原題:Still...You Turn Me On / Emerson, Lake & Palmer
Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)収録
君は天使になりたいのかい
君は星になりたいのかい
君は僕のギターに
なにか魔法をかけたいのかい?
君は詩人になりたいのかい
君はギターの弦になりたいのかい?
君なら何にでもなれる
君は誰か他の秘密捜査員の恋人になりたいのかい?
君なら月に降り立つことだってできる
君は演奏者になりたいのかい
ギターの弦になりたいのかい
僕に言わせておくれ - それは何の意味もないこと
見せかけの自分に溺れてしまえば もう何の意味もなくなることがわかるはずさ
君の目を覆う黒いガラスによって
君の肉体は結晶化してしまっているけれど
それでも…僕は君に夢中なんだ
君は僕が頭をのせる枕になりたいのかい
君は僕のベッドの中の羽毛になりたいのかい?
君は雑誌のグラビアを飾りたいのかい;大騒ぎを巻き起こしたいかい?
日ごとに少しずつ悲しさが増し 頭がおかしくなっていく
誰かが僕にはしごを持ってきてくれるかな
君は歌手になりたいのかい
君は歌そのものになりたいのかい
僕に言わせておくれ - 君はもう十分に酷い状態さ
君だって すべてがあまりに激し過ぎると 僕が君に言わなければならないってわかるだろう
僕の経験から言えば それは何の意味もなしてはいないのさ
ただそれでも…僕は君に夢中なんだ
Do you wanna be an angel,
Do you wanna be a star,
Do you wanna play some magic
On my guitar?
Do you wanna be a poet,
Do you wanna be my string?
You could be anything.
Do you wanna be the lover of another
Undercover? you could even be
The man on the moon
Do you wanna be the player,
Do you wanna be the string,
Let me tell you something - It just don't mean a thing.
You see it really doesn't matter when you're buried in disguise.
By the dark glass on your eyes,
Though your flesh has crystallised;
Still...you turn me on.
Do you wanna be the pillow where I lay my head,
Do you wanna be the feathers lying in my bed?
Do you wanna be the colour cover of a magazine; Create a scene.
Every day a little sadder, a little madder,
Someone get me a ladder.
Do you wanna be the singer,
Do you wanna be the song?
Let me tell you something - You just couldn't be more wrong.
You see I really have to tell you that it all gets so intense
From my experience it just doesn't seem to make sense
Still...you turn me on.
【メモ】
エマーソン,レイク&パーマーの最高作と言われる「恐怖の頭脳改革(Brain Salad Sergery)」から、ベース&ボーカル&ギターのグレッグ・レイクが弾き語るように歌う叙情的な小曲。荘厳な「聖地エルサレム」、ヘヴィーな「トッカータ」と続いた後に来る、一服の清涼剤的なアコースティックな曲だ。
曲は「僕」が「君」に語りかけるような歌詞になっている。タイトルの「Still...you turn me on」から先に見てしまうと、まず「still」は「今でも、それでも」という意味。「…」で、ちょっと言いよどんで、「you turn me on」(君は僕を夢中にさせる)というふうにやわらかく解釈したが、「turn...on」は「刺激する、その気にさせる、性的に興奮させる」という意味を持つ表現。だからちょっと下品な表現にすれば「君にムラムラしちゃうぜ」っていう感じか。
そこでまず“健全な解釈”をすると、この曲は愛する「君」への告白の歌となるだろう。「君」という女性はあれになりたいこれになりたいと自由気まま、勝手気ままに「僕」の周りにいる。しかしなりたいものは夢物語のようにたくさんあるのに「僕」自身へは目を向けてくれない。
「君ならなんでもなれる」、「誰か他の秘密調査員の恋人になりたいのかい」と、ちょっと冷静に皮肉ってみようとするけれど、第2連では、それは君自身ではない、見せかけの自分を求めているだけだと言い放つ。そしてすでに君は自分でも気づかないまま目は黒いガラスで覆われ、からだは結晶のように固まってしまっているのだ。
でも、それでも「僕は君に夢中なんだ」という一言が切ない。
第3連、第4連では、どうやら「僕」は「君」の自由な言動や振る舞いに振り回され、疲れ果てているかのような様子がうかがえる。「誰かはしごを持ってきてくれる」というのは、今いる状態から「降りたい」気持ちの表現だろうか。
第4連では「君は(それ以上悪くなれないほど)酷い状態さ」と「君」を非難する。でも、最後にはやはり「僕は君に夢中なんだ」と言ってしまう。
