情的なメロディーに、メタリックなギターや各種リード楽器などが絡んでくるところが、このバンドの一筋縄ではいかない魅力なんでしょうね。

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  4. 昔、この曲をFMではじめて聴いた当時、曲紹介では「堕ちた天使」と言っていたのを覚えています。

    当時の日本盤がそのような表記だったことに準じただけかも知れませんが、私はこの訳(というほどでもないか)が、とても気に入っていました。

    それだけに、「堕天使」、ましてや「堕落天使」という現在の定訳は、言葉の響きが非常に汚いため(リフレインで表記するとなおさら)、あまり好きになれません。これは当然、私の個人的好みに過ぎないのですが、死んだ「弟」へのレクイエムである、この美しい曲の呼び名は、私の中だけでは、これからも「堕ちた天使」であり続けると思います。

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  5. コメントありがとうございます。そうですね、「堕ちた天使」でももちろん良いと思います。
     
    ただこうも考えます。

    「fallen」が「死んだ」ことを意味すると限定すれば、「fallen angel」は「死んでしまった天使のような私の弟」となります。

    でも「fallen」を天から堕ちた、つまりまっとうな社会からこぼれ落ち、裏社会で生きるしか無くなったと取れば、「fallen angel」は「(オレにとっては天使だけど)天使にはなれなかった弟」というふうにも取れます。それは客観的に見れば、あるいは自虐的に見れば、堕落であり堕天使かな、と。

    そんなことをいろいろ考えつつ、歌の世界を味わっております。

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