原題:Lady of the Dancing Water
■リザード(Lizard)収録
「ゆらめく水の乙女」
日向で身体を伸ばすライオンのようなあなたの髪の中の草は
絶え間なくあなたの唇を舌で湿らしていた。
ワインを注ぎながら あなたの目はわたしの目を籠に綴じ込め 輝かせた。
あなたの顔に触れると わたしの指は無意識に動き回り 悟った。
あなたをゆらめく水の女神と呼ぼう。
あぁ 美しきゆらめく水の乙女よ。
あなたがわたしを横たえた焚き火へと落とされた 茶色の秋の葉が
ちょうどわたしの現在の日々がそうであるように 燃えて静かに灰になる。
わたしはあなたを今でも感じる その瞳は常に 輝き
思い出される時は苦く 大地と花々は 流れ去る。
さようなら ゆらめく水の乙女よ。
Grass in your hair stretched like a lion in the sun
Restlessly turned moistened your mouth with your tongue.
Pouring my wine your eyes caged mine glowing
Touching your face my finger strayed knowing.
I called you lady of the dancing water.
Oh lovely lady of the dancing water.
Blown autumn leaves shed to the fire where you laid me
Burn slow to ash just as my days now seem to be.
I feel you still always your eyes glowing
Remembered hours salt, earth and flowers flowing.
Farewell my lady of the dancing water.
【メモ】
King Crimsonのサードアルバム「リザード(Lizard)」から、LPではA面最後となるアコースティックな小曲。作詞はおなじみ当時の作詞&ライティング担当のメンバーだったピート・シンフィールド。
メル・コリンズの美しくきらびやかなフルートから始まる静かな曲。ボーカルのボズ・バレルも柔らかな声で歌う。ロバート・フィリップもアコースティック・ギターを弾く。大曲「Lizard」が始まる前の静けさ。3分にも満たない夢のような曲だ。
「あなた」は「わたし」が恋した女性なのだろう。その美しさはゆらめく水の乙女、あるいは女神(the lady of the dancing water)のよう。つまり活き活きと生気にあふれキラキラと眩く輝いている女性なのだ。
髪の毛はまるで水の中でたゆたうようで、水辺の草のように色の変わったように見える部分は太陽の下でゆったりとしているライオンのたてがみを思わせるように豊かだったのだろうか。ここでは「Grass」が主語で、次の行の「turned」が動詞だと考えられるから、その豊かな髪の毛が口元にもかかり、まるで舌で唇を潤しているような光景が浮かぶ。ちょっとエロチックで誘惑的なイメージだ。
しかし注意したいのは第1連は全て過去形だということ。現実には「わたし」は「あなた」とワインを飲んでくつろいでいるのか、あるいは食事をしているのか、そにかくそうした事が過去の事としてあったのを思い出しているのだ。
その時「わたし」の指は「あたな」の顔に触れ、手を離すことができなくなり、そしてゆらめく水の乙女(the lady of the dancing water)という言葉が浮かぶ。
後半。「わたし」は川で溺れたところを助けられたかのように「あなた」に暖炉の近くへと運ばれる。そこで暖炉にくべられている枯れ葉は静かに灰になっていく。それはまさに自分自身の今の姿を思わせる。
「あなた」と「わたし」の出会いは、水で溺れた者と助けた者のような一時だけの関係。そして「わたし」の思いとは違い「あなた」は事が終わると立ち去っていった。残された「わたし」は暖炉で燃える葉を思いながら、自分の空しい日々に思いをはせる。
第1連の「grass」のみずみずしいイメージと好対照な「leaves(leafの複数形)」の暗さ。それは「わたし」にとって「あなた」の存在がほんの一時だけだったこととも呼応する。「Oh Lovely Lady of the dancing water」と讃え燃え上がる「わたし」の気持ち、そして「Farewell my lady of the dancing water」と悲しみつつ別れを受け入れようとする今の気持ち。
「my lady」と「the」ではなく「my」を使っているところに、未だ熱き思いを持ち続けている「わたし」の思いが垣間見えるようである。
「Lizard」自体がまだまだ正当な評価を受けているとは言いがたい。いわゆる形式的なプログレッシヴ・ロックの決まり事など何もなく、ロックとフォークとクラシックとジャズの間を自然に行き来するアルバムタイトル曲「Lizard」の凄さはまさに唯一無二な、ここだけにしかない世界だ。
そんなアルバムにひそやかに咲いている一輪の幻想的な花のような曲である。
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