振り回されつつ、それでも「君」から離れられない「僕」が描かれた、切ない気持ちを描いたラヴ・ソングだ。深読みすれば、「君」への愛情はないのかもしれないが、性的魅力は絶ちがたい存在なのかもしれない。
さて、ではさらに深読みするとどうなるか。実は「turn on」には「ドラッグ体験をさせる、酔わせる」という意味がある。そうした視点から歌詞を見直してみると、「君」はドラッグを擬人化しているようにも思えてくる。「君」がしたいことは「僕」がドラッグ使用中に体験する幻覚。「君」が幻覚としてみせてくれるものの数々。「your flesh has crystallized」とあるが、ドラッグのうちコカインやヘロインは粉末状の結晶(crystal)、LSDも純粋なかたちでは透明な結晶(crystal)である。
つまり「何にでもなれる」ような幻覚を見せてくれるドラッグに対して、そんなことを続けていても、自分を欺いているだけで何の意味もないという思いで、日々苦しさを増していく自分。もう最低のところまで落ちてしまったと思う自分。もう限界ギリギリのところまで来てしまった自分。最終連の「it all get so intense(すべてが激し過ぎる)」も意味深である。
それがわかっていながら、「それでも…お前(ドラッグ)は僕を快感に導いてくれるんだ」と、ドラッグを断ち切れない自分をさらけ出した歌。「…」の沈黙部分がとても重い。
もちろんグレッグ・レイクがドラッグ中毒に近かったかどうかは知らないし、それを以てこの曲がドラッグを歌ったかどうかを決めつける必要もない。しかし当時ドラッグ、あるいはドラッグによるトリップ体験が、リスナーの共感を得ることを知った上で、そうした深読み可能な歌詞になっているとは言えるのではないだろうか。
ちなみにアルバムタイトルの「Brain Salad Surgery」も『非常に性的な意味を含んだスラング』(Wikipedia「恐怖の頭脳改革」より)であると言われる。とすれば、そのアルバムの曲にドラッグを連想させるイメージが含まれていても、違和感、異質感は感じられないであろう。それはEL&Pの特徴というより、恐らくドラッグや性的イメージを自然に受け入れる時代の雰囲気があったのではないだろうか。
グレッグ・レイクの美しい声に浸りながら、深読みの楽しさも味わいたい名曲。
なおアルバムタイトル「Brain Salad Surgery」に関する考察はこちらでどうぞ。
Brain Salad Surgery(恐怖の頭脳改革)収録
君は天使になりたいのかい
君は星になりたいのかい
君は僕のギターに
なにか魔法をかけたいのかい?
君は詩人になりたいのかい
君はギターの弦になりたいのかい?
君なら何にでもなれる
君は誰か他の秘密捜査員の恋人になりたいのかい?
君なら月に降り立つことだってできる
君は演奏者になりたいのかい
ギターの弦になりたいのかい
僕に言わせておくれ - それは何の意味もないこと
見せかけの自分に溺れてしまえば もう何の意味もなくなることがわかるはずさ
君の目を覆う黒いガラスによって
君の肉体は結晶化してしまっているけれど
それでも…僕は君に夢中なんだ
君は僕が頭をのせる枕になりたいのかい
君は僕のベッドの中の羽毛になりたいのかい?
君は雑誌のグラビアを飾りたいのかい;大騒ぎを巻き起こしたいかい?
日ごとに少しずつ悲しさが増し 頭がおかしくなっていく
誰かが僕にはしごを持ってきてくれるかな
君は歌手になりたいのかい
君は歌そのものになりたいのかい
僕に言わせておくれ - 君はもう十分に酷い状態さ
君だって すべてがあまりに激し過ぎると 僕が君に言わなければならないってわかるだろう
僕の経験から言えば それは何の意味もなしてはいないのさ
ただそれでも…僕は君に夢中なんだ
Do you wanna be an angel,
Do you wanna be a star,
Do you wanna play some magic
On my guitar?
Do you wanna be a poet,
Do you wanna be my string?
You could be anything.
Do you wanna be the lover of another
Undercover? you could even be
The man on the moon
Do you wanna be the player,
Do you wanna be the string,
Let me tell you something - It just don't mean a thing.
You see it really doesn't matter when you're buried in disguise.
By the dark glass on your eyes,
Though your flesh has crystallised;
Still...you turn me on.
Do you wanna be the pillow where I lay my head,
Do you wanna be the feathers lying in my bed?
Do you wanna be the colour cover of a magazine; Create a scene.
Every day a little sadder, a little madder,
Someone get me a ladder.
Do you wanna be the singer,
Do you wanna be the song?
Let me tell you something - You just couldn't be more wrong.
You see I really have to tell you that it all gets so intense
From my experience it just doesn't seem to make sense
Still...you turn me on.
【メモ】
エマーソン,レイク&パーマーの最高作と言われる「恐怖の頭脳改革(Brain Salad Sergery)」から、ベース&ボーカル&ギターのグレッグ・レイクが弾き語るように歌う叙情的な小曲。荘厳な「聖地エルサレム」、ヘヴィーな「トッカータ」と続いた後に来る、一服の清涼剤的なアコースティックな曲だ。
曲は「僕」が「君」に語りかけるような歌詞になっている。タイトルの「Still...you turn me on」から先に見てしまうと、まず「still」は「今でも、それでも」という意味。「…」で、ちょっと言いよどんで、「you turn me on」(君は僕を夢中にさせる)というふうにやわらかく解釈したが、「turn...on」は「刺激する、その気にさせる、性的に興奮させる」という意味を持つ表現。だからちょっと下品な表現にすれば「君にムラムラしちゃうぜ」っていう感じか。
そこでまず“健全な解釈”をすると、この曲は愛する「君」への告白の歌となるだろう。「君」という女性はあれになりたいこれになりたいと自由気まま、勝手気ままに「僕」の周りにいる。しかしなりたいものは夢物語のようにたくさんあるのに「僕」自身へは目を向けてくれない。
「君ならなんでもなれる」、「誰か他の秘密調査員の恋人になりたいのかい」と、ちょっと冷静に皮肉ってみようとするけれど、第2連では、それは君自身ではない、見せかけの自分を求めているだけだと言い放つ。そしてすでに君は自分でも気づかないまま目は黒いガラスで覆われ、からだは結晶のように固まってしまっているのだ。
でも、それでも「僕は君に夢中なんだ」という一言が切ない。
第3連、第4連では、どうやら「僕」は「君」の自由な言動や振る舞いに振り回され、疲れ果てているかのような様子がうかがえる。「誰かはしごを持ってきてくれる」というのは、今いる状態から「降りたい」気持ちの表現だろうか。
第4連では「君は(それ以上悪くなれないほど)酷い状態さ」と「君」を非難する。でも、最後にはやはり「僕は君に夢中なんだ」と言ってしまう。
振り回されつつ、それでも「君」から離れられない「僕」が描かれた、切ない気持ちを描いたラヴ・ソングだ。深読みすれば、「君」への愛情はないのかもしれないが、性的魅力は絶ちがたい存在なのかもしれない。
さて、ではさらに深読みするとどうなるか。実は「turn on」には「ドラッグ体験をさせる、酔わせる」という意味がある。そうした視点から歌詞を見直してみると、「君」はドラッグを擬人化しているようにも思えてくる。「君」がしたいことは「僕」がドラッグ使用中に体験する幻覚。「君」が幻覚としてみせてくれるものの数々。「your flesh has crystallized」とあるが、ドラッグのうちコカインやヘロインは粉末状の結晶(crystal)、LSDも純粋なかたちでは透明な結晶(crystal)である。
つまり「何にでもなれる」ような幻覚を見せてくれるドラッグに対して、そんなことを続けていても、自分を欺いているだけで何の意味もないという思いで、日々苦しさを増していく自分。もう最低のところまで落ちてしまったと思う自分。もう限界ギリギリのところまで来てしまった自分。最終連の「it all get so intense(すべてが激し過ぎる)」も意味深である。
それがわかっていながら、「それでも…お前(ドラッグ)は僕を快感に導いてくれるんだ」と、ドラッグを断ち切れない自分をさらけ出した歌。「…」の沈黙部分がとても重い。
もちろんグレッグ・レイクがドラッグ中毒に近かったかどうかは知らないし、それを以てこの曲がドラッグを歌ったかどうかを決めつける必要もない。しかし当時ドラッグ、あるいはドラッグによるトリップ体験が、リスナーの共感を得ることを知った上で、そうした深読み可能な歌詞になっているとは言えるのではないだろうか。
ちなみにアルバムタイトルの「Brain Salad Surgery」も『非常に性的な意味を含んだスラング』(Wikipedia「恐怖の頭脳改革」より)であると言われる。とすれば、そのアルバムの曲にドラッグを連想させるイメージが含まれていても、違和感、異質感は感じられないであろう。それはEL&Pの特徴というより、恐らくドラッグや性的イメージを自然に受け入れる時代の雰囲気があったのではないだろうか。
グレッグ・レイクの美しい声に浸りながら、深読みの楽しさも味わいたい名曲。
なおアルバムタイトル「Brain Salad Surgery」に関する考察はこちらでどうぞ。
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